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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
自壊人形
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第一話 捜査①

 年が越え、新年に入ったわけだが、どういうことだが世間が騒がしい。俺が自室で目が覚めるとパトカーのサイレンの音が、起きたばかりの脳内に響き渡る。

 五月蠅いな。と思いつつ、カーテンをめくると冷気が忍び込んでいた。

「寒い……」

 この寒さなら、外は相当な寒さだろう。響子さんは大丈夫だろうか? 体から無理矢理眠気を排除し、連日大活躍の電気ストーブに今日も働いてもらう。

 だが、最近こいつの機嫌が悪いのかなかなか電源がついてくれない。内心、機嫌を直そうとしてこいつを褒め、やっとの思いで電源がついた。

 これで一安心だ。

 俺は寝癖を直し、着替え、歯を磨き、コートを着込んで響子さんから貰った手袋をして、ストーブの電源を消し、出掛ける。

 そして鍵を閉め、外の寒さにうんざりしながら身を縮め、雪を踏み鳴らしながら足早にバスの停留所に向かう。

 昨日の雨で道が殺人的に滑りやすくなっている。よろける人や、気を付けて歩いている人、氷で無邪気に遊んでいる子ども。

 気持ちが良いくらい綺麗に滑って転んだ子どもに駆け寄り、手を貸し起こす。

「大丈夫かい?」

「うん! ありがとうお兄さん!」

 何とも子どもらしい無垢な笑顔を浮かべ、頭を下げて走り去る。その走ったとこもあってか、またしても転ぶ。

 おいおい。と苦笑したが、子どもはすぐに立ち上がり視界の彼方へと消えてしまった。

 横断歩道を渡り、吐いては消える白い息で遊びながら歩を進める。遠くで見える雪化粧した桐之山を見つめながら、近くのスーパーに立ち寄る。

 バズが到着するまで、およそ三十分。いつもなら真っ直ぐ向かうところだが、いつもより早く出て今日は買い物をする。

 事務所の冷蔵庫にそろそろ何かを補充しなければ。

 響子さんが朝食べる物、そして野菜、肉、好きな果物、どれも鮮度が良い物を選び買い物籠に迷わず入れる。

 邪魔くさそうに前髪を搔き上げ、レジに並ぶ。会計を済ませて携帯電話で時刻を確認する。

「やべ……!」

 あと十五分でバス停に到着してしまう。ここから普通に歩けば五分とてかからないが、あそこのバスはいつも十分程度早く着いてしまう。おまけにそこから乗車するのは俺くらいなもので、気にしないで行ってしまう。これに乗り遅れたら響子さんにどやされる。

 俺は少し走りながら、バス停に向かう。

 何とかバスに無事乗車し、一息つく。この間で朝食のメニューを考える。

 昨日のメニューと被らないように注意しつつ、考え込んでいるとついついうたた寝してしまいそうになる。

 眠気に耐えて、事務所近くのバス停で降りる。時刻は午前九時、しまった。出社時間が遅れた。

 俺は響子さんにどやされることを覚悟しながら、事務所に向かう。何故出社時間が九時なのか言うと、単純に響子さんが空腹に耐えきれる時間だからだ。それ以降に行ってしまうとふてくされて、なかなか機嫌を直してくれない。

 階段を駆け上がり、ドアをおそるおそる開ける。


「おはよう、響子さん……」

 挨拶をしたが、返事がない。いつも座っているはずの響子さんの姿はそこになかった。

「?」

 疑問に思いながら、事務所に入り見渡してみる。だが、いない。

 俺にはこの状況に覚えがあった。これはまだ彼女が布団の中にいる。そうに違いないと決めつけ、寝室を一応ノックして開ける。

 布団が膨らんでいた。

「ほら、起きろよ響子さん」

 近寄り、声をかけると芋虫よろしくもぞもぞと動いた。

「もう少しだけ眠らせて……」

「何気に響子さんって、自分に甘いよな」

「もーう、起きるわよ。着替えるからご飯作ってて」

「二度寝するなよ?」

「任せて……」

 部屋を後にし、買ってきた食材を冷蔵庫に入れて朝食を作る準備を始める。フライパンを取り出し、卵を二つ割り、油を引いて火をかける。

 しばらくして部屋から響子さんが出てくる。その顔は眠気が完全に消えておらず、欠伸をしながら瞼を擦っていた。

「おはよう響子さん」

「おはよう助手くん。早速だけどシャワー浴び終わったら珈琲が飲みたいわ」

「分かった、作っておく。今日は卵焼きだけど良いよな?」

「ええ、大丈夫よ。それじゃ今日もおいしく作ってね」

「あいよ。任せとけ」

 会話を交わし、俺は料理に専念する。そしてコーヒーを作り終わった頃に、響子さんがシャワールームから出てきた。

 ドライヤーで乾かした髪を気にしながら、ソファーに座り、本を読みだす。

「どうぞ、コーヒーと朝ごはん」

 本に栞を挟み、品定めするかのように朝食の出来栄えを確認している。

「それじゃ、いただきましょうか」

「ん、そうするか」

 どうやら彼女の品定めを無事、突破したらしい。

 声を合わせていただきます。と言って食べ始める。何も会話が無いわけが無いが、今回の会話は少しだけあの事について訊いてみる。

「なぁ、やけにパトカーが多いと思わないか?」

「……あまり気にしてなかったけど、そう言われてみれば確かに多いかもね。もしかしたら事件かしら」

「まさか、依頼は来ないよな?」

「どうして? 仕事が来てくれた方が私たちが食料に困ることなくていいじゃない。街も平和になるし」

「年の初めぐらい静かにして欲しいからな」

 俺がコーヒーを飲み、マグカップを置くと。

「悪かったな、こんな時に来ちまって」

「え!? 南方さん!?」

 振り返ると、そこには肩に雪を乗せた無愛想な南方さんがいた。

「あら、新年あけましておめでとう。で、何しに来たの? まさか世間話に来たわけじゃないでしょうね」

「あぁ、新年おめでとう。俺がここに来る理由なんて事件の依頼以外ないだろ」

「まぁそれもそうね、そこに立ってないで座れば? 珈琲ぐらい出すわよ」

「って、作るのは俺だけどな」

 俺は南方さんの分までコーヒーを作り、差し出す。

「で、今回のご依頼はどんな事件なのかしら?」

「今回の事件は、奇妙なんだ」

「へぇ奇妙ね。でも、私たちが関わっている事件で奇妙な事件以外ないわよ」

「それについては否定はしないが、今回だけは群を抜いている」

「気になるわね、貴方がそこまで言うんだから余程のことなんでしょうね」

「ここ最近、自殺者が多い。それだけならまだしも、全ての死体が首を自分で掻き切って死んでいる」

「何ですって? それじゃまるで殺人事件じゃない。自殺者が全員同じ死に方だなんて」

 俺は気が付かなかった。この事件の謎はとても深く、まだ知らない闇を呼び起す序曲になっているなんて。

「分かったわ。この事件、私が引き受けるわ。土下座して喜びなさい」

さぁ始まりました第八章、お楽しみに!

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