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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第六話 捜査⑥

 小春日和、美しい景色が立ち並ぶこの村で俺たちが見たのは美しい景色ではなく、秋の日差しに照らされた血みどろになった大野さんの死体だった。虚ろな目をしていて、ただ一点を見つめていた。凄まじいほどの血の臭い、絶えず流れる血からは今の今まで生きていたことを証明してくれる。

 胸、腹、下腹部、首、額。あらゆる所から出血している。殺し方はこの前と同じ、無数の刺し傷。死体から滴る血は大地を赤く彩り、皮肉にもこの紅葉の美しさを引き立たせてしまった。赤く、紅く、朱い。この程度の言葉では表せないほどに俺たちの見ている景色は赤い。

 胸に釘が刺さったような鋭い痛み。それは大野さんを救えなかった自責の念か、それとも犯人に嘲笑られながら刺された物か。どちらにせよ、俺を苦しめたのには間違いない。

 連絡をくれた里崎さんは泣き崩れ、その小さな体を震わせていた。大野さんを改めて見ると痛みがこちらにも伝わってきそうだ。

 柔肌を切り裂く刃物。叫びながら、許しを請いながら、むせび泣きながら、祈りながら、後悔しながら、絶望しながら彼女は死んでいった。

 怒り? そんなもの感じていないわけがない。俺は今犯人をぶん殴りたい気分だ。俺の(ほとばし)る怒りを冷たい風が撫でるが、その風は俺の怒りの炎を更に炎上させた。

 大野さんに何の恨みが? 彼女が何をした? 彼女には家庭があった。罪は無い人の命を奪って何が楽しいんだ。

 必ず捕まえてやる。俺と響子さんで。

「助手くん、怒る気持ちは十分に理解できるわ。でもねこういう時こそ一流は冷静たるものよ。怖い顔は貴方には似合わないわ」

 俺の怒りを鎮めてくれたのは他の誰でもなく響子さんだった。彼女の温かい言葉が、気持ちを落ち着かせてくれた。

「すまん、つい。熱くなっちまって、だよな。ここで熱くなったら犯人の思う壺だもんな」

「そうよ。貴方と私でこの事件を解決するのよ。一緒に、大野さんや十勝さんの無念を晴らしましょ」

「分かった。ありがとう響子さん、おかげで冷静になれたよ」

「それじゃあ、桐之座町に帰ったら好きな作者の新作発売だからサインをもらいに行きましょうね。そのためにも」

「あぁ、分かってる。こんな事件一刻も早く終わらせよう」

 そこから後から駆けつけた鳶さん、馬場さんで大野さんの死体を下ろす。目を閉じ、ブルーシートに包み運んでいく。

「さて、状況を整理しましょう。まず、第一発見者は誰?」

 震えた手を上げたのは里崎さんだった。彼女が第一発見者。

「喋れる?」

 響子さんは里崎さんに近づき、肩に手を当て話しかけた。無言のまま少しの時間が過ぎ、里崎さんが頷いた。


「私が、麻耶ちゃんの帰りが遅いから様子を見に行ったら……うう、殺されてた。勿論、脈は確認したよ。少しだけなら脈があってでもどんどん冷たくなって、そうしたら……私に喋りかけてきて」

 大野さんが最後の一言。まさにダイイングメッセージだ。

「何て言ったの?」

「秘密を知ってる……って言ってた」

「秘密? それって?」

 彼女が首を横に振る。

 秘密を知ってる? 一体何の秘密だ? 小鳥さんのことか? いや、分からない。

「教えてくれてありがとう里崎さん。後はゆっくり休んで」

 里崎さんが大勢の人に囲まれて、この竹林を後にする。それとすれ違いに鳶さんが俺たちに駆け寄ってきた。

「随分早いのね。ここから会館までっていったら十分はかかるわよ」

「いや、俺たちの近道を使ったんですよ。そこを通ると三分は短縮されます」

「近道、色んなところに繋がってるのね。じゃあ私たちもそこを通って帰りましょうか」

「そうだな。一回、会館に帰ろう。凶器のことも気になるし」

「凶器?」

 しまった。凶器のことは鳶さんには秘密だったんだ。俺の馬鹿野郎!

「そうよ。犯人が十勝さんを殺す使った小刀、川に落ちていたの」

「そんなところに有ったんですか。家の一本が無くなってたから心配していたんですよ、よもやこんなことに使われているんなんて」

「もう少し調べたら、お返しするわ」

「分かりました」

 俺たちは近道を通り、会館に戻っていた。木々が何故かざわめく、おかしいいつもは元気な鳥や動物たちがいない。嫌な予感がする。

「小鳥……?」

 鳶さんが立ち止って森の奥を見ると、ワンピースを着た一人の少女が立っていた。

「小鳥!? 待ってろ、聞きたいことがあるんだ。お前が二人を殺したのか!!」

 鳶さんは走り出し、逃げる小鳥さんを追う。まるで追いかけっこしているみたいだ。小鳥さんがまだ遊び足りないとでも言ってるかのようだ。

 俺たちも急いで後を追う。しかし、足場が悪く響子さんを気遣いながら走ると必然的に速度が低下する。

「私に構わず、行きなさい!!」

 彼女の言葉に背中を押され、加速する。地に頭を出した根を躱し、落ち葉に足を滑らせながらも手を着き、体勢を崩さずに走り抜ける。追いかけていた鳶さんの背中が止まった。

「どうしたんですか?」

 止まり、鳶さんに尋ねると鳶さんは「小鳥がいなくなった」と呆然とした表情で答えた。

「はぁ、はぁ、走るのなんて金輪際嫌よ。余計に疲れちゃったわ」

 響子さんがようやく追いつき、止まった場所で言葉を放った。

「ここ、十勝さんが死んだ場所じゃない」

「本当だ。あの場所だ」

 俺は気が付かなった。大野さんが言った私たちの秘密と言う意味、森を抜けるとこの場所に出ることも。

 その事実が事件の闇を暴いていく――

次は真相です!

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