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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第五話 捜査⑤

 俺たちは昨晩、凶器である小刀を見つけた。それを持ち帰るのには苦労したが今は響子さんの部屋で保管してある。朝が来て、改めて見てるみると(はばき)と呼ばれている場所に椿の花が刻まれていた。これが何を意味をしているかまだ分からない。

「どうだ、響子さん。この小刀におかしいところはあるか?」

「強いて言うなら……この椿の紋章よね。ただの小刀にこんな洒落たものつけるとは思えないし、何かしらの意味があると思うの」

 意味か。確かに響子さんの言う通り、ただ切るためならこんな椿の紋章はいらないはずだ。この村特有の物だろうか? 調べてみる価値はある。

「鳶さんを呼んで話を聞いてみるか?」

「いえ、まだこのことは知らせないでおきましょう。もし、犯人にこのことが知れたらきっとこの凶器を回収するはずだから。それにしてもこの村、何かきな臭いわね。調べるにしても歴史書がないと」

「歴史書? 鳶さんに凶器のことをは隠すとして、このことは聞いた方がよさそうだな」

 俺は響子さんに了解を得て、鳶さんに連絡した結果。この村の外れに江戸時代から明治になるまでやっていた寺子屋があるそうだ、そこに歴史書があるらしい。俺たちはタオルに小刀を包み押入れの中に隠した。

 見つからないか心配だけど、部屋にましてや女性の部屋に入ることはしないだろう。俺たちは会館を後にして村の外れの寺子屋に向かった。

「この村って広いのよ。だから嫌いなの、そう思わない?」

「そうだな。きっと、この村も昔は賑わってたんだろうな」

「今とは真逆ね。今は人はおらず、猫や狐が一杯。まるで動物たちの理想郷ね、良いわね猫って気楽で」

 目の前にはあの響子さんにすり寄ってきた猫がいる。それを見て微笑みながら近寄ろうとするが今回は逃げられてしまった。

「あら、逃げられちゃった。昨日はあんなにすり寄ってきたのに。おかしいわね、助手くんまたたび持ってない?」

「んなもん持ってるかよ、またたびなんて持ってたら今頃猫に囲まれてる」

「良いじゃない別に。私、猫に囲まれて寝てみたいわ。ふかふかに囲まれてきっといい夢が見れそうよ」

「ロマンチックだな。きっとニャーニャー五月蝿くて寝れないけどな、逆に不眠症になりそうだ」

「まぁ冗談が通じない人だわ。女の子はいつでもロマンチックなのよ」

 そう響子さんが言うと竹林が見えてきた。

「竹林? 初めて見たけど迫力あるな」

「助手くんは見るの初めてなの? 私は何度か見たことがあるけどこんなに立派な竹林は初めて見たわ」

 俺たちは竹林に足を踏み入れる。地面は落ち葉で埋め尽くされていて、一歩歩くたびに落ち葉たちが音を奏でる。

 とても綺麗な景色だ。木漏れ日や胸を透き通っていく風、鳥たちが上で合唱している。今日は昨日と打って変わって天気は良い。殺人事件が起きなければ、俺たちは土砂が無くなるまでこの美しい景色を堪能できただろう。

 進むと、そこに籠を背負った一人の女性がいた。


「大野さん?」

 響子さんが声をかけると、大野さんはにこやかに微笑み手を振ってこっちに歩み寄ってくる。籠の中のは山菜が沢山ある。

「お前らここでなにやってんだ? 道に迷ったのか?」

「違うの。私たち寺子屋に行きたくて、大野さんは?」

「ん? 今日のご飯用に山菜を取っていたんだ。今日のご飯を美味しい松茸ご飯だ。にしても寺子屋ねぇ」

「何か心当たりでも?」

「いやさ、よくみんなで遊んでたなぁって。小鳥が死ぬ前もさ、宗助もいて。楽しかったなぁ。いけね、もう泣かないって決めたのに出てきちまう」

 大野さんは目を抑えながら必死に感情を噛み殺していた。

「泣きたい時は泣いてもいいのよ。悪いことじゃない、迷惑のかかることじゃない。笑いたい時は笑って、泣きたい時は泣いて。それが生きている人に許された特権ですもの」

「ありがとう。でも、私はもういいだけ泣いた。宗助にも励まさられたりしてさ、だから私はあいつの分まで生きて笑うよ」

「そうね、それがいいわ」

「寺子屋にはここを真っ直ぐ行くだけで着く。足元に気を付けて行けよ」

「ええ、ありがとう」

 俺たちは大野さんに別れを告げ、再び歩き出す。ひたすら真っ直ぐに歩いていると竹林を抜け、大野さんの言った通り寺子屋があった。

 ボロボロで、触れればすぐに朽ちて崩れてしまいそうなほどだ。扉を開けるには慎重に開けないといけないな。

「開けるときはしんちょ――」

 そう言い切る前に響子さんは思い切り扉を開けた。ここ寺子屋は人に使われなくなって動物や虫たちの雨風を凌ぐ場所になっていたらしい。木の腐った臭いが酷いが。

「最悪! (ほこり)だらけじゃない。村の歴史書が置かれているんだから少しぐらいは手入れしなさいよ!」

「ほんとだ、こんなんじゃ使わなくなるのも当然だな。こんなところに歴史書なんてあるのか? 俺、不安になってきたぞ」

「私もよ。あることを祈って探しましょ」

「結果は神のみぞ知るってか……さぁ、気合入れて探すか」

 俺たちはまず、手分けして歴史書を探した。古びた教壇に机、畳は腐っている。おまけに動物の糞に何の虫か分からない卵に、蛇の抜け殻まである。

「助手くん、あったわよ! こっちに来て!」

 俺は響子さんの声がするところまで駆け寄ると、そこには思った以上に本が並ばれてあった。きちんと本棚に収まっている物、床まで落ちている物、雨に濡れ全く読めなくなっている物、様々だったが比較的に最近のもある。

 そしてある個所だけ、綺麗にまとめられてあった。誰か来たんだろうか?

「綺麗にまとめられているここは江戸時代から、二十年前の物があるわ。さて、久し振りに楽しい読書でもしましょうか。あと珈琲があれば最高だけどね」

 彼女は本を手に取り、読み始める。俺も彼女に手伝うように歴史書を読み始めた。そこには貢物になった人の名前や家系。そしてこの村の風習として十五歳を超える者と、貢物となった者に小刀が贈られるようだ。犯行に使った小刀は村の大人全員持ってるってことになる。

 村人全員が容疑者? いや、そんなわけがない。きっとどこかにヒントでもあるはずだ。俺は次のページを捲るとその家系に相応しい花が小刀に刻まれてるようだ。

 そこには鳶の花と書いてあり、紋章は椿の花。それもそうか、小鳥さんは自分の家の小刀を使ったんだ。

「ねぇ助手くん、ちょっとこれ見て」

 響子さんにそう言われて、俺は彼女の読んでいる歴史書に目を通すと奇妙な絵が描かれていた。江戸時代の絵だろうか、美術館でよく見る浮世絵の絵柄だ。一人の刀を持った男が暴れて、人を殺している。その男には狐が憑りついている。

「おい、これってまさか」

「そのまさかよ。これは村長が言っていた尾白様の祟り。この本に書かれていることは憑りつかれた男は人を惨たらしく殺したと書かれているわ。この意味、分かる?」

 直感した。この文章が何を書いているのかも。

「嘘だろ……こんなことって」

「嘘じゃないわ。真実よ、この村が祀っている尾白様は――憑神よ」

 俺は言葉を失った。俺たちが見てきた憑神はいつも人に憑いて殺人を犯す。だが、今回の憑神は神として崇められている。

 有り得ない、こんな話聞いたことがない。

「ある意味、この村の全てが憑かれているのよ」

「じゃあどうやって犯人を見つけるんだ!?」

「そうだとしても、この村の人を開放するには本体を、犯人を見つけ出すしかないわ。やることはいつもとなんら変わらない。どう、安心した?」

 そう響子さんが言うと彼女の携帯電話に電話がかかってきた。

「もしもし、あぁ里崎さん。どうしたの? え……? 嘘でしょう? そんなことって、ええ分かった。今すぐ向かうわ!」

 彼女は携帯電話を震える手で、ポケットにしまい俺に残酷な真実をその紅い口で告げた。

「どうした?」

「大野さんが死んだ」

「嘘だろ? なんで!?」

「私にだって分からないわよ……取り敢えず、あの竹林に向かうましょう!」

 俺たちは大急ぎで、寺子屋を後にして竹林に向かった。そこには大勢の人がいる、皆上を見上げている。俺たちも上を見上げると竹に無数の刺し傷を負った大野さんが吊るされていた。

さて、どんどん事件は進展していきます!

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