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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
四肢狩りの獅子
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第一章完結 四肢狩り事件後日談

 俺たちは見事野中さんを倒し、この猟奇的な事件を止めることが出来た。憑かれた人がどういう罰を受けているのかなんて想像もしたくない。

 彼女には同情をしたわけではない。ただ、友達の無念を晴らしたいと思う気持ちだけは、少し解る気がする。

 時に俺は人を捨てた。野中さんが憑神に憑かれたように、俺は響子さんのために憑かれた。彼女が人間を助けたいと思うように、俺も響子さんを助けたい。

 今思えば、あの夏の事件さえなければ俺はまだ人間でいれたかもしれない。いや、俺はああなる運命だった。

 俺の体は凄まじいほどの再生能力を手に入れ、擬似的な不死身となった。

 そして俺は響子さんに修行をつけてもらい、刀を辛うじて扱えるようになった。

 俺みたいな憑かれた人間を憑き人と呼ばれ、主のために働き、時には剣となり盾となる。それが憑神化と呼ばれている。


 響子さんは祓い屋の御三家の一つ、織神家のご令嬢だ。しかし彼女は織神の名の力を使おうとせず、一人で探偵事務所を立ち上げた。

 他の御三家は安瀬馬家、そして園江家となっている。他の家の跡取りも憑神と戦っているようだが、仕事上一人しか会っていない。

 もしかしたらもうすでに会っているのかもしれない。

 響子さんにもまだ話していない部分もあると思う。でも、いつか話してくれる日が来ると信じて俺は彼女について行く。

「おはよう。響子さん」

 俺は探偵事務所の扉を開けて挨拶をするが、返事が返ってこない。というか、いつも座っている場所に彼女がいない。

「?」

 どうやらまだ寝ているらしい。いつも早起きが日課の彼女にしては珍しい。もしかしたら昨日の戦闘の疲労で寝ているのか?

「おーい、響子さん」

 奥の寝室のドアを開けると案の定、響子さんはまだ布団にくるまって寝ている。とても幸せそうな寝顔をしている。

 良い夢を見ているみたいだ。

「おい、響子さん。起きてくれー」

「うーん……助手くん?」

 まだ意識が覚醒しきっていないがどうやら俺の声は分かるみたいだ。


「そうだよ。おはよう」

「うん。おはよう……」

「今日はいろいろと説明してくれるんだろ? ほら、朝ごはん作って待ってるから」

「分かったわ……」

 彼女は目をこすりながら、俺と受け答えしているが下手をすれば二度寝をしてしまいそうな感じだった。

 俺は彼女の部屋を後にし、いつも通りに朝ごはんの準備を始める。今日は何を作ってあげよう? 最近は卵料理が続いたから、今日は魚だな。

 俺は台所の冷蔵庫から買ってきた鮭を解凍し、調理を始める。今日は焼き魚に、漬物、そしてあと一品欲しいが何が良いだろう。

 まぁ、あとはわかめの味噌汁を作るとしよう。

 調理を続けていると、響子さんがシャワーを浴びている音がする。二度寝せずにちゃんと起きてくれたか。

 そこから十分後に響子さんがその美しい髪を乾かしながら登場した。


「改めておはよう。助手くん」

「あぁ、改めておはよう。響子さん。丁度ご飯が出来たから早速ご飯を食べよう」

「その前に――」 

「分かってる。コーヒーだろ? もう作ってあるよ」

 彼女の呑んでいるコーヒーはとても甘い。コーヒーと呼んでいいのかと思うほどに。普通のコーヒーを飲めないことはないが俺の作るコーヒーを好んで飲んでくれる。

「気が利くのね。少し見直したわ」

 口に軽く手を当て、彼女はふふと微笑む。こんなことが言えるなら、彼女の意識ははっきりと目覚めしているに違いない。

 俺と響子さんは席に着き、ご飯を食べる。


「じゃあ、何から説明しようかしら?」

「とりあえず、なんで野中さんが犯人って分かったんだ? やっぱり隠された一文ってやつのおかげなのか?」

「まぁ、平たく噛み砕いて言うとそうなるわね。まずはそこから説明してあげる」

 箸を止め、ホワイトボードになにやら書き始めた。


「親愛なる雅美へ

 こんな想い、綴るべきじゃなのかもね

 辛いという私の想い

 生きているの?

 なんで……かな? 涙も出ない

 もう、わけわかんない

 ダメだよむりだよ

 こんなことになるならううんもう遅いよね

 私なんて、殺されればいいんだって思える

 しねない。しにたくないけどだけどむりだ

 最後はね、てを振ってさよならするね。バイバイ雅美」


 これは榎秋さんが書いた遺書だ。今も見るのを戸惑ってしまう。

「この文章があるじゃない。助手くん、私から縦に読んでみて」

 俺はそう言われ、私から縦に読んでみることにした。

「私のかわりに殺して……?」

「そう、これが隠された一文ってわけ。結局秋さんもあの四人を憎んでいたの。ある意味、野中さんが言った秋の想いを汲み取っているってのはあながち間違いじゃないわ」

 だとしてもと彼女は黒のマジックペンの蓋を閉めて続ける。

「命を奪うことは許されないわ。彼女は命を奪った、それだけは間違いなのよ」

「じゃあなんで、四肢を切断したんだ? やっぱり憎かったからか?」


「それもあるけど、一番は秋さんを蹴ったり殴ったりしていた手足を切断したかったんじゃない。それと死因の内臓破裂は獅子の能力よ。何も外だけ爆発させる能力じゃない。

 きっと強弱がつくし、小さい分距離は短くなる。だからわざわざ呼び出して殺したのよ。だって爆殺したら関係ない人間を巻き込む可能性があった。野中さんはそれを嫌ったのね」


 俺が次に聞きたいことも答えられてしまった。満額回答過ぎてなにも質問できない。

「なんだか暗い話になったわね。さぁご飯を食べましょう」

「そうだな。すまん、変なこと聞いて」

「良いのよ。それより今日貴方、暇?」

 藪から棒にそう聞いてきた響子さん。

「暇だけど……?」

「それじゃあ、図書館に行くついでにお買い物しましょ? たまには料理も作ってみたいし、外も見たいし……ダメ?」

「い、いやダメじゃないよ!」

 意外な彼女の姿に俺は驚きを隠せなかった。まさか、家から出たくない響子さんがそう言うなんて、これは天変地異の前触れか?


「今日は私が晩御飯つくってあげる。土下座して喜びなさい!」

 響子さん自身初めてのことで恥ずかしさなのか顔が少し赤くなっている。

 俺たちのこの楽しい日々がずっと続けばと思ってしまう。だが、不運にも織神探偵事務所にまた新たな事件が舞い込んできてしまう。

 これが俺と響子さんが決めた道。今更後悔なんてしない。

 これは一人の天才美人探偵、織神響子が助手である香澄准兵を振り回しながらも数々の難事件を解決していく物語。

 そしてこれは彼女と俺の運命という名の物語の序章に過ぎない。

次章に頑張ります故、乞うご期待ください!

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