第六話 真相①
「この作戦でいい?」
「別に構わないけど、成功するのか?」
「安心しなさい。この私の女優レベルの演技にかかれば余裕のよっちゃんよ」
「何処の女優のレベルに合わせてるのか、分からないけど頼むぞ。今回は俺は手出しできないからな」
「貴方に言われなくても分かってるつもりよ。心配してくれるの?」
「まぁ、そりぁ一応。何があるか分からないし、響子さんが失敗しないかが一番心配だよ」
「あら、私が失敗することなんてこれから先の百年有り得ないわ」
「百年って、死んでるじゃねぇか」
「そうよ。私が死ぬまで失敗は有り得ないのよ。分かったら私の成功を信じて、教会でも行ってステンドグラスに映った神様に片膝ついて祈りなさい。私が無事なようにね」
「あぁ、そうしてるよ。本当に気を付けて」
「フフフ。それじゃあ行ってくるわ」
私はそう言って、助手くんの元から離れていく。
今回の作戦は、私たち二人は別行動なのだ。助手くんは美川さんの元へ、そして私は工藤さんの元へと向かう手筈になっている。
欲を言えば、助手くんと言って警察のふりをするのが一番なんだけど、なんせ今回は時間が限られている。
何としても今日ここで犯人を特定しなくてはならない。
私は、アパートに住んでいる工藤さんのドアの前に来ていた。少し古臭い、良いように言えば趣がある素晴らしい場所。
インターホンを押し、反応を待つ。
ほどなくしてジャージ姿の、女性がきょとんとした顔をしながら、ドアを開けた。目の前にいる私の顔をじっと見ていた。
きっと彼女は今、記憶の中から私の顔を探している。
「あの……どちら様ですか?」
見つからなかったのだろう。それもそのはず、私と彼女はこれがあるのが初めてなのだから。
「私、織神響子って言います。あの、貴方は工藤美代子さんで間違いありませんか?」
「その通りですけど、なんですかいきなり。セールスならお断わりです!」
「そうではありません」
精一杯潤んだ瞳で、工藤さんを見つめる。
「和也、いえ。峰尾和也さんについてお聞きしたいことが。貴方ならよく聞いていますよね?」
「和也がどうしたのよ? まさかあなた――」
「はい。ご察しの通りです。私は三か月前から和也さんと付き合っていました」
「あなたも被害者だったのね。そう言うことならどうぞ中に入って」
中に招き入れてもらい、茶の間に座り、ハンカチで涙を拭く素振りの最中に彼女にお茶を出してもらう。
「あなたはどこで和也と知り合ったの?」
「私が、このハンカチを拾ってもらったのが、きっかけでした。最初は、少し警戒してましたけどあの人の優しい、気持ちに触れてそれも自然と」
「災難だったわね。こんな美人さんなのにあんな男に捕まって。まぁ私も人の言えないけどね。和也のことまだ好きなの?」
私は演技ながら、こくりと頷く。だけどもうこいうことで頷きたくない。助手くんのこと以外の人に好きと言っている自分がいると思うと虫唾が走る。
だけど我慢しなくちゃ。
私の感情はすぐに顔に出ちゃうから。
「私の前以外ではどういう人だったのか、あの人の全てが知りたくて」
俯きながら、呟くように言った。しかしその仕草の中でもある物をひたすら視線で探していた。
「うーん……分かった。だけど後悔しないでね。その覚悟は出来ているんでしょ?」
「はい。勿論です」
彼女ははぁっと息を吐いて、話す。直前の仕草を見る限りでは本当に喋りたくなんだと伝わってくる。
「あなたの前でもそれ以外の時でも、あいつは女の口説き方を考えているような男だった。そう思えば私は第一号の犠牲者だったのかもね。私とあいつが別れるとき、泣き寄られたの。これからも友達でいてくれって」
「それでなったんですか?」
「なった。惚れた弱みって言うのか、私自身の弱さって言うのか分からないけど、あのときの私はけじめをつけられなかった」
自分自身の過去を後悔するように、自嘲気味に話し続けていた。
「和也さんとどうやって、知り合ったんですか?」
「私は入社式の日ね。隣の席で声をかけられた。たまたま趣味が同じでね、話が弾んだのよ。光莉もそう言えばあいつの隣だったっけな」
「光莉?」
尋ねる。聞き覚えがあったが、ここで言ってしまえば高確率で怪しまれる。
「佐藤光莉。同業者よ。そして親友だった。でも、あいつが私たちの仲を壊した。最初は私、次は光莉。付き合うことに忠告したら、それがきっかけで喧嘩になってね。それ以来まともに話すことが無くなったの」
「そうだったんですか。それはお辛い経験をしたんですね」
「何か言ってやりたいけど、もう死んでいるから何も言えないの。仲直り……したかった」
そう言って、ボロボロと泣き出した。手で拭うがそれでは収まらないほど泣き続ける。
「これを使ってください」
「いいの?」
「ええ」
涙を拭き、ようやく落ち着きを取り戻し話せるまで回復した。
「あの、最後にお聞きしたいことが」
「何?」
「一週間前、和也さんのマンションで荷物を持っている貴方を見ました。何を持って行ったんですか? 本人直接聞いても教えてくれなくて」
「あぁ、ゲーム機を貸してあげたのよ。それが何か?」
「いえ、あの大きな紙袋に入っている梱包されているあれがそうかなって思って。すいません、余計な事を聞いて。私はこれで失礼します。ありがとうございました」
お辞儀をして、工藤さんの家を後にする。
「辛かったらまた来てね。愚痴なら聞くから」
「ありがとうございます。では」
帰り際で止められ、そう言われた。演技とはいえ、人の良心に漬け込みたくはない。
辛い時間だったが、これで作戦は完了した。
十分に工藤さんのアパートから離れそして、助手くんに電話をかける。
「そっちはどう? 終わった? じゃあ事務所に集合。そしてすぐに答え合わせをするわよ。ええ、それじゃあ」
電話を切り、ポケットにしまい、私は事務所にゆっくりと歩を進めた。
もうじき、この哀しき連続自殺事件は終わりを迎える。
犯人は一体誰でしょうか?




