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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
心に刃を忍ばせて
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第二話 捜査②

 俺と響子さんは、鳶さんの依頼で彼の故郷である神峰村に来ていた。仕事はすぐに終わったが、突如襲った豪雨により、小規模だが土砂崩れが起き、唯一帰る道が通れなくなってしまった。

 鉛色の空が徐々に青色を取り戻しつつある。地面はぬかるんでいて、転んでしまはないように気を付けて歩いていた。この村は比較的に涼しい、浴衣には肌寒いが山紫水明の景観でその事を忘れさせてくれる。

「ほんと、この村って見るところないわね」

 響子さんが周りを見ながら、心無い一言を放った。

「確かに、そうだけど。ここで住んでいる人もいるんだから、それなりの魅力はあるんだよ」

「魅力ねー、例えばそこの野良猫とか?」

 空地に野良猫が大量に集まっていた。猫でも、尾白様って言ったか、それを祈る習慣でもあるのか? 俺は先ほど見た集会の様子に酷く似ていた猫の群れを見て笑ってしまった。

 すると一匹の猫が響子さんに近づいてくる。

「どうしたの? あっちでみんな集まっているわよ」

 膝を曲げ、猫を撫でる彼女を気に入ったのか、猫は甘い声で鳴き自ら頭を手に擦り付けている。

「うふふ、可愛い」

 そう呟く響子さんは猫をあやしていた。俺は動物と戯れている彼女を見たことがなかったが、意外と動物に好かれやすいタイプかもな。

「助手くんも触ってみない?」

「せっかくのお誘いだけど遠慮しとくよ。猫アレルギーなんだ」

「残念ね、猫を触れないなんて人生の半分いえ、人生のほぼ全て損してるわよ」

「ハハッ、猫なんかに俺の人生は支配されてねぇよ」

「それもそうね」

 ハハハとお互いに笑いあって、響子さんは猫を群れのもとに帰す。彼女は少々物惜しそうな顔をして立ち上がる。

「この村にも魅力はあるみたいね。主に猫だけど――きゃあ!?」

 彼女は立ち上がる際にぬかるんだ大地に足を取られ、お尻から転ぶ。転んだ音に驚いた猫たちが一斉に逃げ出す。

「いったいわね……」

「大丈夫か響子さん」

 俺は手を差し伸べた。だが、その時に俺はある事に気がつく。ある事とはなんとも言いにくいが、浴衣がはだけて胸の谷間が見える。

 これはいかんことだ。ここで赤面したら俺は響子さんを辱めることになる、視線が向かないようにしないと気付かれる。ここの得策は何食わぬ顔で彼女を立たせてあたかも何もなかったのように、振る舞うことだ。

 やれるな香澄准兵!!

「ほら、手貸してやるから」

「ありが……貴方どこ見てるのよ」

「え? ……どこも見てないけど?」

「嘘おっしゃい。私の胸を見て……」

 彼女は俺の手を取る前に自分の胸を押さえて、赤面した。耳の先までまるで苺のように赤い。そして俺を蔑む目で見る。

 気付かれた。気付かれたぁぁぁぁぁ!! 見てたわけじゃない、凝視してたわけでもない。だけど男としての本能が不可抗力と言えども視線を動かしていた。

「見たの?」

「不可抗力だよ、わざとじゃない!」

 彼女は俺の手を取らずに一人で立ち上がる。浴衣をしっかりと着直し、お尻をぱんぱんと払う。

「助手くん」

「なんだ響子さん?」

 俺はそう言った瞬間ビンタされた。

「乙女の裸を見てこれで済んだことに、土下座して喜びなさいよ」

「はい、すいません」

 本当に土下座して謝りたい気分だ。タイムマシンがあるなら五分前の過去に戻って、俺自身に忠告してやりたいよ。


 俺たちは何事もなく村の中を進み、神社を見つける。そこには鳶さんと他の四人の友人がいた。だけど様子が変だった。

 何か言い争って、十勝さんに鳶さんが胸倉を掴んでいる。大きな声を出している。その声が怒号だと気付いた時はすでに喧嘩の仲裁に入っていた。

「止めてくださいよ! 何があったんですか」

 俺はあの温厚そうな鳶さんがここまで怒りを露わにするなんて、一体何があったんだ? こんなに仲が良さそうな五人に一体なにが?

「鳶さん、落ち着いてください。何があったんですか?」

 鳶さんは一応落ち着いだが、何も言わず十勝さんに頭を下げごめんと謝りこの場から去って行った。

「鳶さんに何があったんですか?」

 俺は四人に問う。だが、皆黙り込んだ。

「話しても良いんじゃないか?」

 眼鏡をかけた馬場さんがそう他の三人に対して言った。

「そうだよ、言っても罰は当たらないよ」

 ポニーテールの髪型の里崎さんは馬場さんの意見に賛成した。

「お前らは?」

 十勝さんと大野さんは黙り込んでいたが、首を縦に振って返事をする。それを見て、馬場さんが神妙な顔つきをして話を切り出す。

「隼人には、双子の妹がいたんだ。あいつらそっくりでよく俺たちを騙してた。小学六年生の秋、妹の小鳥は貢物に選ばれた」

「貢物?」

 響子さんがその意味について訊く。

「この村は」

「それは不味いって、村の掟だぞ!」

 十勝さんが馬場さんの発言を止めようとしたが、それは走り出した闘牛のようにもう遅かった。

「俺たちはもう、前科もちだろ? 今更守っても意味ねぇよ。この村は、この時期になると祈りの時期って言って人を、貢物として差し出すんだ」

「それってまさか、人柱?」

「まぁ、似たようなもんだ。俺たちは村の掟を破って小鳥を逃がそうとした、その前の日。小鳥を逃がしたら俺たちが貢物にされる。だけどそれは怖くなかった。フッ、子供の時は何でも出来たからな」

 馬場さん以外の人はうつむき、上唇を噛む者、服の袖を握りしめる者がいた。

「前の日、俺たちは遊んだんだ目一杯な。でも、小鳥は崖から落ちて川の石に頭を打って死んだ。死体はほら、そこの川まで流れてきた」

 馬場さんが指差す向こうには美しい小川が、ようやく顔を出した太陽でキラキラと光を反射しながら流れている。

「ただの事故だと今の今までずっと思ってた。けど違うんだよな? 宗助」

 馬場さんの視線に気が付き、十勝さんは手を強く握っていた。

「何とか言えよ。さっき話したばかりじゃねぇか、お前が言えないなら俺が言うぞ」

「いや、大丈夫だ。俺から言う」

 十勝さんは俺たちを方を向いて語り出す。

「俺は死ぬのが怖かった。俺はあの崖で、ここで小鳥を殺せばって考えていた。でも行動には移せなかったんだ。小鳥の笑顔が頭でちらついてしょうがなかった、だから俺たちが代わりに死のうと考えて、帰ろうとした時に」

「足を滑らせて死んだと」

 響子さんが最後の一言に付け足した。

「そうだ、俺はあいつが流れていくのを見た。俺はあいつを見殺しにしたんだ」

「もう、許されてもいいんだよ。私たちは、十分償ったよ」

 そう大野さんが初めてこの会話に口を出す。

「あぁ、そうだ。もう忘れてもいいんだ、お前のせいじゃない、事故だったんだ。きっと小鳥も許してくれるよ」

 馬場さんが十勝さんの辛い胸中を察し、そう言った。

「そうだと、助かる……」

 すべて言わなくても何故、鳶さんが憤慨したか予想はつく。この事実を聞かされ、どうしようもなくなって十勝さんに怒号を飛ばしたんだ。 

「ここは貢物にされた人の墓替わりなの。だがら私たちはいつも祈りの時期にこうやって、お参りしたの」

 里崎さんがこの神社の概要について説明してくれた。

「貴方たちはどうしてここに?」

 里崎さんの問いに答えたのは響子さんだった。

「ちょっとした散歩よ。まさかこんなことになるなんて思わなかったわ」

「お詫びかどうか分からないけど、私たちに案内させてくれないかな。ここの自然すごいんだよ」

「私たちも丁度、見るところがなくて困ってたの。案内してくれると助かるわ」


 俺たちは馬場さんと十勝さん、大野さん、案内を提案してくれた里崎さんに連れられて森の奥へと進む。草木には雨水の水滴がついている。

「結構、険しいね」

 笑顔で近くにいた大野さんに話しかけた。

「昔は、すいすい行けたんだけどな。今となちゃな、進むだけで一苦労だ。よくここで鬼ごっことかかくれんぼしたなぁ」

「楽しかったよね。夕方になっても隼人見つかんなくて、村の大人全員で探したっけ。そこからかくれんぼ名人って呼ばれて」

「あいつは隠れるのだけはうまいからな。運動神経も悪くて、よく転んでたよな」

「そうそう、よく泣いてた」

 そんな人だったのか。鳶さんは仕事上で会わせてもらっているけど、全然知らなかった。やっぱり友人っていいもんだな。俊之何してんだろうな……

 進んでいくうちに、川が横たわって俺たちの進路の邪魔をしている。

「こっちだよ。近道していくから」

 里崎さんに導かれるままに、不思議な空間に入った。木々がまるでトンネルのようになっていて、地面が剥き出しになっていてとても歩きやすい。 

「普通に歩けば十分ぐらいかかるけど、この道なら五分くらいなら短縮できるよ。私たちしか知らない秘密の道。色んな所に繋がってるんだ」

 里崎さんが教えてくれたその秘密の道を抜けると、小さな丘に出た。

「もう少しかな。あっ! 見えた!」

 雲の間から顔を出したのは朱色の美しい夕日。ここからだと桐之山や、その夕日に照らされている桐之座町が見える。

 あそこから見る夕日と全く違う。俺は自然の神秘を肌で感じていた。

「もう少しで夕食だ、織神さん、香澄さん。引き返そう。村のやつらはよく思っていないが俺たちは違うからな」

 十勝さんがそう言うとみんな頷く。この人たちはここの自然のように温かく俺たちを歓迎してくれた。

 俺は惜しさを感じながら、この場所を去った。

夜は犯罪を加速させる

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