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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
暁、太陽は昇る
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第三話 捜査③

 俺はソファーの上でのたうち回っていた。口の中に毒物をぶち込まれた感覚だ。これは何だ、塩? 粉状なものがある。なんで味噌汁に固形の粉が? 塩じゃない、これはコーヒーの素だ。これは不味いに決まっている。まさか、味噌じゃなくて、コーヒーを入れてしまうとは。

 そして目玉焼きはこの世の憎悪を封じ込めたのか、真っ黒だ。これは食っても食わなくても不味いのは明白だ。

 俺は悠河さん本人の前でこれを吐き出すわけにはいかなかった。これは新手の拷問だろうか、胃の中で何かが暴れているような感覚になる。これは俺の身体がこれは摂取していけないと、吐き出させようとしている。

 水だ。水が欲しい。

 俺は必死に手を伸ばす。それを見て響子さんはコップを一杯を差し出してくれて、それを勢いよく取ると一気に飲み干す。

「ね、言ったでしょ? 私の家系はお母さん以外料理が絶望的に下手なのよ」

 響子さんが呆れた顔で、やれやれと内心思いながら水をもう一杯持ってきてくれた。

「姉さんの料理はきっと、危険物質だわ。子どもの時、私と姉さんで作ったクッキーをお母さんに食べさせたら、泡を吹いて倒れたの」

「どうやったら、そんなに不味くクッキーが作れるんだよ!」

「私だって知らないわよ。目が覚めた母に言われたわ。料理が出来る男の子と結婚しなさいって」

 俺は悠河さんの料理を食べた。それは絶望的に不味く、俺の口内の味覚、胃の粘膜全てを見事に破壊していった。

 切実に腹が痛い。

「どうだ、私の料理の腕前は?」

 悠河さんは俺があまりにも美味しすぎて、のたうち回っているのだと勘違いしている。彼女はいつもそうなのだと響子さんからこっそり教えてもらった。

 似てないところが多かったのに、何故ここは似てしまったんだ。しかも、響子さんよりも下手くそだなんて。

「助手くんが喋られないみたいだから、私が代弁するわ。こんな料理、不味くて食べられるか馬鹿野郎だって」

 そう言ってしまった。実際そこまで思っていないけど、いや、それに近いことは思っていたけども、それを決して言わないように我慢してた。

 奇しくも、響子さんと俺の心は意外なところで繋がってしまった。

「不味い……? そうか、この料理は君の口に合わなかったようだ。私としたことが、人の好みを間違えてしまうなんて。花嫁修業が足りないな」

 そこじゃないって思いっ切り言ってやりたい。だけど口を開けるとあの憎悪の塊が飛び出てきそうになる。

「そこじゃないわよ。貴方はまず、料理の腕を磨きなさい」

「はーい」

 俺は何とか気を持ち直して、二人の昼ご飯を作り始める。朦朧とする意識の中で、フライパンを握り、卵焼きを作る。

「ほう。准兵くんは料理が出来るのか。是非私にご教授頂きたいものだな。ハッハッハッ」

 悠河さんは優雅に笑うのではなく、豪気に笑う。どうやら、彼女は細かいことは気にしない性格のようだ。そして、失敗を気にしないタイプらしい。

 俺は何とか、吐き出すことを抑えて卵焼きを残る全ての気力で作った。

「おお! これは美味しそうだ。では早速頂くとするかな」

「助手くんの料理の腕は確かよ。この私が毎日食べるくらいですもの。あら、助手くんは食べないの?」

 俺は悠河さんの隣に座って、冬だというのに嫌な汗を拭いながら手を横に振った。この状態で物を食べても美味しく食べられないだけだ。

「そうか。そいつは少々料理を作ってもらっている身としては心苦しいな。准兵くん。こっちを向いてくれるか?」

 俺はいやいやながらも、悠河さんの方を向くと自分で作った卵焼きを口に入れられた。偶然、彼女に食べさせてもらう形になってしまった。

「私のをあげよう。やっぱり人と一緒に食う飯は最高だ。准兵くん改めてお礼を言うよ。響子のこと面倒を見てくれてありがとう。そしてこのご飯のことも」

「良いんですよ。気にしないでください」

 俺たちは互いに微笑み合い、和やかな雰囲気に包まれた。一名を除いては。そうそれは響子さんだった。後ろに怒りの炎が見えてしまうほどに苛立っている。

 これは稀に見る、事件以外で本当に怒っている状態だ。

「姉さん、いきなり来て、私の憑き人を誘惑するなんてね」

「誘惑? そんなことしてないさ。ただ、昔のことを思い出しただけさ。そんなにやっかむなよ。もしかして准兵くんのことが好きなのかい?」

「そん……なんじゃないわよ」

 彼女は俯き、黙々とご飯を食べ進める。よく見ていると耳の先まで赤くなっていることに気が付く。

「そうなのか? なら、私がもらって行こうかな。料理が出来る旦那は素敵だからな」

「それは――」

「冗談だよ。そこまで本気になるなよ、悪かった。ちょっとからかいすぎた」

 そこから冗談交じりで食べ終えて、俺たちは捜査の準備を済ませていた。響子さんは毎度のことながら、準備に手間取っている。


「なぁ、ここに響子がいないから訊くが」

 俺たちはビルから降りて、悠河さんが乗っていたであろうスポーツタイプのバイクが駐車している場所で俺は彼女に質問された。

「なんですか?」

「君は響子のことが好きだろ。違うか?」

「それは……その通りです」

 俺は下の真っ白な雪を見つめるのがやっとだった。直接目は見られない。全て見透かされているようで、言い方が悪いけど少し気味が悪かったし、なにしろ怖かった。俺の全ての悩みが意図とせず伝わってしまいそうで。

「その反応からして、片想い中か? それも今、あの空間いることが心地よくなくなっている。むしろ、心苦しいさを覚えている。普段はそうじゃないが、ふとした時にそう感じる」

 伝わってしまった。この人には、いや、響子さんと悠河さんには嘘はつけそうにない。

「なんでも解っちゃうんですね」

「告白するのが怖いか?」

「はい。しても意味がないように思える時があるんです。響子さんもまだ俺に隠し事があるみたいで」

「大丈夫さ。響子が耳まで真っ赤になっているのを見たろ? あれは君のことが大好き過ぎるんだよ。ちょっち嫉妬深いけどね」

「そんなことないです」

「何故言い切れる? 人間やってみないと分かんないじゃないか。私たちの人生は失敗の上で成り立っている。怖いのは当り前さ。だけど勇気を振り絞ってそれに立ち向かえ。思ったより、人生は簡単だよ」

 俺は何も言えなかった。すると響子さんの準備が終わったらしく、俺たちに声をかけた。悠河さんは何もないように彼女に近づき、笑いながら話す。

 言おうとしたことは何度かあった。そのたびに何かが邪魔をしていた。多分、俺の中に存在する何かが。

「さ、行くわよ」

「了解!」

「あぁ」

 

 俺たちは路上カメラで映されていた四件目の被害者の家に来ていた。燃えているあとはもう綺麗に雪で消えている。

 ここは人通りが少なく、夜ならば誰にも気づかれず放火が出来るかもしれない。

 だが、今回は何も映っていなかった。誰にも見られることもなく、どこからか発火した。火を操る憑神だろうか? そうなれば俺に勝ち目は少ない。まぁいつものことだが。水の塊などだと躱せる可能性はあるが、火は躱せることが不可能に近い。

 ましてや、距離を開けられることが敗北に近づく大きな要因だ。そして俺たちは憑神化が出来ない。もし、戦ったら敗北の確率は高い。

「さて、早速聞き込み開始だ!」

 悠河さんは悠然と歩き出し、被害者のインターホンを押す。すると中から四十代くらいの女性が出てきた。

「どなたさまですか? あの、セールスとか宗教とかは興味ないんで……」

 ドアのチェーンかけられてドアごしにやりとりしているが、どう見たって怪しまれている。

「いえいえ。私たちは探偵でしてね」

「探偵……ですか?」

 さらに表情が強張る女性。それもそうだ。いきなり探偵と言われて、はいそうですかとはいかないだろう。

「知らないようでしたら、教えて差し上げましょう。安い、安心、早い。この三拍子そろった織神探偵事務所――」

 ドアを閉められた。どうやら、悪いセールスだと思われたらしい。

「すいません、穂北さん。私たちはここの放火事件を調べるために警察に協力を依頼されたんです」

 表札を見てみるとそこには「穂北」と書かれている。この人、やっぱり抜け目がない。全て解って上でやっているんだ。

「証拠は?」

 ドアの向こうから声が聞こえる。まだドアの近くに穂北さんがいるみたいだ。

「ここに南方という中年で、愛想の悪い刑事が来ませんでしたか?」

 この人はそんなことまで言ってしまうのか。と内心南方さんに謝りながら行方を見守った。


「はい。来ました……本当に警察の協力者なんですね」

「そうですよ。お時間は取らせません。少し、お話をお聞きしてもよろしいですか?」

「分かりました。すみませんが、ここで話しても?」

「はい、構いませんよ。押しかけた私どもが不躾でしたので。それでは、いくつか質問します。貴方が寝ている時、どうやって放火に気が付いましたか?」

「最初に気が付いたのは夫で、私は夫に起こされて気が付きました。びっくりしたけど必死に消防車を呼んで」

「そうでしたか。大変でしたね。失礼だとは思いますが、誰かに恨まれることに見覚えがありますか?」

「いいえとてもそんなことは。でも、強いて言うなら、ホームレスですかね。一回ここで口論になったんです」

「何故です? ゴミを回収しようとしたからですか?」

「はい。その通りです。何度も注意しても全然聞いてもらえなくて、つい」

「ホームレスは頻繁に来るんですか? ここの近くにホームレスが住み着いている場所でも?」

「粗大ゴミの日しか来ません。住み着いていると噂で聞いたんですけど、ここの近くに昔、立派な家があって。でももう何年も人が住んでいないらしくて、ホームレスがいるらしいんです」

「そうですか、ご協力ありがとうございました。ではお昼時に申し訳ありませんでした」

 頭を下げて、家から離れる。

「次の目的地は、その家だな。ここの近くらしい。行こう」

 張り切っている悠河さんに連れられて、なんで貴方が仕切ってるのと疑問に思いながらもいやいやついて行く響子さん。それを見てなだめている俺。

 この変則探偵集団は、ホームレスが住み着いてしると噂になっている家に向かった。

次の目的地に向かう助手くんたち。

悠河さんの推理力はいかに?

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