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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
貴方の影を追う
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第四話 真相?

 日をまたぎ、響子さんが倒れて丸々一日以上が経った。八色さんが安瀬馬さんと一緒に来てくれて彼女の世話をしてくれる。

 着替えに炊事洗濯。頼りっきりではさすがにいけない。俺は響子さんの食べれる物を作り、食べさせている。熱は大分引いたが、本人曰くまだ手足が少しばかり痺れているそうだ。

「ほら、響子さん。体を起こすぞ」

 響子さんは重たい体を起こして、俺の方をじっと見ていた。どうしてだろうか、いつもより彼女が(幼く見える。まるで母親に甘えているような、そんな感覚になる。

 俺も子供ころ、風邪を引いたらよく甘えていた。甘い物をねだったり、傍にいて話してみたり、いつにもなく尊く見える母親の姿。

 今の彼女には俺がそう見えているのだろうか?

「ごめんなさい……手が痺れてご飯が食べられないの。その、良かったら食べさせてもらえない?」

「しょうがないな。お粥だけど、我慢して食べてくれよ」

「貴方が私のために作った物よ。文句なんて言わないわ……ありがとう」

 うっ……彼女がこんな調子だとこちらの調子も狂う。普段の彼女もこんなに素直だったら――いや、結構素直なほうか。

 思ったことはすぐに言うし、自分の欲求にはある程度素直だし。あと少しだけ感謝の言葉が言えるといいんだけどな。

「ほら、口開けて」

 彼女は大人しく口を開け、差し出したスプーンに乗っているお粥を口に入れる。二、三度噛んでから、飲み込む。そしてまた口を開ける。

「今日は昨日より食ってくれるな」

 あとはそれの繰り返し。と言っても、お椀の半分くらいでお腹一杯になったらしく首を横に振って俺に知らせてくれた。

 お椀を下げようとした時だった。

「助手くん、お話ししましょう」

「? 別にいいけど」

 お椀を下げるのを中断し、今まで座っていた椅子に再度座る。

「で、どうしたんだ。話って」

「そんな身構えなくてもいいのよ? ……大した話じゃないから。他愛もない、ただの世間話よ」

「そっか」

 彼女は静かに話し出した。

「私ね、前に両親が死んだって言ったじゃない?」

「あぁ、言ったよ」

「死ぬ前に一度だけ……たった一度だけ母親に看病されたことがあるの。優しくて、温かくて。心が安らぐ。貴方が、私を看病しているところを見ると……どうしても重なるのよ。あの笑顔が、想いが、姿が」

 何も言えなかった。もしかしたら、俺が看病していることで彼女に辛いことを思い出させてしまったのでないか。気が重くなる。

 気まずい顔をしている俺の頬を彼女はそっと手を当て、穏やかな笑顔を見せた。

「助手くんのおかげで、忘れていたことを思い出したわ。感謝してる」

「それなら良かった。俺のせいで、嫌なことを思い出させてたかと思った。こんな俺で良いなら、治るまでちゃんと看病するよ」

 彼女の手を握り、にっこりと笑う。

「仲が本当によろしいのですね。病院でもここでも見せつけられました」

 突如発生した声に驚き、ドアの方向を向くと微笑んでいる八色さんがいた。

「い、いや……これはですね。その――」

「開斗様がお客様が来たと呼んでいます。若い、女性の警察の方が」

「分かりました。今すぐ行きます」

 若い女性の警察官?


「あっ、香澄さん。こんにちわ」

 昨日来た警官だ。確か名前は――

「葛木さん。こんにちわ」

「しずくでいいですよ。歳は同じはずですから」

 可愛らしい顔をにっこりと破顔させた。すると安瀬馬さんはしずくさんに対して「一体何の用だ?」と割と厳しい口調で話しかける。

「えっとですね、その用件は二つありまして。一つはあの、体調を崩している織神さんに栄養がつく物を買って参りまして」

 俺に手渡されたコンビニの袋に大量に入っている甘い物と、栄養ドリンク。

「もう一つは、事件に何か進展があったかなと思いまして」

「こんな早く進展するものか。こちらには情報がない、警察が別の事件に夢中だからな。事件を解決したければもう少し情報を集めてからにしろ。この馬鹿者!」

「ひっ! す、すいませんでした!!」

 彼女は半ば泣きそうになっていたが、俺が安瀬馬さんをまぁまぁと落ち着かせてしずくさんから有難く受け取った。

 二人にはソファーに座ってもらい、俺はしずくさんにコーヒーを、響子さんを寝かせてくれた八色さんは彼に紅茶をそれぞれ慣れた手つきで作る。

「どうぞ、しずくさん。外は寒かったでしょう」

「ありがとうございます! 有難くいただきますね」

 そう言って彼女はコーヒーを一口飲むが、淹れたての熱さに驚きコーヒーをテーブルに置いた。

 十分冷まして、出したはずなんだが。

「もしかして猫舌ですか?」

「えへへ、お恥ずかしながら。それとコーヒーは牛乳を入れてもらはないと飲めないものでして」

「そうだったんですか!? それなら早く伝えてくれれば入れたのに」

「すいません、私南方先輩にも仕事が遅いといつも叱られてまして……ダメダメなんです」

「それはきっと、しずくさんのために言ってるんですよ。南方さんはそういう人ですから」

「おい、世間話をしている暇があったら事件について調査を続けるぞ」

 足を組み、紅茶を優雅に嗜む安瀬馬さんが少々苛立ちながらそう言った。

「あっ! そうだった!」

 しずくさんが何かを思い出したかのように声を上げる。

「その事件のことですが、犯行現場を遠目で見たという人を見つけたんですよ!」

「何故それを早く言わんのだ!! この大馬鹿者ッ!!」

「すいません!!」

 頭を下げ、粛々とした顔で話し出す。 

 彼女の話していたことはこうだ。女の人が歩いていると思ったら、後ろを付けている男性がいた。すると女性は倒れ、叫ぶ前に舌を鋭利なナイフらしき物で切られてそこから暴力などをして殺害した。男性が逃げる際に目が合い、恐ろしくなり、恐怖のあまり今の今まで動けなかったと言っていた。

「それを踏まえて考えるぞ。香澄、犯人に一番近い男の部屋に行った感想はどうだった? 何か感じなかったか?」

「そう言えば」

 そうだ、何かがおかしかった。

「走るのが日課だって言ってるのに、スニーカーが一足もなかった。全部の靴が走るのは不向きでした」

「決まりだな。路上カメラの映像の特徴といい、そして憑神の蜂は黒い物を身に着けている者にしか襲いかからない。奴には言い逃れが出来ん。今すぐ行くぞ」

「はい!」

「八色、貴様は織神のことを見ていろ」

「了解いたしました」

「香澄、今だけ八色に変わり貴様がオレの憑き人だ」

 俺たちは急いで清水さんのマンションに向かった。しずくさんは南方さんを呼び、俺と安瀬馬さん、南方さんとしずくさんは出入りを固めた。

 そうすれば簡単には逃げることはできない。


 マンションに到着した俺たちはドア前で待機していた。しずくさんが合鍵を持ってきて、ドアの鍵を開けた瞬間俺たちは南方さんの合図で突入した。

「警察だ! 動くな!!」

 清水さんが驚き、咄嗟に憑神を出現させる。蜂の群れが俺たちを襲う。

 自分自身の手で顔を防ぎ、視界を遮ってしまう。それに乗じて清水さんが逃げる。外にはしずくさんがいる。

「どけ女ぁぁ!!」

 ナイフを振り回しながら走る。

「きゃぁぁ!?」

 蜂の大群に襲われ、動けなくなっているしずくさんの右腕をナイフで切り裂く。血が飛び散り、そのまま返り血を浴びながら走り去る。

「待て!!」

「香澄追うぞ!」

「分かってます!! 南方さんはしずくさんをよろしくお願いします!」

 俺たちは彼の後を追った。だがいくら追えども姿は発見できない。すると公園を近くに虫の群れが存在しているのが分かる。

「あの憑神は足止めだ。だが、放ってはならん。始末するぞ」

「だけど、どうやってですか? 俺は安瀬馬さんと憑神化なんてしたことありませんよ!?」

「やってみなければ分からん。自ら可能性を消す奴ほど愚か者はいない」

「分かりました。やります……」

 何が起きるか分からない。だけど、響子さんを助けるためだ。どんな無茶だってやってやる。行くぞ!!

 俺は刀へと変わり、安瀬馬さんに握られる。

 すると――

「うぐぅぅぅ!!」

 両者に凄まじい激痛が襲う。

「チッ! やはり、身体に合わんか。香澄、少しだけ我慢しろ」

 刀を持ち上げると、刀を持っている方の軍服が白く変化する。これは八色さんと憑神化してできる現象だ。

「無理矢理、貴様の憑神を制御している。一瞬だけなら殺人能力を使える。覚悟は出来ているな?」

 もちろんです。

「フッ、愚問だったな。くっ、あまり時間が無い……一撃で決めるぞ」

 分かりました。

 蜂と安瀬馬さんは共に近づき、安瀬馬さんは群れの中心に突っ込む。これじゃ刺される。いや、それも承知の上で。

「――範囲指定」

 安瀬馬さんの殺人能力は自分の腕の三倍の長さまで斬撃を伸ばせる。という一撃必殺の技だ。この技は工夫次第でどこまでも強くなると八色さんが言っていた。

 範囲を円状にして周りすべてにほぼ同時に斬撃を叩き込む。例えば正面に斬ったのに同時に後ろも斬れる。

 今回はそれを使った。四方全てを切り裂き、憑神を斬り伏せた。言葉通り、一瞬で勝負を決めた。

 安瀬馬さんは本当に凄い。慣れない憑神化でここまで能力を上手く扱えるなんて、俺たちの何倍も上を行っている。

 俺は憑神化を解き、刀を影に仕舞う。とてつもない疲労感に襲われ、膝をつかずにはいられない。

「犯人は逃した……。クソ、多少刺されたか。捕まるのも時間の問題だ。これで織神も治るだろう、ここからは警察の仕事だ。一度、南方のところに戻るぞ」

「分かりました。行きましょう」

 これで終わったと思っていた。だけど、これは事件の真相ではなく、新たな事件に(いざな)われただけだと知らず、俺は響子さんの回復を心の底から喜んだ。

事件はまだ終わってなかった

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