第五章完結 それぞれの仕事
「すまなかった!!」
この村に大きな謝罪の言葉が飛び出る。鳶さんの死体を執行人に引き渡してから一日が経過した。そこには特段変わったこともなく、人々が自分自身の仕事に励んでいた。畑を耕す者や、遠くの小学校に歩いていく者。この風景も何も変わっていない。来る前と一緒だ。
ただ一つだけ、変わってしまったところを挙げるとすれば鳶さんが自分の意志で自害していなくなってしまったことだ。あの声も、情熱的な瞳も、心を穏やかにしてくれる優しい兄のような笑顔。そして南方さんに怒られる声も姿も聞くことも見ることも、もう無い。
響子さんと俺に頭を下げているのは南方さんで、なかなか頭を上げてくれない。困り果てた俺を見て響子さんは南方さんに水面を凪ぐように話しかけた。
「南方さん、頭を上げて。誰も貴方を責めやしないわ。こんなことが起きるとは誰も予想できなかった……勿論、鳶さん本人もね」
「いや、それじゃあ俺の気が済まない! 警察官から犯罪者を出してしまった、しかも俺の部下だ。つまりは俺の失態でもあるんだ」
南方さんはより一層、深く頭を下げた。上げる気配もないし、このままだと気まずいままだ。どうしよう。
そして響子さんは後ろを向き、風景を肌で感じながら南方さんに向かってそう言えばと言った。何を彼女は伝えようとしているのか俺には察しがついた。
「鳶さんからの最後の伝言を伝えてなかったわね」
「?」
ようやく顔を上げた南方さんは、響子さんの背中をまるで神に縋る信徒のような目で見ていた。
「今まで、迷惑かけてすいませんでしたって。確かに伝えたわよ」
すると南方さんは無骨な手で顔を覆い、地面にボロボロと涙を流していた。肩を震わせ、きっと鳶さんとの思い出を振り返りながら。
「馬鹿野郎……! 迷惑かけるのが新人のてめぇの仕事だろうがよぉ。俺はまだ迷惑かけられたりねぇよ。畜生、今度から誰に飯を奢ればいいんだよ」
その姿を俺は黙って見ながら、響子さんに話しかけようとすると誰かが駆け寄ってくる。
「響子お姉ちゃん、准兵お兄ちゃん!」
そこにいたのは奈央くんと真央ちゃん、そしてそれを追ってきたのか馬場さんに里崎さんが遅れて到着した。
「どうしたの? 私に何か用?」
膝を曲げ、同じ目線に並びふふっと優しく微笑みながらそう訊いた。
「もう行っちゃうの?」
奈央くんがそう悲しそうな声で言った。
「そうよ。私にはやらなきゃいけないことがあるから、帰るのよ」
「お姉ちゃん、帰ったら元気でね」
「ええ、ありがとうね」
真央ちゃんが俺の所に寄って来て、ぐいぐいと服の袖を引っ張る。一体、どうしてのだろうか?
「どうしたの?」
俺は耳を貸した。
「ありがとう。准兵お兄ちゃん」
喋った。初めて声を聴いたが、とても可愛らしい声だった。俺は素直に嬉しくなり、笑顔で彼女の頭を撫でる。
「二人とも、帰るの?」
里崎さんがにっこりと笑い、俺たちに話しかけた。
「ええ、大変だったけど楽しかったわ。貴方たちも辛いでしょうけど頑張って」
二人とも頷くと、清々しい風が吹く。子どもが駆け抜けるような淀みない感覚、さぁ戻ろう。俺たちの町に。
第六章をお楽しみに!




