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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
螺旋の恋人
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第三話 捜査③

 その後、俺は南方さんに連絡を取り、小町さんが特に親しくしていた松尾さんと崎野さんの今住んでいる現住所を教えてもらった。

 二人とも桐之座町から離れた街に住んでいて、ここから電車に乗って二十分のところにある(ささ)()(やま)町という街だ。

 桐之座町の次のくらいに大きな街で、天然の温泉が有名。あまり出向くこともないが一年前、とある事件で向かったことがあるぐらい。

 街には娯楽施設、温泉街とどこもかしこも温泉を全体的にアピールしている。

 そういえば、八色さんと初めて出会ったのもこの街だった。こう考えれば、またこの街に事件で訪れることになるとは考え深いものがあるな。

 駅から近いのが崎野さんの家で、実家暮らしらしい。南方さんに人柄を尋ねると、温厚な性格で友人を大切にしていた。

 小町さんの自殺事件で一応、事情聴取したことのある仲間の刑事にわざわざ聞いてくれたのだ。

 彼の為にもこの事件は必ず解決しなければ。

「ねぇ助手くん、随分と久し振りじゃない?」

「ん……何が?」

 考え事をしてしまったせいか、全く話を聞いてしなかった。この事がバレてしまえばきっと響子さんは激怒してしまう。

 それだけは勘弁だ。何とか話を合わせておこう。

「何って、貴方また私の話を聞いてなかったのね?」

「いや、聞いてたよ! 俺が響子さんの言葉を聞き漏らす訳ないだろ? アレだろアレ。そうだな、久し振りだな。ハハハハ」

 彼女はニヤリと笑う。嫌な予感がする。あの顔は犯人が分かった時にするあの顔だ。しまった、バレたか?

「そうね、貴方がそんな最低なことしないわよね。で、助手くんは今の話どう思ってる?」

「えっと、そうだな……難しいと思うぞ。うん」

「え? あの時は簡単だって言ってたじゃない。まさか話を聞いてなかったとか言わないわよね?」

「すいません、考え事していて聞いてませんでした!!」

 隣に座っている響子さんに全力で頭を下げた。幸いにも周りに人はいなかった。だが、彼女の表情は呆れ半分であとは怒っていた。

「やっぱり怒ってる……よな」 

「怒ってるの何も、呆れてるのよ。どうして貴方は嘘をすぐつくの。最初から正直に聞いてなかったっていればいいのに。はい、ごめんなさいは?」

「ごめんなさい」

「今回は大した話じゃなかったけど、聞き逃せない状況だったらどうするのよ。今度から気を付けなさいよ」

 響子さんのお叱りで、俺はしっかり反省したところでようやく電車が止まり笹嘉山町に到着した。

 駅から降り、南方さんに教えてもらった住所に向かって歩を向ける。一年前とはあまり変わらず、温泉独特の硫黄の匂いが鼻孔を(かす)る。


「やっぱり、温泉の匂いって独特よね」

「嫌いか?」

「いいえ、寧ろ好きよ。助手くん、ここに来るのは随分と久し振りね。あの事を思い出すわ」

 響子さんは流れる川を見つめ、雪の解けた地面をしっかりと踏み、歩き出しながらこちらを見ずに話しかける。

「あの事……? あぁ、八色さんの事か。丁度、あの温泉宿の軒下にいたんだよな」

 いたんじゃなくて、どちらかと言えば捨てられていたと言うべきか。あの鋭い目つき、覇気の感じられない表情。思い出すだけで今の彼女とは到底思えない。

 律動院八色は、憑き人の名家、律動院家に生まれ生まれてすぐに過酷な修行に身を投じた。

 母親にもきつく当てられ、身の傷は絶えなかったと彼女はどこか懐かしむように語っていた事を一年前、同情を禁じ得なかった俺は心を(えぐ)られるような感覚に陥りながらも聞いていた。

 彼女は父親と愛人の仲に生まれた。その出生は望まれてなどいなかった。生きてきてからずっと心に闇を抱え、身の傷を数えながら夜を越えた。

 父親の愛人は八色さんの育児を放棄。それを見かねた律動院家の当主は本家で預かることを決定し、憑き人の修行を始めた。

 結果十六歳の時、心が壊れ、誕生日の日に律動院家から消えた。

 そして今通りかかる温泉宿の女将に助けてもらい四年間、お世話になって、俺たちに出会った。

「あの時は、安瀬馬さんもいたよな」

「ある意味私たちは運命の出会いに立ち会ってたのよね。感慨深いわね」

 その宿を横目に通り過ぎ、目的地に歩を進める。

「やっぱり夕方になると寒いわ。急いで行きましょ」

 早足で、崎野さんの実家に到着した。

 家には明かりが点いていて、家族で談笑している声が聞こえる。こんな声が聞こえてしまうと事情聴取する気が少々そがれてしまう。

「どんな作戦で行く?」

「ここは正直に探偵って言いましょ。警察に依頼されて事件解決のために動いている。相手が気になったら、南方さんに連絡して証言してもらえばいいし」

「今回は何で警察手帳を見せないんだ?」

「私たちのは桐之座警察署の手帳でしょ。ここは何処?」

「あっ、そういうことか……」

 つまり、管轄地域外だからか。

 俺が納得したと同時にインターホンを何の躊躇も無く、押す。程なくして父親らしき初老の男性が疑問の症状を浮かべながら出てくる。

「何でしょうか?」

「こんばんわ。私たちは織神探偵事務所の者です。こんな時間に申し訳ありません。私は織神響子と申します。隣は香澄准兵くんです。私たちは(さき)()(とも)()にご用件があって参りました」

「と、言いますと?」

 怪訝な顔をしながら問い返す。

「坂牧卓さんの事についてです。昨日(さくじつ)彼の凍死体が発見されたので、その事件の解決を警察から受け、彼に虐められたと思われる知代さんにお話を。確認されますか?」

「分かりました……。今呼んできます。おーい、知代。お前にお客さんだ」

 崎野さんはエプロンを取りながら、玄関に来て、俺たちに頭を下げる。

 そこで簡易的に事情を説明した。

「こんばんわ、崎野さん。いきなりで大変申し訳ありませんが質問させて頂きます。坂牧さんにお金をせびられていましたか?」

「……はい。高校の時、何回もカツアゲされました。断れば殴られていたので、怖くて……。正直言えば、罰が当たったんだと思います」

「小町さんの事も絡んでいますね?」

「どうしてそれを!?」

 目を大きく見開き、響子さんに驚きながらも質問する。

「彼女の事を教えてもらえますか?」

「はい。()(すみ)は優しくて、クラスでも人気者でした。そのことで彼に目を付けられてずっといじめられていました。それを見ていた松尾くんは彼に何度も何度も止めるように言って。松尾くんは真純の事が好きでした。だから……」

「だから?」

「喧嘩したんです。学校には知られていませんが。次の日、ボロボロになった二人の姿が。それでも、いじめは続きました。卒業するまで……ずっと」

「そうですか。分かりました。ご協力ありがとうございました。では、私たちはこれで失礼します」

 そう言って、俺たちは崎野家を後にした。

 彼女の話を聞いて、坂牧さんの殺される理由がなんとなく分かった気がする。恐らく金関係のもつれだろう。

 だとすれば、一体誰が犯人なんだ?

 そして、響子さんの携帯電話が鳴る。

「もしもし――」

徐々に明らかになって来た今回の事件。

小町さんの存在がどう関わって来るのか?

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