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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
暁、太陽は昇る
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第一話 捜査①

 秋が終わり、季節は冬になり、ここ桐之座町も雪が深々と降り積もり、それを見てはしゃぐ子どもを見て、俺は微笑ましかった。吹く風は乾いていて、肌を刺すのが痛かった。すっかり自転車を乗らなくなり、今では車庫で冬眠している。

 一つ歩くたびに鳴る雪の音。それが懐かしく、子どもの時はこの音が待ち遠しかった。興味本位で雪をすくってみて握る。柔らかく、可愛らしい白い塊は俺の手の温度で融けてしまった。それを儚く思えてしまうのは、俺が大人になったからか。

 そんなことは気にせず、よく遊んだものだ。凍える手にハァと息を吹きかけ、手を擦る。早く行かなければ大げさだが凍死してしまう。

 俺は信号を待っている時間でさえも惜しかった。コートにマフラーを着こんでいるが、どうしても顔と手が冷える。

 手袋も持ってくるべきだった。いや、手袋は去年無くしたんだった。はやく新しい手袋を買わなないとな。

 俺は無くしたことを後悔しつつ、汚い色をした雪を避けながら少し足早に事務所に向かった。事務所のストーブが愛おしい。あの温かく俺を包んでくれる包容力、あの度量の大きさは頼もしい。

 事務所のあるビルの階段を上がろうとするが、氷のせいで滑りそうになり体勢を立て直すのが大変だった。

「おはよう響子さん。あぁ寒い寒い」

 俺は事務所の扉を開けると、響子さんがストーブの前で布団に包まっていた。一瞬化け物かと思って驚くが、気を取り直してもう一度挨拶した。

「おはよう。そんなに寒いのか?」

「あら、おはよう助手くん。私、毎年のことながら思うことがあるの」

「へぇ、それって?」

「私、冬が嫌い。なんで私がこんなに厚着しなきゃいけないのよ。この冬が来るたびに、地球温暖化が嘘のように思えてくるわ。かと言って夏は外に出るのが億劫になるし、つまり私は外に出るのが嫌いなのよ」

「なんだ、いつものことじゃないか」

 俺はコートを壁にかけて、朝ごはんを作る準備に取り掛かる。こう見れば俺と響子さんに何も変化が起きないように見えているが、俺たちはとある事情により、憑神化が出来なくなってしなった。

 あれから何度も試みたが、全て失敗に終わった。そして四日前からそのことも諦めてしまって、今は何もないように互いに振る舞っている。その方が、もしかたら前の状態に戻るかもしれないと、響子さんが言ったのだ。

 理由は分かる。俺がはっきりと答えを出さないからだ、きっと。

「今日は何作るの?」

 彼女は包まりながら、俺に質問してくる。そうだなと顎に手を当てて考える。朝来るときは何を作るとか考えていられなかったからな。

「うーん、トーストでも作るよ。響子さんの好きな蜂蜜トースト、それにあったかいコーヒーでいいか?」

「トーストでもいいけど、私今日はコーンスープがいいわ!」

「コーンスープ? 素があったかな?」

 俺は台所の戸棚を片っ端に開けていき、どこに置いたのだろうと考えていた。そうだ、右の戸棚だ。その戸棚を開けて、かくれんぼをしていたコーンスープの素をようやく発見して、取り出す。

 この二つを作り、響子さんの前に出す。

「食べる時は、毛布取れよ?」

「えー? どうしてもダメ? もしかして私のことを凍死させようとしてるのね!」

「んなわけあるか! 取らないと朝ごはんあげないぞ」

「あー! もう分かったわよ。取ります、取ればいいんでしょ!」

 響子さんは毛布を取り、自分の分のトーストとコーンスープを自分の陣地へと持っていく。

「素直でよろしい」


 そこから大した会話もなく互いにトーストを食べ終わる。

 食器を洗っていると事務所の扉が開く。ここに来るのは大体宅急便か、刑事か。今日はどちらだろうかと扉の方を振り向くと正解は後者の方だった。

「すっかり寒くなったな。お前らは風邪引いてないか?」

「あら、南方さん。その挨拶まるで親戚のおじさんみたいよ」

 南方さんに、そんな挨拶を交わすと彼は席に座った。彼も相当寒いようで温かい事務所内にいるはずなのに、手を擦る。南方さんしかしない、いつもいるはずのしずくさんがいなかった。

「今日はしずくさんはいないの?」

「あぁ、あいつは今日は別件でいないんだ。なんでも……なんだっけな、ふれあい警察、ポリス君と学ぼう犯罪のことの司会に選ばれたんだ」

「ふーん、で早速話してもらえる? 持ってきたんでしょ、事件を」

「察しが速くて助かる」

 俺もコーヒーを人数分淹れて、響子さんの隣に座り南方さんの依頼内容に耳を傾けた。

「今回の事件は、連続放火事件だ」

「連続放火事件……?」

「あぁそうだ。これを見てくれ。この動画は路上カメラが撮影した発火した瞬間だ」

 俺たちは南方さんのスマートフォンに近づき、荒い動画を見ていた。

「……へぇ」

 響子さんは少し声を漏らすと、動画に集中する。

 辺り一面銀世界。それを引き立てるゆっくり、天使のように舞い降りる雪。一件の家が、見える。ずっと見ていると、その家が燃えた。いや、家の前の何かが燃えた。濛々と立ち込める煙、家の住人が気が付いたのか、部屋に明かりが点き暫くして消防車が来る。

 動画はそこで終わった。

「分かるか?」

「ええ、誰もいないのに独りでに発火している。それどころか、なにも近づいた形跡がない。奇妙としか言えないわね」

 この二人はどうやら気にしていないらしいが、この近くでバイクのエンジン音がうるさかった。誰かがふかしているのだろうか?

 動画は終わる頃には静かになったが、迷惑も良いところだ。おかげであまり集中して動画を見られなかった。

「どうだ、この依頼引き受けてくれるか?」

「もち――」

「その事件。この私が引き受けよう」

 もちろんと言いそびれた響子さんは、声を発しているところを見ると事務所の扉が開いていて、その場所に凛と立っている人物がいる。

 黒いライダースーツに身を包み、高身長。長い黒髪に雪のような白い肌。どこか響子さんに似ているヘルメットを持っている女性がいた。

「どなた様ですか……?」

 俺が質問すると、響子さんが驚いた顔してこう言った。

「姉さん」

「え!? 姉さん!?」

 俺が驚くと、響子さんは立ち上がり、自分の姉を紹介した。

「私の姉、織神(おりがみ)(ゆう)()です」

「どうも、響子の姉。悠河だ。よろしくな」

 ニッと口角を上げて男らしい笑みを浮かべた。

 彼女の再会が、俺と響子さんの運命を大きく変える――

作中最強のキャラ、織神悠河さん堂々登場です!

次回もお楽しみに!

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