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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第七話 真相①

 俺は今日も元気に照り付ける太陽の光を、反射し自らを美しく見せている川の前にいた。この川は十勝さんが惨殺されていた場所。良い記憶ではないが、印象が強く忘れたくても忘れられない。小鳥さんを逃がした鳶さんの虚ろな瞳を横目で気にしながら、その後ろで息を切らしている響子さんを心配する。

「大丈夫か響子さん。急いで来なくても良かったのに」

「ここで急がなきゃいつ急ぐのよ。でも、急いだ結果がこれじゃ骨折り損だわ。汗もかいちゃったし」

 響子さんは汗を嫌な顔をして拭いながら、鳶さんにこう尋ねた。

「貴方の家にお邪魔してもいいかしら? 小鳥さんの物で何か手がかりになるものがあるかもしれないから」

 反応がない。

「鳶さん?」

「え? 何ですか?」

 話を聞いていなかったというより、今まで意識が別の空間にいるみたいだった。それもそうだろう、死んだはずの小鳥さんが先ほどまでまるで俺たちと遊ぶように走っていたのだから。

「だから、貴方の家にお邪魔してもいいって聞いているのよ」

「ええ、どうぞ構いません。事件解決に繋がるなら」

 俺たちは鳶さんの家に向かった。

 この事件は何かがおかしい、尾白様の祟りと言い、死んだ小鳥さんが目の前に出現したこと。落ちていた小刀と犯行に使われたまだ見つからない刃物。俺たちは重大な事実を見逃しているのではないか? だとしたら、それは何処の?

 分からない。頭の中が靄にかかり、答えを隠している。俺は響子さんの方をちらりと見ると、彼女は歩きながら顎に手を当て考え事をしていた。足元に転がる小石を躓かないように器用に躱しながら、先行している鳶さんについて行く。

 それにしても煮え切らない。尾白様が憑神と分かったなら、殺人能力が必ずあるはずだ。それが分かりがすればこの事件は解決に大きく前進する。人を惨殺する能力ならいくらでも見てきた、爆発や灰にする能力。

 不幸にする能力なんて物もあった。だが、今回の能力は察しがつかない。以前にも言ったが、憑神には分からないことが多すぎる。

 名前が知れているのが、俺が知る中では不幸蝶しかいない。昔から憑神を払っているあの御三家ですら、これだけしか分かっていないのだ。響子さんや安瀬馬さんが予想しても当たらないのがほとんどだ。

「着きましたよ」

 鳶さんの一言で、俺と彼女は散らばっている思考を集めて通常運転に戻す。

 玄関の扉を開け、招かれ入る。そこには線香の独特なあの匂いが家の中を支配していた。鼻孔を掠めた匂いは奥の仏間にある。遠目から見て分かる、そこには小鳥さんの写真がある。

「お線香をあげても?」

「どうぞ、小鳥は人と話すことが好きでしたから。喜ぶと思います」

 俺たちは靴を脱ぎ、きちんと揃えて奥の仏間に足を踏み入れる。遺影の前で正座し、線香をあげ、手を合わせて目を瞑り、心で対話する。

 お邪魔します。と一言声をかけて目を開けた時、俺は小刀が置かれている場所に視線が行ってしまった。

 形から言えばあの置物は刀を二本置くために作られた物だ。一本は十五を迎えた鳶さんに贈られた物で、もう一本が無い。それは犯行に使われたあの小刀に間違いないはずだ。椿の紋章が彫られている、あの小型と同じ。


「なんで、小鳥が俺の前に現れるんでしょうか?」

 鳶さんが小鳥さんの遺影を見ながら、哀しそうな目をしながらそう言った。

「俺たちを憎んで……? 小鳥はみんなのことが好きだった。なのに、どうして?」

「私には分からないわ」

 響子さんが、ゆっくりと口を開く。

「小鳥さんがどう思ってても、私たちには関係ない。あの子の想いなんて生きている貴方たちが勝手に想像したもの。それが彼女の本心だと限らないわ。だけど、あの四人のことが好きだったと小鳥さんが言ったならば、犯人は貴方たちの罪の意識を利用して小鳥さんの想いを踏みにじっている。それだけは絶対に許されることではないのよ」

 響子さんが立ち上がり「失礼したわね。私たちはこれで」と言って、他には何も言わずに鳶家を後にした。俺は鳶さんに頭を下げ、彼女の後を追った。

「響子さん、なんで鳶さんにあんなこと言ったんだよ。あれじゃ心の傷を抉るもんじゃないか」

「なんでって、死者の声は誰にも届かないのよ。じゃあ助手くんはあの二人は双子だから心が通じ合ってるとでも言うの? どんなに近い人間でも死んだら想いも言葉も届かない、そういうものよ」

 響子さんがいつにもなく哀しい目をしていて俺は何も言えなかった。

 そしてただ目的もないように歩いていたと思っていたが、どうやら響子さんは村長の家に向かっているらしい。尾白様のことについて聞き出すらしい。

 だが、あの村長がすんなりと答えてくれるだろうか? いささか心配だ。

 村長の家にたどり着き、玄関を一回、二回とノックする。反応がない。もう一度ノックするが先ほどと同じく反応がない。

 じれったさを感じた響子さんは玄関の戸を開け、お邪魔しますと声を出し問答無用に入る。奥から声が聞こえる。村長の声だ。

 奥に進むと、和室で狐の小さな石像に歌を捧げていた。拝んでいる、尾白様が人を殺す憑神と知らずに。

「なんじゃ。この老いぼれに何か用か?」

 歌を止め、喋り始めた。

「ええ、貴方に尾白様のことを聞きたくてここに来たのよ。入ってもよろしい?」

「入れ。茶などは出せんが、我慢なされ」

「構わないわ」

 本日二回目の正座に堪えながら、村長と響子さんの話を聞く。

「すまぬが、尾白様のことは教えられぬ。村の者にも教えておらぬもの、どうして部外者に教えられる?」

「理由ならあるわ」

「ほう、してその理由を聞こう」

「私と助手くんなら、この祟りを止められる。それだけよ」

「ならぬ。祟りは収まるまで耐えなければならぬのだ、止められるものではない」

「良いの? いつ終わるか分からない殺人を見て見ぬふりをするそれが生きながらえる術なの? 次は貴方の身なのかも知れない」

「だとしてもじゃ」

「頑固を通り越して愚かね。貴方にも信念があるなら、私にだってあるわ。事件をみすみす見逃すなんて出来ない。貴方だって孫のように可愛がっている村人たちがこれ以上死ぬのは嫌でしょう?」

 村長は黙り込む。その沈黙の中で村長が導き出した答えは――

「一つだけ教えよう。尾白様は昔、化け狐でな……憑りついた人間の姿を幼少期から今に至るまで真似して人を殺して回っていたそうじゃ。悪いが、それしか教えられぬ」

 その言葉を聞いた瞬間、響子さんが閃いた。

「そいうことだったのね。助手くん、犯人が分かったわ。急いで電話をかけて! 止めさせてもらうわ。このふざけた殺人事件を」

 俺の耳に何故か祈り歌が何度もリピートしている。その歌を掻き消すように、響子さんの自信に溢れた表情とともに声が聞こえた。

 この事件はもうじき、終わる。

次話、事件が解決します!

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