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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
貴方の影を追う
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第五話 捜査④

 俺は響子さんの回復を心の底から喜んだ。元気な表情、呂律もしっかり回り手足の痺れも綺麗さっぱりと消えた。

 これでこの事件も見事に解決した。だが、気になることがある。俺たちは犯人を逃したのだ。そいつの行方はいかんとして知れず、憑神を使った犯罪は起きないが何をしでかすか分からない。

 まぁ、犯人捕獲は警察の仕事だし、あの人たちもプロだ。すぐに捕まえてくれるだろう。しずくさんは大丈夫だろうか? 腕の切り傷。大したことは無いとはいえ、きっと精神的にダメージが多いはずだ。トラウマになっていなければいいが……

 そして初めて体験したこともある。正規に憑く対象とは違う人に憑く。考えたこともないことだったが思いの外、成功するのは難しかった。互いに激痛を味わい、安瀬馬さんが玄人でなかったら俺は蜂にやられていただろう。

 身に染みた格の違い。安瀬馬さんが言っていた、何故俺たちが完全に憑神化出来ないのかを。理由は至極簡単だった。

 まだ互いの心を全て見せていない。そう断言された。隠し事でもあるのだろうか、俺はもちろん全て曝け出している。まぁ、大事なことに使うへそくりはあるけど、そんなんじゃ憑神化には影響しない。だとすれば彼女が?

 彼女は俺に話していないことがある。いや、詮索は止そう。焦る必要なんてない、時間をかけてゆっくりと互いを理解していけばいいさ。

 憑神討伐後。珍しく、安瀬馬さんから質問してきた。貴様にとって織神とはなんだ? と訊かれた。最近は予想だにしていない質問が多く訊かれる。

 だけど、響子さんの問いのように答えあぐねない。答えはずっと前から持ち合わせていた。

 俺はにっこりと笑い、風が頬を撫でるのを感じこう言った。

 大切な人です。と。

 安瀬馬さんはそうかと苦笑していた。この質問はどういう意図でしてきたのか分からない。だけど、大事な問いだった気がする。

「しゅくん……ちょっと、助手くん!」

「え!? なんだ響子さん?」

「なんだ、じゃないわよ。私の全開祝いに何かくれないのって聞いているのよ? もしかして聞いてなかった?」

「いや、そんなことないよ! ちゃんと聞いてた。そうだな……温泉でもいくか?」

「温泉!? やった! じゃあじゃあ、私行ってみたい温泉があるの! ここからちょっと遠いけど日野間温泉って所よ! 確か、冬の間には夜風呂が楽しめて星空を見ながらお風呂に入れるのよ。それだけじゃないわ、その時だけ飲み物を飲みながら入れるのよ。ジュースかお酒だけど、そこに行きましょうよ!」

 やたら元気だ。大事なことに使うへそくりがぶっ飛びそうだ。だけど、響子さんが喜んでいるなら良いか。

「で、どうやって行くんだ?」

「一泊二日のバスツアーがあるの。それに乗って行くのよ!」

「で、お金はいくらぐらいかかる?」

「五万七千円」

「たけぇよ!!」

 俺の声だけが事務所内に響いた。

 響子さんと俺のやりとりを見て、八色さんと安瀬馬さんはハハッと笑っていた。

「それで、貴方たちは何をくれるの?」

「私は、織神様に腕によりをかけたフルコース料理でもてなそうと思っております。安瀬馬家現当主、()()()(げん)(りゅう)様と次期当主開斗様も絶賛された料理を織神様に」

 八色さんはいつものクールな表情ではなく、自信満々な顔つきでそう言った。

「あら、ありがとう。八色さん、楽しみにしているわね」

 で、安瀬馬くんは? と訊くと彼は顎に手を当て考えている。もしかして決まっていないとか。

「そうだな、オレは……本をやろう。確か貴様が好きな作家の()(しま)栄徳(えいとく)だったな。彼がデビュー間もない時期に発売された一品をくれてやろう。有難く思え」

「嬉しいけど、なんか偉そうね」


「じゃあ俺からは事件をやるよ」

 会話に入ってきたのは他でもない南方さんだった。その近くにしずくさんもいる。腕を庇いながらこちらの様子を伺っている。

「いらっしゃい。この前は事件解決に参加できなくて申し訳なかったわ。もしかして、病み上がりに依頼する気? まぁいいわ。座って話しましょう」 

 彼らは座り、俺の淹れたコーヒーを例の如く飲む。響子さんは久し振りに飲んだコーヒーに満足気だった。

「で、事件って?」

 コーヒーカップをテーブルに置き、話し出す。

「清水明が……今朝コンクリートを敷き詰められたドラム缶の中で死体で発見された」

「なんだと! おい南方。どういうことだ? 詳しく説明しろ」

 安瀬馬さんが驚きながら、南方さんを問い詰める。

 驚いているのが安瀬馬さんだけじゃない、俺だって声を出さないだけで驚きを隠せない。きっと顔に出ている。

 一体どうして? しかも殺し方が奇妙だ。ドラム缶に入れてコンクリートで固めるなんて。想像しただけで身の毛もよだつ。

「今するさ……殺し方は非常に最近起きている殺人事件と似ている。もしかしたら、その事件と関与しているのかもしれん」

「その事件って?」

 響子さんがそう訊き、南方さんはしずくさんを見て説明してやれと無言で伝えた。

「えっとですね、最近は女性を暴行した男性ばかり狙った殺人事件が起こってまして。今回のように殺して骨を砕き、ドラム缶に入れてコンクリートで固めるんです」

「そうなの。えっと……」

「葛木しずくです! よ、よろしくお願いします!」

「ええ、よろしくね。しずくちゃん」

「話を進めるぞ」

 と南方さん。

「警察は証拠を捜しているが、見つかるに至っていない。げそ痕もよく流行しているどこにでもある靴。そして工事現場からコンクリートが盗まれている。全て同一犯だろうな。警察も引き続き捜査を続けるが、どうだ引き受けてくれるか?」

 そう尋ねると響子さんはフフっといつものようなあくどい笑みを浮かべ、足を組み直し、南方さんに右人差し指を向け、こう言った。

「私が事件から逃げる理由なんてないわ。この事件、私が解決してあげる。土下座して喜びなさい!」

 こんなことが言えるなら響子さんは完全復活したと言えるだろう。

 俺たちはこの、殺人を犯した人を殺人するといった一見正義の行いに見える悪を暴きに動き出した。俺は響子さんのあの時の問いを探しに――

 そして本当の正義を知るために。

残虐は殺し方、犯人は何故殺人を犯した人を殺人するのだろうか?

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