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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第三話 捜査③

 俺たちは乾き始めた大地を歩き、会館に戻った。会館に戻ると、双子の奈央くんと真央ちゃんがせっせと夕食作りの手伝いをしていた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんもうちょっと待ってて。奈央も真央も頑張るから!」

「偉いのね、手伝いするなんて。きっと将来二人ともいい大人になるわ」

「やったー!」

 響子さんはゆっくり階段を上がり、自室に戻ろうとする。俺もそれにつられるように四人に「ありがとうございました」と言って階段を上がる。

 調理室から何かを焼いている香ばしい匂いがする。魚を焼いてくれるのかな?

 階段を上がりきると、響子さんが窓を見ていた。

「響子さんどうかしたか?」

「ううん、別に何でもないけど……ちょっとね」

 彼女は浮かない顔をして自室の引き戸を開け、入った。俺は彼女の表情を不思議に思いながらも、夕食が出来るまで部屋で仮眠をとった。

 やがて奈央くんと真央ちゃんに起こされて、一階の食堂に向かうと先に響子さんが待っていた。夕食のメニューは焼き魚に、野菜、煮物、ご飯に味噌汁。日本古来の一汁三菜の形が出来ていた。最近の食生活は気を使っているが、偏っているのでこう言った料理は有難い。

「あら、助手くんやっと目が覚めたのね。貴方が来るまで待っていたのよ。謝るなら私を含めて、この人たちのも謝りなさい」

「どうもー」

 手を振ってくれたのは里崎さんと大野さん、そして十勝さんに馬場さん。あの四人もここでご飯を食べるのか。

 だけど、鳶さんがいない。喧嘩して止めに入り、そこから彼の姿は見えていない。どうしたんだろう? まさか、死んだ妹の後を追って自殺したとか言わないよな。

「みなさん、すいません」

 俺は頭を下げて、響子さんの前に座る。みんなで頂きますと言ってご飯を食べ始めるが、その前に聞きたいことがある。

「あの、馬場さん。鳶さんは一体どこに?」

 馬場さんは箸を止め、俺の質問に答えた。

「あいつなら今、実家で寝てる。あいつのかあさんが言ってた、それがなんかあのか?」

「いえ、姿が見えなかったから少し心配で」

 答えにも納得して、快くご飯を食べ始める。だけど嫌な予感がする、胸を濁らせるような、誰かに首を絞められているような感覚。

 まるで俺たちを拒むように村の人々は、そっぽを向く。その事を気にしておらず関わってくれる鳶さんとその四人。

 この村はおかしい。そんな気がしてならない。貢物の話を聞いた時に背筋が凍った、人を殺して村の繁栄を祈るなんて、だとしたら今年の貢物は? あの五人は違うとして、誰がその残酷な役を引き受けたんだ?

 貢物は自ら命を絶つ。――いや、考えるのはよそう。今は夕食をしっかり食べて、土砂が取り除かれるのを待とう。

 それが一番の得策だ。


 俺たちは綺麗にご飯を食べ終わり、部屋に帰ろうとした時に四人に引き留められた。その理由は温泉にいかないかという誘い。

「どうする響子さん」

「うーん、折角なんだから行ってみてもいいじゃないかしら。久し振りに温泉にでも入ってゆっくりしたいわ」

 決まりだ。俺たちは会館にあった、タオルを持ってこの村唯一の浴場に向かう。日は完全に沈み、夜の村は暗い。会館以外には電気が通ってないらしく、外に出歩く際には蝋燭が必需品らしい。だが、綺麗な月明かりが街灯の代わりに照らしてくれる。

 空を見上げると夜空の星々は見てくれと言わんばかりにそれぞれ光り輝く。こんな綺麗に見える星を見たのはいつぶりだろう、無料のプラネタリウムショーを見ているみたいだ。 

「ここが大浴場」

 十勝さんがそう説明してくれると、男女の暖簾もくぐり、浴場に入った。俺たち以外には誰もいない。まさに貸し切りだ。

「村のやつらはあんまり使わないんだ。俺たちはよく来てたけど」

 馬場さんがそう言うと服を脱ぎ、露天風呂に浸かる。

 俺も露天風呂に入るととても気持ち良かった、日々の疲れを癒してくれるみたいだ。熱過ぎす、かといってぬるくもなく本当に丁度いい温度だ。

 三八か四〇度くらいの温度かな。自分の家のお風呂より若干熱いがこのくらいだと程よく汗が出る。

「なぁ、香澄さん。あんた織神さんとどういう関係なんだ?」

 十勝さんが藪から棒に聞いていた。

「どうって言われても、俺たちは探偵と助手の関係です。それだけならまだいいんですけど、響子さんの三食を作らないといけないし、給料は払ってくれるかどうかだし、給料に見合わない仕事させられるしでもう心身ともに疲れますよ」

 しまった、どういう関係かと訊かれたのにいつの間にか愚痴っぽくなってしまった。俺は十勝さんの顔を見ると「大変だね」と言われた。

 同情されてしまった。

「そういや、沙紀のやつは隼人のこと好きだったんだよな。小鳥はびったりくっついてたのは嫌だったらしいが」

 頭を洗いながら眼鏡を外した馬場さんが、ポロリとほろ苦い青春の秘密を暴露した。

「そういうお前は沙紀のこと好きだったくせによ。よく言うよ」

「宗助、お前は確か麻耶のことが好きで告白して振られたんだっけ? 三日三晩泣いてさ、俺と隼人で慰めるのがどれだけ大変だったか」

「それを言うなよ。俺は何も言えなくなるだろ」

 二人が思い出話に花を咲かせているうちに、俺は温泉に肩まで浸かり星空をこころいくまで眺めていた。すると女性陣が入ってきた。

 声が漏れている。

「織神さんってスタイル良いんだね!」

「あら、そういう里崎さんこそ締まった体つきしてるわよ。何かやってるの?」

「高校の時野球やっててさ、私たちのチームが弱小でね。私が一年生時必死に練習して県大会まで行ったんだよ」

「すごいのね。私は運動なんてからっきしだもの、そういう人は尊敬するわ」

「アハハ、ありがとう。あっ、麻耶ちゃんだ。おーい」

 楽しい会話が聞こえる。

「俺たちよく覗いてたな」

 十勝さんが何食わぬ顔でそう言った。

「そうなんですか!? それでそのあの人たちには怒られなかったんですか?」

「小学生の時だけどな。俺は桶を投げられて落ちたのよ」

 ハハハっと豪気に笑ってみせる。

 俺はあまりそう言うのには興味がなかったおかげか、今もあまり興味が湧かない。そこからも男女談笑を重ね、風呂を上がった。


「気持ちよかったわね。そう思わない助手くん」

 響子さんが微笑みながらそう言った。

「そうだな、久し振りに温泉に入ったらスッキリした」

「私たちも定期的に温泉に行きましょうよ!」

「そんな金がどこに? んな金があったら食費にあてるよ」

「もう、現実的なんだから。もう少し肩の力を抜きなさいよ。こういう時は目一杯楽しむの。それが人生を楽しむ方法なのよ?」

 彼女がそう言うと俺はあることに気が付く。十勝さんがいない、周りには大野さん、里崎さん、馬場さんしかいない。

「十勝さんは?」

「あいつなら忘れ物したから、取りに戻った。あと五分もすれば追いつくだろ」

 そうじゃなかった、彼はもう追いつかない。

「そうな――」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 

 男の叫び声。俺は直感した、これは十勝さんの声だ。

「響子さん!!」

「分かってるわ、行くわよ!」

 俺たちは急いで叫び声の方へ駆けると、近くを流れている川に星を見上げるように浸かりながら血だらけの十勝さんがいた。

 無数の刺し傷、夥しいほどの血が川を赤く染めている。顔もぐちゃぐちゃに切り刻まれて誰か見分けがつかない。

「宗助!!」

 馬場さんが一歩遅れて駆けつけると、響子さんが。

「見ないで!! 貴方たちは特に」

「どうしたんですか!?」

 叫び声を聞きつけた鳶さんが息を切らしながら、死体を見る。

「宗助……?」

 鳶さんや他の三人は絶句した。今まで生きていた人間が絶命したところを見て。

 俺たちは雲に隠れていた月光が照らし、誰かの姿を捉えた。

「小鳥? 小鳥!!」

 そう、その姿は死んだと聞かされていた鳶小鳥さんの姿だった。鳶さんは弾ける栗のように飛び出そうとするが俺と響子さんで必死に抑えた。

「小鳥! 返事をしてくれ!! 頼む、宗助を殺したのは誰なんだ!?」

 鳶さんが叫び声を上げて小鳥さんに訊くと、彼女は微笑みながら自分を指差した。そして再び、月が隠れると同時に俺たちの前から姿を消した――

死んだはずの小鳥さんが犯人?

さぁ、事件が進みます!

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