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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第四話 捜査④

 十勝さんが死んだ。月夜が美しいこの夜に。俺たちは犯人を見た、それは死んだはずの小鳥さんの姿だった。

 響子さんが死体を見つめ、十勝さんの開いていた目をそっと閉じる。

「これ、憑神の仕業だよな」

「そうでしょうね、こんなむごい殺し方……許せないわ」

 無数の刺し傷、直接の死因はこれで間違いないだろう。すると、村人たちが集まり始めた。里崎さん、馬場さん、大野さんが十勝さんの死体を見て絶句していた。鳶さんを含めた他の三人にも受け入れられない現実がそこにはある。

「祟りじゃ!!」

 村長が松明を持って、そう叫んだ。

 祟り? 一体なんの? 俺は疑問を持ちながら数人の村人の力を借りて死体をブルーシートに包み、運ぶ。

「尾白様の祟りじゃ!!」

「尾白様の祟り? そんなのあるわけないじゃない。これは立派な殺人事件よ、独りでに死んだわけじゃない。十勝さんのあの目を見れば分かるわ。怖くて堪らなかった、生きてやりたいこともあったでしょう。その未来を奪ったことは万死に値するわ」

 みんな一度各自の家に戻った。俺と響子さん、鳶さんは会館の食堂の椅子に座っていた。彼の弱った瞳には生きる意志も感じられない。

「辛いところ申し訳ないけど、尾白様の祟りって何?」

 腕を組み、村長が叫んでいた祟りについて訊く。鳶さんは自分の意識をはっきりさせるために何度か自分にビンタをした。

「尾白様の祟りとはですね、祈りの時期に貢物がなかったりすると村人が死んでいくことです。江戸時代に一度祟りがあったようですが、まさかそれが今日起きるなんて」 

「貢物ってまさか。あの自殺者?」

 沈黙が続く。その沈黙がすでに答えだった。つまりは俺たちが自殺として処理した事件が祈りの時期に差し出される貢物だったなんて、でも貢物が死んだらそれこそ祟れる心配がないんじゃないのか? 響子さんも俺も考えていることは間違っていなかった。

 死ぬ時期がずれた。

 それが祟れる原因。

「死ぬ時期がずれたのね。だから村長は尾白様の祟りと騒いだ。でも何故なの? 貢物は望まなくとも犠牲として承知していたんじゃないの?」

 俺はこの答えが分かった気がする。自分が死ぬのは嫌なんだ、そうやって村が発展してるのを黙殺していたのにどこか他人事で、自分に関係ない世界だと決めつけていたんだ。自殺した理由がどうであれ、この村の間違いに気が付いて死んだのは確かだ。

「分からないです。ただ一言言えるなら……自分が死にたくないからです。だったらどうせ呪ってやろうと思ったんでしょうか」

「それも含めて捜査する必要があるようね。ありがとう鳶さん、貴方はもう休みなさい」

 鳶さんが帰り、食堂は俺と彼女の二人っきりになってしまった。ろくな会話もなく、お互いにこの事件の謎について考えていた。

「助手くん、小鳥さんがどうであれまずはどうやって十勝さんを殺したか調べましょう。特に近づいて来た道。温泉の周りには民家は無い、一番近くても十分は最低でもかかる。私たちが十勝さんと離れてたったの五分。叫んだ時間も含めてね」

「瞬間移動でもしたってのか?」

「馬鹿。いくら憑神の仕業と言っても瞬間移動なんてある訳ないじゃない、漫画とかじゃないんだから。もう少し現実的な意見をして頂戴」

 彼女は呆れて、俺にこう言った。

「ここにいても埒が明かないどころか、迷宮入りしそうよ。十勝さんが殺された場所に向かいましょう」

「そうするか……」

 俺たちが席を立とうとすると、そこには奈央くんと真央ちゃんがいた。手には何か持っている、懐中電灯だ。

「二人とも起きていたの?」

 響子さんが腰をかがめ、二人と同じ目線になって話す。

「外が騒がしくて……起きちゃった。お姉ちゃんみんなどうしたの?」

 彼女は迷わずこう言った。

「十勝さんが死んだのよ」

「宗助お兄ちゃんが死んだの!? お姉ちゃんの嘘つき! 宗助お兄ちゃんが死ぬわけないもん。強くて、お姉ちゃんの何倍も強いのに……嘘つきお姉ちゃんは嫌いだ……」

 奈央くんも真央ちゃんも泣いていた。堪えながら、響子さんに何かを言い続けることしか出来ない。きっとこの子たちも辛いんだ。

「貴方たちの涙。無駄にはしないわ、絶対に犯人を捕まえる」

 二人の涙を手で拭い取り、まるで自分に言い聞かせるように宣言した。犯人を捕まえると。

「ほんと?」

「本当よ。私は生まれてから嘘をついたことないのよ? だから安心して寝てなさい。ね?」

「うん。じゃあ、この懐中電灯を持って行って! 外は暗いから」

「ありがとう。奈央くん、真央ちゃん」


 俺たちは二人から懐中電灯を受け取り、十勝さんが死んだ場所に来ていた。満点の星空にその光を反射している川。殺人事件が起きていなければこの景色ももっと美しく映っていただろう。だが現に殺人事件は起こってしまった。感傷に浸っている時間は無い。

 その川に不自然に光を反射している物がある。そこに近づき、懐中電灯のライトを当ててみるととんでもないものがあった。

「これ、凶器か?」

 俺は川に沈んでいた小刀を発見した。何故、こんな所に? ここは小鳥さんが立っていた場所だ。と考えると必然的にこれは凶器で間違いない。

「小刀? 魚の代わりに随分物騒なものが泳いでいるのね。ええ、それがきっと凶器よ。それを使って十勝さんをめった刺しにした」

「持って帰るか?」

「そうね、凶器である以上持って帰りましょう。鞘は無いの?」

「見たところない。このまま持って歩き続けると誤解されるぞ、今日のところは一回帰ろう」

「そうしましょう。助手くん、明日の朝に警察に電話をしてくれるかしら? 遺体もちゃんと埋葬してあげないといけないから」

 俺たちは今日のところは一旦引き上げ、会館に小刀持っていることを見られないように歩く。ただ、この事件は凶器を見つけたことにより更なる深みへと俺たちを引きずり込んだ。

どんどん謎は深まります!

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