第一話 捜査①
外はすっかり寒くなった。木々は霜をつけ、どことなく秋の終わりを冬の到来を感じさせる。当然、出歩く者は厚着をして快適に過ごしている。
俺も自転車で事務所に通っているが、肩で切る風が肌寒い。街を見渡すとコンビニではクリスマスフェアなど商業戦争が既に始まっていた。
クリスマスか……子供の時はよく親にプレゼントをせびっていたっけな。そういえばこの町でも前はサンタのコスプレをしていた人をよく見かけていたが、今ではめっきり見なくなった。風船やお菓子、チラシを配ったり、俺は駅前のサンタから貰える飴が好きだった。親と一緒に行って、多目的ホールでジャズのコンサート聞いてそのまま飴貰って手をつないで帰ったっけ。
そうだ、いつか忘れたけどクリスマスイブに一家惨殺事件が起こったことを今でも覚えている。あの時、はっきりとした善悪の区別がつかなかったけど漠然と嫌な感じがした。この事件の顛末は犯人が捕まって終わった。
話は変わるが、俺は響子さんと一緒にクリスマスを祝ったことがない。いつも事件が発生し、それ所では無くなるからだ。
今年こそは響子さんと一緒に祝えるといいな。
そんなこんな考えていると俺は織神探偵事務所の扉の前に来ていた。今日は何の朝ごはんを作ってあげよう。
「おはよう、響子さん」
扉を開けると、そこには毛布にくるまってがたがたとその白い肌の身体を震わせていた。一体何事だ!!
「どうした響子さん!?」
俺の声に気が付き、彼女はホッとした表情を浮かべ俺に向かって心配するなと言わんばかりに大丈夫の意味を込めてにこりと微笑んだ。
「あら……おはよう助手くん」
「あらおはようじゃねぇよ。一体どうしたんだよ?」
「ちょっと風邪を引いちゃって。頭もボーっとするし、視界もぼやけるし、今助手くんが五人いるわ」
「響子さん、今日は予定がないんだろ? だったら寝たほうがいい。立てないなら手を貸すぞ? ほら」
彼女の額に手を当て、熱を測るがとんでもなく熱い。こりゃ完全に風邪だな。にしても珍しいことが起きるんだな、響子さんは滅多に体調を崩さないことは俺が一番よく知っている。まぁ、響子さんも完璧超人じゃないし、季節の変わり目に気が緩んで風邪を引いたな。
「助手くんの手なんて借りなくても大丈夫よ……一人で、行けるわ」
立とうとすると響子さんはよろけて、フラフラと俺にもたれかかる。
「言わんこっちゃない。こんな時まで意地なんて張らなくて良いんだよ、肩貸してやるから」
ふと響子さんを見ると目は潤み、頬はほんのり赤くなり、いつもより唇が艶やかになっている気がする。そしていつもは見せない彼女の上目づかい。
見ているこっちまで赤くなりそうだ。
「お粥作ってやるから、大人しく寝ててくれよ」
「今日だけは大人しく……助手くんの言うこと聞いてあげるわ」
「そりゃどうも」
俺は響子さんの部屋に運び込み、ゆっくりとベッドに寝かせた。汗をかいている。俺はお粥を作る前に桶にお湯を入れ、顔の汗を拭く。本当は身体の方も拭くのがいいんだろうが流石に俺では拭けない。誰か女性の人に頼まなければ。
急いでお粥を作り、スプーンで一掬いして響子さんに差し出す。
「あーんして響子さん」
彼女は大人しく口を開け、パクリとお粥を口に入れた。そしてなかなかスプーンを離してくれない。
「離してくれないと次が食べさせれないだろ?」
不満そうにスプーンを離すと、響子さんは口を開かなかった。どうやらお粥は好きではないらしい。困ったな、何か食べさせないと。
「何食べたいんだ?」
「甘い物……」
「甘い物?」
こくりと頷き、もう一度俺に言う。
「甘い物が……食べたいわ。お願い助手くん、買ってきて?」
今日ぐらいは甘えさせてやるか。
「分かった、買ってくるから大人しくしててくれよ」
「ありがとう……お母さん」
「お母さん?」
おいおい、面倒見がいいとは言われるけど性別まで変えたつもりはないぞ。せめてお父さんだろ。そう突っ込もうと思うが彼女は横になってしまい、寝てしまった。
俺はお粥を朝ごはん代わりに平らげ、コンビニに向かおうとする。がしかし、事務所の扉が開き見知らぬスーツを着た女性が入ってきた。
「すいませーん!」
俺は顔を出し、出迎えるとその女性の後ろには南方さんがいた。
「すまない香澄くん、織神はいるか?」
「響子さんなら、今風邪で寝込んでいます。あの、解決の依頼ですよね? どうそ中に入ってください」
二人を招き入れ、俺はコーヒーを作りテーブルに置く。
「あの、南方さん。そちらの女性は?」
南方さんは一口熱いコーヒーを啜り、話し出す。
「あぁ、紹介がまだだったな。おい、自己紹介しろ」
「はい!」
元気に返事をすると、自己紹介を始めた。
「えっと、葛木しずくです! 前任の鳶さんの引継ぎで南方先輩の捜査の手伝いをさせていただいています。以後よろしくお願いします!」
初々しさが残る葛木さんは真っ直ぐな瞳をして、きっと履きなれない靴に歩きづらさを感じながら階段を登ったに違いない。短い黒髪を少々うざったそうにして緊張しながら自己紹介をしてくれた。俺はそれを微笑ましく思えこちらも軽い自己紹介をする。
「織神探偵事務所の助手をやっています香澄准兵です。こちらこそよろしくお願いします」
挨拶を手早く切り上げ、南方さんは本題に入る。
「今回は香澄くんの言った通り、事件解決の依頼だ。まだ報道されてないが最近、女性ばかりを狙った殺人事件が多発している。全て舌を切られ、叫べないようにされて惨殺されている。犯人は同一人物で間違いないだろう。引き受けるかどうか分からないなら詳しいことは教えられない。すまない。一応、引き受ける気なら俺まで電話してくれ」
「分かりました。一応響子さんに話してみます」
「あぁ、そうしてくれ」
それでは。と言って二人は事務所を後にした。
困ったな、響子さんが動けない中事件解決は難しい。だけど響子さんならこの依頼を引き受ける。話してみるがきっと答えは同じだ。
響子さんに無理はかけられない。この事件、もしかしたら俺一人で解決することになるかもしれない。
あまり間を空けずに更新します!




