第三話 この気持ちって?
俺は朝日で目を覚ましたのでなく、響子さんの朝の元気な声で目を覚ました。頭が重い、昨日のことで頭が一杯だ。彼女は俺が何かに迷っていると感じている。実際迷っている。俺は答えが出ない問いに真っ向から挑んだ。
だが、それは心意気だけで俺はその問いに前に見事に散った。
安瀬馬さんに助けを求めていみても、明確な答えは返ってこなかった。でも、何かを言いかけたことがどうしても気になる。
「起きなさいよ、助手くん。もう少しで、朝ごはんだわ。その冴えない顔を洗って来なさい!」
「うーん、昨日の夜。響子さんがトランプに付き合わせるからだろ? おかげでこっちは寝不足だ。二人でババ抜きしたって何にも面白くないじゃんかよ」
「あらそう? 私は面白かったわよ。何かに迷っていることは、一回その事から考えを逸らして、客観的に見るといいのよ。私のお母さんがお父さんに言った言葉よ。それにしても助手くんったら、ババ抜き弱いんだから。張り合いがないわ」
霞む目をこすりながら、確認すると響子さんは悪戯な笑みを浮かべながら俺を笑っていた。
「あれは響子さんが強すぎたんだ!」
確かに響子さんが強すぎた。俺は一度もババを引かれなかったし、彼女に誘導でもしているかのように俺に余計なカードを引かせていった。きっとギャンブルは強いぞ。
「まぁ、いつでも練習相手になってあげるわよ」
いつでもか……
「さっ、さっさと着替えなさい。きっと安瀬馬くんたちが待ってるわ」
「ちょっと待っててくれ」
「もう、急ぎなさいよ」
俺は脱衣所で顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直し、急いで着替えた。
「お待たせ。行こうか」
俺と響子さんは一階に降りて、朝ごはんが用意してある太陽の間に着いた。そこにはツアーで来ている人と他の観光客が来ている。みんな楽しそうにご飯を食べている中、二人だけ何も手を付けず正座とあぐらで座っている。
安瀬馬さんと八色さんだ。
「遅かったな。さて、オレたちもいただくぞ」
「了解しました。織神様、香澄様。おはようございます。昨晩は良く寝られましたか?」
「おはよう八色さん。聞いてよ、助手くんってトランプめちゃくちゃ弱いのよ」
「あら、そうでしたか。では香澄様のその眼の下のクマはそのせいでしたか。随分、楽しめたようで何よりです」
「八色さんは何をしたの? 安瀬馬くんと何かあった?」
「馬鹿者が。あるわけなかろう。月を眺めて寝た。ただそれだけだ」
そう言って、安瀬馬さんは指で俺を呼び寄せて席に座る。
「貴様は、気持ちは落ち着いたか?」
「……落ち着きました。でも、答えは出ていません。もう少し、時間をください」
「オレは一向に構わんが、もしかしたらその心の綻びが憑神化に影響を及ばすかもしれん。貴様も知っているように、憑神化とは憑き人とその主との絶対的な信頼感がなければ出来はしない。どちらにせよ、憑神を対峙してする時命取りになることに変わりない。いいか、貴様自身の問いには貴様しか答えはだせん。ヒントをやる。すでに答えは出ている。これがオレが貴様にしてやれることだ。有難く思え」
「ありがとうございます。もう少し考えてみます」
それからご飯を食べ終え、俺たちは今日の晩ご飯の材料にするキノコを採るため、キノコ狩りに出かけるのである。
昼までで一度切り上げて、ご飯を食べてそこから自由行動らしい。
「見つかった?」
「いやーまったく、見つからない。このよく分からないキノコばっかだ」
「分かってるでしょうけど、私たちが見つけるのは松茸よ! 安瀬馬くんたちには負けられないわ」
「て、言ってもどうやって見つけるんだよ。松茸なんて。ただでさえこのだだっ広い山なのに」
俺たちは山でキノコ探しをしているのだが、安瀬馬さんから勝負を挑まれた。どれだけ多くの松茸を手に入れれるかというものだ。
響子さんはその勝負を引き受け、現在に至る。松茸は見つかっていない。
「さて、貴様らはどれだけ見つかった?」
俺たちが地を這いつくばるように、血眼になりながら松茸を探している中その姿を嘲笑うように背後に安瀬馬さんが立っていた。
「その姿は滑稽だぞ。この勝負、オレたちがいただいたな。フッ、憑神の討伐数でも推理力でも負け、この勝負でも負けてしまっては貴様はオレに一生勝てんな。ハハハハハハ」
「あら、そう思う? そういう貴方も見つかってないんじゃない?」
彼は響子さんに言われ、籠を見せつける。そこには松茸が五つ入っていた。俺と響子さんにはそれが輝いて見えた。
「どうだ。負けを認めたらどうだ?」
「どうやって集めたの? まさかまたずるい手を使ったの?」
「またって……オレがいつ卑怯な手を使ったと言うんだ。まぁそうだな、貴様にも教えてやろう。思考の共有だ。憑神化の応用だ。オレの思考は今八色と繋がっている。あいつの運動能力を使い、あらかた調べ、オレはそして地図に印をつけてまだ行っていない場所に松茸があるとあいつに伝えた。ただそれだけのことだ」
「なら、私たちもやるわよ!」
「え!? いきなりできるものなのか?」
「簡単だ。憑神化よりな。自分の意識を相手の頭に送るイメージだ」
安瀬馬さんが腕を組みながらそう言い、俺たちは早速試してみた。憑神化より簡単ならば、俺たちにもできるはずだ。
意識を響子さんに集中する。
聞こえるか響子さん?
「……ダメだわ全く聞こえない。どうして? 憑神化より簡単なんでしょ?」
「おい、憑神化をしてみろ」
安瀬馬さんがいつにもなく、慌てているように見える。俺たちも慌てて憑神化をしてみる。
「え……?」
「貴様、まさかここまで綻びを広げていたのか」
憑神化が出来なかった。驚きが隠せなかった。そして、お互いに何故出来なかったのかなんとなく分かっていたのかもしれない。
「安瀬馬くん。少し、離れてくれる? 今は助手くんと話がしたいの」
「分かった。このことは八色にも伝えよう」
「ええ、そうしてくれても構わないわ」
安瀬馬さんはその場を離れ、俺が響子さんに声をかけようとした時に、それよりの先に響子さんが話しかけた。
「歩きましょ? せっかくの良い景色なんだから」
俺は彼女につられるように歩き出す。
「分かってる。貴方が何を言いたいのかもね。私、助手くんに謝らなくちゃいけないことがあるの」
「謝りたいこと?」
「ええ。貴方がしずくさんとお食事したでしょ? あの綺麗なレストランで」
「なんでそこまで知って――」
「私ね、その場にいたのよ。何もかも知っているわ。しずくさんが貴方に告白したこともね」
あぁ、そこまで知られているのか。胸が苦しくなる。胃が締め付けられるようだ。歩く一歩が重い。それは何かを想い過ぎるが故か。
「盗み聞きしたことは謝る。ごめんなさい。助手くんはその事で悩んでいるんでしょ?」
「……」
あながち間違いじゃないが、だけど少し違う。
「私、分からないことがあるの。貴方が告白された時、心が苦しくなった。そしてしずくさんに僅かだけど嫉妬していたのかもしれないわ。ねぇ助手くん……この気持ちって何かしら?」
「ごめん響子さん。それが何か俺にも分からない。俺も答えが解らないんだ。多分、それが憑神化が出来ない理由かもしれない」
俺は響子さんの質問がどういう答えを出せばいいのか、知っていたのかもしれない。だけど言えなかった。
今の俺には到底言えることじゃなかった。今日の出来事ではっきりと分かった。俺はあの自分自身の問いに早急に答えを導き出せねばならない。
楽しむと決めた、旅行が終わってしまった。俺や響子さんに疑問を残したままで。
番外編は終わりです。次章、憑神化は出来るのか?




