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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
螺旋の恋人
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第一話 捜査①

 月日が流れて二月。節分などで盛り上がっている中、世間はそれよりも大きなイベントに胸を躍らせていた。

 世間は今、バレンタインデーで話題は持ちきりなのだ。

 あの自殺事件以来、この町では何も起こっていない。静かな日常が送られている。このまま何も起こらなければいいが。

 話が変わるが、あと三日ほどでバレンタインデーが来る。いつもなら女性が男性に渡すのが主流だろうが、俺の場合は違う。俺が作り、響子さんに渡す。

 それ以来俺はスイーツ作りにはまってしまい、この時期になると家に籠って新たなチョコ料理を自作している。

 二年前食べてからと言うのも、どうやら作ったチョコがえらく気にってしまったらしい。

 買い出しは事務所帰りでもいいとして、今年はどんな趣味趣向を凝らした物を作ろうか。ちょっとだけ苦めに作って響子さんの反応を見るのも楽しみだな。

 今日で試作品を作ってしまってから、味見をして明後日には完成品を作る。そして明々後日にはそれを渡す。

 予定は決まった。後は厄介な事件が起きらないことを祈るばかりだ。

「ただいま響子さん」

 事務所の扉を開けて挨拶をする。今日は大学の講義があったせいで、朝ごはんを作り大学に行った。

「あー、お帰り香澄」

 素っ頓狂な声。疑問に思いながらソファーに目を向けると、そこには三部がコーヒーを飲みながら座っている。コーヒーは自分で淹れたのだろうか。

 まぁ、それしか考えられないが。

「なんで、お前がいるんだよ。大学の講義はもう終わったのか?」

「終わって、遊びがてらに寄ったんだよ。あ、それとね。このコーヒー誰が淹れたと思う?」

 コーヒーカップを指差しながら尋ねてくる。

「そりゃ、お前じゃないのか? 他に誰が……」

 響子さんの方をチラッと見て、そんなわけないかと首を傾げた。

「これ淹れたの響子なんだよー! すごいでしょ!」

「え!? これが、本当か響子さん?」

 コーヒーをまじまじと見つめながら、彼女に問うと彼女は見たことのないような自慢顔で胸を張ってみせる。

 確かに人が飲めるコーヒーを淹れるなんてこれな進歩だ。

 これは人類にとっては小さな一歩だが、響子さんに取っては大いなる一歩だ。今日はとんでもない事が起きそうな気がしてくる。

「どう? 私だって成長してるのよ。これでもう出来ないことは無いわ。助手くん、私を褒め称えなさい。私のほっぺたが千切れるぐらいにね!」

「でも、これ淹れるだけで二時間かかったけどね」

「ちょっと、それは言わない約束でしょ!」

 三部が俺にそう教えると、響子さんは指を差し何やら色々と言っている。隠れて努力していることをバレたく無かったのか。

「いや、すごいよ響子さん。じゃあその努力の結晶のコーヒーを飲もうかな」

「それがね、もう残ってないのよ。材料はあるけど。分かったわ、もう一度最初から作るわ。今度は一人でね、助手くん。土下座して喜びなさい!」

 

 十分後。

 響子さんは意気揚々として、自ら作ったコーヒーを運んできた。見るからに表情は楽しそうで、飲んで驚けと目で語っている。

「はい、どうぞ!」

「ん、ありがとう。さて、飲んでみるか……」

 唾を飲み込む。見た目はいつも俺が作っているコーヒーと何の遜色もない。問題は……味だよな。

 意を決してコーヒーを一口飲む。

「!?」

 俺の反応を今や遅しと見つめている響子さん。

「どう? 美味しい? 本当の事言いなさいよ。それじゃないと成長できないわ」

「……本当に言っていいのか?」

「さっさと言いなさい。男らしくないわよ」

「申し訳ないけど、すごい不味い」

 カップを置いて、恐る恐る響子さんの方を向くととても悔しがっていた。いつもと反応が違う。それが逆に怖くなる。

「また失敗したわ。これで何回目なの結?」

「これで三十回目。でも、三回は成功してるよ。確率的に、十回に一回は成功してるよ!」

 三部が陽気そう答える。

「また練習しなきゃね。ほら下げるわよ」

 そう言って下げようと、自分の分と三部が飲んだカップを台所に運んでいく。その時を見計らって俺は三部に質問した。

「どうして響子さんは、料理なんか? どんな理由があるんだ?」

「ふふーん、教えなーい」

 笑顔ではぐらかされた。

「教えてくれよ。なっ、頼む!」

 頭を下げて、改めてお願いするが三部は顔を上げさせ、人差し指を立てる。

「一つだけ教えてあげる。香澄が喜ぶことだよ。じゃ、私は帰るねー」

 手を振って、事務所から去って行く。

 俺が喜ぶこと? まぁ俺の誕生日は近いし、って言っても三月二十五日だけど。それにしても、一ヶ月はある。

 誕生日プレゼント? プレゼントはクリスマスに貰ってるし、一体何なんだろう。

 俺が悩んでいる中、事務所に新たな客が来る。

「おい、やってるか?」

 頭に少し雪を乗せた南方さんが、事務所に入ってきた。

「あら、どうしたの? またややこしい事件でも持って来たの?」

 ひょこりと顔を出す響子さんを見て、南方さんは不思議そうな顔をしながらソファーに座り、目の前にある不味いコーヒーが入ったカップに口をつける。

「ん!? なんじゃこりゃ。クソ不味いじゃねぇか!」

「飲んじゃいましたか。すいません、今淹れ直しますね」

 俺は平謝りしながら、カップを自分の手元に置き、席を外そうとしたが彼はいやいい。と言って座らせた。

「こんな不味いのうちの家内でも作んねぇぞ」

「家内!?」

「ん、言ってなかったか? 五年前くらいからしてるぞ」

「どんな人なんですか?」

「あー、料理が下手だったな。食べてどんだけ喧嘩したか。でも最近ようやく人が食えるレベルまでに進化したな」

「どこに惚れたんです?」

「それ訊くか? あぁもう」

 興味津々に訊く俺を見て、これは逃げられないと判断したのか照れくさそうにしながら惚れた事を話し出す。

「ひたむきな所だよ。たく、何言わせるんだよ! 俺は事件解決の依頼をしにきたんだよ! 話がずれ過ぎだ」

 響子さんが席に着き、南方さんが事件について概要を話し始める。

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