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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
貴方の影を追う
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第三話 捜査③

 俺は倒れた響子さんを病院に担ぎ込み、医者に診てもらった。今は治療も終わり、帰宅している。医者に現実を突きつけられた。

「毒はある程度取り除きました。ですが、絶対安静だけは守ってください。この方の織神の血がこの程度で済ませたんですから。憑神の毒は厄介でしてね、完全に取り除かなければ一生体に残るんです。無理に身体を動かそうとすれば全身に毒が周り、手足の痺れ、呼吸困難に陥る恐れもあります」

「全部を取り除くことは出来ないんですか?」

 男の医者は頭を掻き、カルテを見ながら答えた。

「可能ですよ。二つ方法があります。一つ目、薬で時間をかけて治療するか。この方が安全で織神さんの負担も少ない。あと一つは憑神を倒すか。この方法はあまりお勧めできません。時間がかかり、見つからない可能性の方が高い。薬を出しておきます、ゆっくりと時間をかけて直していきましょう」

「分かりました」

 響子さんは今、自室で寝ている。顔面蒼白だったが何とか回復し、今のところ落ち着いて寝ている。

 今回の憑神の毒。それは麻痺性の強い毒で注入されると手足の痺れ、呼吸困難。最悪の場合死んでしますこともある。

 最悪なことにならなくて本当に良かった。俺を襲う、漠然として強大な不安。もしかしたら彼女が死んでいたのかと考えるだけで体が言うことを聞いてくれない。まるで手足が痺れたように。俺の心も憑神の毒で侵されている。

 守ることが出来たはずの人。俺があの時、蜂のいることに疑問を持っていれば、あの蜂を斬り伏せれば何も起こらなかった。

 情けない。涙すら俺の身体からは出ない。あの時に戻れるなら必ず……いや、したところで意味のない妄想だ。いくらやり直したいと願っても叶うことなんてない。嫌になるくらい正確に時間は進む、俺は彼女を守れなかったこの事実だけを残して。

 進んだ時計の針は戻せない。

「クソ……俺の馬鹿野郎」

 そう漏らすと、ソファーに座って頭を抱える。

 事件も解決出来ないまま響子さんの回復を待つのか? 俺に出来ることは――


「邪魔するぞ」

 織神探偵事務所の扉を開けたのは懐かしい人物だった。白い髪、凛としている瞳。軍服を誰よりも着こなす。

 もう一人はメイド服を着た優しい瞳の女性。

「安瀬馬さん、八色さん!!」 

 俺の目の前にいたのは安瀬馬さんと八色さんだった。俺が呼んだわけではない。一体どうしてここに?

「香澄、歯を食いしばれ」

「え?」 

 安瀬馬さんに胸倉を掴まれ、無理矢理立たされてそのまま右の拳で殴られた。口内に広がる自分の血の味。

「!?」

「何故殴ったか教えてやる。それは貴様が殴ってほしそうな顔をしていたからだ。だがこれは――」

 もう一発殴られ、唇が切れる。

「この一発はオレが貴様に対する怒りだ。貴様、一体何のために強くなった? 織神を守るためではなかったのか? なのに織神が毒に侵されただと、貴様は何をしていた! 情けない顔を今すぐ止めろ。織神がそんな顔をした貴様を見たいと思うか?」

「私が……なんですって?」

 振り向くと、響子さんが壁伝いで来たらしく壁に手を当てたままなんとか自力で立っていた。

「響子さん、寝てなきゃダメだ!」

 駆け寄る俺を見て、彼女は力尽き倒れ込む。響子さんを抱き込む形で支えることに成功したが、容体は芳しくない。

 心配する俺をよそに彼女は、フフッと微笑みこう言った。

「五月蝿くて静かに寝れもしないわ……安瀬馬くん、助手くんを責めないであげてくれる? 私の責任なの……わがまま言って助手くんを付き合わせたから。助手くんは何も悪くないのよ。それでも殴るなら、私を殴りなさい」

「貴様も変わったな。分かった。これ以上は殴ることはせん。八色、織神をベッドまで運べ。香澄、貴様はオレと来い」

「分かりました。開斗様」

 八色さんはそっと響子さんを抱き上げ、俺の殴られた頬を一撫でして優しくこう言った。

「開斗様は貴方様方が心配なんです。だからあんなに激昂したんです。私も友人の泣き顔を見たくありません、どうか気をしっかり持ってください。織神様のことは任せてください。私が全身全霊で介抱しますから」

「ありがとうございます。八色さん」

 ニコッと笑い、八色さんは響子さんの自室に連れて行く。

 俺は安瀬馬さんに連れられてこのビルの屋上に上がる。何度か上がったことがあるがこの時期に屋上に出たのは初めてだ。

 外に出るといつもより肌を刺す冷たい風。太陽の光は雲によって遮られる。安瀬馬さんは空を仰ぎ、この場の空気を肺に取り込んでいた。

「先ほどはすまんかった」

 謝ろうとして先に声を発したのは安瀬馬さんが速かった。

「いいんです。殴られてはっきりと分かりました。俺が響子さんを守れなかったのは事実です。殴られて当然でした……俺、決めました。この事件は俺が解決するって」

「そうか、ならばオレも手伝うとしよう。貴様らにはあの時の借りがあるからな」

「借り?」

 思い出した。あの骨なし事件のことか。

「今回オレと八色は貴様のサポートに回る。この事件、その決意に応えて必ず解決させろ」

「ありがとう……ございます。安瀬馬さん、俺やります」

 自然と涙が溢れた。こんなにも支えてくれる人がいるなんて。

 いつしか曇り空は晴れ、日差しがこの町を照らす。季節に見合わない生暖かい風。俺の淀んだ気持ちと涙を掬い、奮い立たせてくれる。

 必ず捕まえてやる。響子さん、待っててくれ。俺が捕まえるまで。

久し振りに登場した安瀬馬さんと八色さん。

決意を新たにこの事件に挑む助手くん。

この事件のたどり着く意外真相とは?

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