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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
暁、太陽は昇る
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第四話 捜査④

 空の風が吹く中、悠河さんに率いられ俺たちは問題の家に着いた。だが、それは家と言うべきなのか、どちらかと言うと洋館。という言葉が適していた。

 庭は荒れていて、雑草がその場の王になっている。家の壁にはツタが巻き付いており、どこかのいわくつきの物件に出てきそうな雰囲気を醸し出していた。しかし、見たところ窓ガラスこそは割られているものの、段ボールが窓代わりになっている個所があり、人が補強したとみられる。ホームレスが住み着いてるという噂に信憑性が出てきた。

 赤く錆びた鉄の門は今も主を待っているようにそこに存在していた。家は住むべき人を失い、見ているこちらがどこか哀しげな気持ちになる。

 悠河さんが、門を押し開けると鈍い音をたてて渋々開いた。庭に一歩足を踏み入れると、ぬかるんだ地面の気色悪い踏み心地に、嫌悪感を覚えながらも雑草を踏み歩いて行った。

 家の扉は派手に壊されて、中も荒らされている。そして段ボールを布団代わりにしているのか、段ボールが置いてある。

 壊れたシャンデリア。どこか他に壊れている個所があるのか冷たい風が入ってくる。

 下手をすれば幽霊が出てきてもおかしくない空間に、俺は苦笑いを浮かべながらホームレスと事件解決の手掛かりを探すために探索を始めた。

 落ちている物はコンビニの即席めんのゴミ、食べかけのせんべい。大量の段ボールに、新聞紙。これはここの近所の家から持ってきた物だろう。しかし、大量に見つかったのはそれだけではなかった。

 ――大量の傘。一階の物置部屋からそれが見つかったのだ。

「これ、何でしょう?」

 俺がその異常な多さに驚きの表情を隠せぬまま、なんとも間抜けな質問をしてしまった。

「傘よ。まさか、貴方傘すら解らなくなったの?」

 響子さんが呆れながら、俺の間抜けな質問に律儀に答えてくれた。

 それぐらい俺だって解ってる。

「それぐらい俺だって解るよ。この量に驚いてさ……」 

「確かにそうね。この量は異常な量だわ。ここの元の家主は相当な傘好きだったのかしら? だって、傘なんて一本あったらそれでいいと思わない?」

「まぁ、あとスペアに一本書くか買わないかだけどな。そうだった、響子さん傘壊れてたろ、それも買わないとな」

「白い綺麗な傘が良いわ。私が使っていてとびっきり似合うやつをお願いね」

「了解、頑張って見つけてみるよ」

 そう言ったものの、彼女の好みに合う傘を見つけるのは本当に骨が折れる。違う物だってそうだ。例えばいつも響子さんがいつもコーヒーを飲んでいるマグカップ。あれは白くて、桜の模様にたどり着くまでに五回買い直している。

 使わないカップは、今はお客用に使っている。この傘もその為に? いや、さすがにそんなことはないか。

 俺は自嘲し、悠河さんの方を向くと、彼女は傘を一本手に取ってみせた。埃がかぶり、虫に食われたのだろうか所々破けている。


「多いだけじゃない。見たところ百本以上あって、全部色や模様が違う。これは意図的に集めていたと思うべきだろう」

 悠河さんが傘を開いてみると、そこには何かがラベリングされていた。

(まこと)くん……?」

 俺も確かめるために見てみるが、確かに誠くんとなかなかの達筆で書かれている。これはどういう意味があるのだろう。

 この傘を忘れた者の名前だろうか? それとも傘の名前? 後者の方は有り得ないな。なんだよ、傘の名前って。

 自分のくだらない考えに気が抜けてしまいそうになるが、俺も何かないかと探し歩く。

「誰だい、そこにいるのは?」

 男性の声が聞こえる。俺たちは振り返ると、その身なりで判断してしまうのは申し訳ないが、ここに住み着いているであろうホームレスだった。

「貴方が、ここに住んでいるホームレス?」

「そうだよ。冬の間は寒くてね、ここの家を借りているんだ」

 温和そうな彼は、段ボールに座り、一息つく。防寒はしているが、上着には穴が数か所開いており、髭が無造作に生えていた。

「少し、お話を聞いても?」

 悠河さんが話を聞くために腰を下ろす。俺たちも気が進まなかったが、段ボールを下敷きにして座る。

「別に構わないけど、何を話せばいいのかな?」

 そこから再び、悠河さんの情報収集が始まる。

「貴方は、昨晩穂北さんの家に行きましたか?」

「あぁ、行ったよ。でもそれがなにか?」

「いえ、昨日のその家で夜中に放火がありまして。どういった理由で行ったんですか?」

 彼は髭を撫でながら、思い出すように話し出す。

「若い男から、お金を貰ってね。そこの家の前に段ボールとか燃える物を置いて来てくれって言われてさ。あと、路上カメラに映らないようにって言われたな。見えないところから侵入して、置いて来たんだよ」

 どうりで即席めんがあると思ったら、そういうことだったのか。納得がいった。

「やはり貴方でしたか、分かりました。今度はお金を渡されてもやってはいけませんよ?」

「すまない。金を貰ったからつい。今度から気を付けるよ」

「では私たちはここで失礼します。行こうか響子、准兵くん」

 俺たちは頭を下げて、その場を去る。新聞紙などを置いたのは彼が犯人だとして放火した犯人像がまだはっきりとしない。

 その金を渡した若者が、犯人だという可能性が極めて高い。だとしたら一体何故? なにが目的で放火をしてるんだ?

 俺が疑問に頭を悩ましている中、響子さんの携帯電話に着信が。

「もしもし、南方さん。どうしたの? え!? また起こったのね。分かったわ。すぐに私たちも向かうわ」

「どうした?」

 嫌な予感がする。そして俺は彼女がいつにもなく、声を荒げた理由がなんとなく分かった気がする。当然、悠河さんも分かっていたと思う。

「響子、放火が起こったんだな」

 コクリと頷く響子さんを見て、俺の嫌な予感が的中してしまったことを後悔する。こればかりはどうにもならない。

「ここから結構近いわ。向かうわよ」

「白昼堂々とはいい度胸だ。絶対ぶん殴ってやるから、待ってろよ犯人」

 悠河さんは拳をパンッと叩き、その鋭い眼光を明後日の方向に向ける。

 この事件、どこか狙いがあるようにしか思えないのは俺だけだろうか? もっと別な理由があるはずだ。憑神に憑かれるほどの何かが。

ホームレスにお金を渡した若者が犯人なのでしょうか?

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