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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
息をして生きて
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第四章終局 百合の花は水面に散る

「なんだ、こんなところに呼び出して。三部」

「ごめんなさい静さん。でも話があるのは私じゃないんです」

 夕日が完全に沈み、三日月が夜の桐之座町を照らす。私たちは夏帆さんが死んだ公園、桐島(きりしま)公園に来ていた。

 夏帆さんが死んだとされる場所の近くの木にはシャノン同様、多くの花束が献花されている。私は結に頼み、静さんを呼び出してもらったの。その理由は言うまでもなく真実を暴くため。

「こんばんわ、静さん。ごめんなさいねこんな夜中に呼び出して」

 時刻は午前一時。町が寝静まる時間帯に私は彼女を呼び出した。

「織神、何のために私を呼び出した?」

「勿論、犯人が誰か伝えるためよ」

 私は腕を組み、一呼吸おいてはっきりと告げた――

「夏帆さんを殺した犯人は……貴方よ。静さん」

 私は導き出した、彼女が犯人と言う答えを。結に教えた時は気が滅入ったわ。同業者が、夏帆さんの親友が犯人だったなんて。

「おいおい、なんで私が犯人なんだよ? 苦し紛れの推理ならやめとけ」

「苦し紛れ? 面白い冗談ね。それが貴方の最後の冗談になるわよ」

 静さんは笑った。

「じゃあさ、教えてくれよ名探偵。私が犯人だって理由を」

「痛い目をみるのは貴方だけど、その覚悟はあるんでしょうね?」

「あぁあるさ。お前は推理が外れた時の謝罪文を考えるんだな」

「私の推理は外れないわ、絶対にね」


 緊張の渦が秋の夜風を感じる暇もなく、私たち全員を強制的に渦の中に引きずり込んだ。そして私は彼女が犯人である理由を喋りはじめた。

「まず、初めに聞くけど貴方どうして死因が溺死だって知っていたの? あれはラジオやテレビ、新聞でも何者かに襲われて死んだとしか報道されていない。」

「それは――」

「警察と店長の会話を盗み聞きした、とでもしておきましょう。だけどこれは言い逃れできないわ。何故、貴方は私一人でシャノンに来た時に夏帆さんが穏やかな表情をして死んだと言ったの? いえ、何故知っていたの?」

 彼女は黙る。それと正反対で鈴虫の声が私の近くで鳴き続けている。

「それと、あの錠前がついている日記には貴方のことが書いてあった。あれ、友情のノートって言うのね知らなかったわ。だけど貴方が持っていた感情は友情ではなく、愛情。静さん、貴方は同性愛者ね」

 そう、静さんは同性愛者。日記にはその事が書かれていた。素直な夏帆さんはそれを受け入れようと必死だった。でも彼女は違った、いつまでも明確な答えをくれずに挙句の果てには男と付き合おうとしている。

 それがどうしても許せなかった。

「そうだ。悪いか? 生まれてきてからずっとそうだった、夏帆を見て夏帆ならって思ったんだ。好きなんだよ夏帆が!」

「悪い? 悪いわけないじゃない。愛には様々な形がある、けど貴方の愛は歪んでいたのよ。違うわね、歪んでしまったのね」

 私がオムライスに書いたあのハートみたいに。

「推理の続きをしましょう。夏帆さんが殺された日に貴方は彼女を呼び出した、最初から殺す気でね。そして殺した。殺した理由は私の考えだけど、貴方は答えをくれない彼女に腹を立てて、殺してしまえば自分の物になると考えたから」


「……正解だよ。私が夏帆を殺した。お前の考え通り、殺せば自分の物になると思ってたんだ。あいつは今も私の心の中で笑ってるよ。お前たちが邪魔したんだ、私と夏帆の大切な時間を!」

「貴方は溺れてしまったのね、嫉妬に怒りに、愛に、それと憑神の力に。残念だけど、貴方はもう浮き上がれないわ。最後に死ぬ直前に夏帆さんが言った一言言い当ててあげましょうか」

『――ごめんね』

「黙れ!! お前が夏帆を語るな! 知らないくせに、偉そうに言いやがって、ウザいんだよ。これ以上私の夏帆を汚すなら殺す!」

「私の夏帆? 笑わせないで! それは貴方が勝手に作り上げた虚像じゃない。哀れね、自分で殺しておいて本物の夏帆さんの魂は自分のものにもならないのだから。今すぐ夏帆さんに謝りなさい!」

「黙れぇ!! 耳障りなんだよ、お前の声が。夏帆の声が聞こえないじゃないか。邪魔なんだよ!!」

 彼女は激昂の後、影から青色と黒が混ざった大きな鷲らしき憑神を呼び出した。結は驚愕のあまり声を出せず、腰を抜かしているが私は堂々と憑神と向き合った。

「死ね!!」

 空気が震えるほどに鳴く憑神は、獲物を狙っている獰猛な目をしている。私に向かって圧縮された水が撃ち出される。あれが、夏帆さんを殺した殺人能力。それで私も殺そうとしている、だけど私は死ぬ気はない!

「遅くなった。大丈夫か響子さん」

 私の目の前には助手くんがいる。片手には日本刀、もう片方にはビニール袋を持っている。筋肉が増え、逞しい顔つきをしていた。

 彼は水の弾丸を見事に斬り伏せ、刀を地面に刺しこちらを向く。

「怖いか三部、大丈夫だ。ここからはこれを持って目を瞑ってろ」

 結は何も言わずこくこくと頷いた。助手くんは彼女にビニール袋を預けて、そのまま彼女は目を瞑る。それを見て彼は少し微笑み、私に声をかけてきた。

「響子さん無茶するな。俺が間に合わなかったらどうすんだよ」

「でも、間に合ったじゃない。さぁ、ここからは貴方の仕事よ」

「了解。さて鳥野郎、さっさとやろうぜ」

 助手くんは憑神に向けて刀を向けた。


 *****

 先制攻撃を仕掛けたのは憑神の方だった。小さな水の塊を六つ出現させ、約一秒ごとにその塊を一つ一つを撃ち出す。

 全部を叩き落さなくていい。響子さんや三部に当たらないのを躱せばいい。俺はまず一つ斬り落とし、そのまま二つ三つ、四つと続ける。

 五つ目は俺の頬を掠めるがこれはわざと斬り落とさなかったものだ。後ろの木の幹を貫通するが二人には当たっていない。

 六つ目を横に刀を振るい、砕く。

 今度は俺が攻める番だ。

 八色さんによって鍛え上げられた足に力を入れ、今まで以上に加速する。初速が速い。憑神は反応が遅れ、俺のアッパーを喰らった。

 八色さんに習ったのは何も剣術だけじゃない。分からないことが多すぎる憑神に対する知識や、刀以外の戦い方。

 そのすべてを一ヶ月で身体と頭に叩き込んだ。

 今思えば、死にかけたことが幾らもあった。でも、諦めないでよかった。これで響子さんを守れる。

 俺は空中で体勢が崩れた鷲の足を掴み、地面に叩きつけた。この攻撃はあまり有効ではなさそうで、お返しに水の塊を俺の腹に撃ち込んだ。

 圧縮してぶつけただけで、まるでコンクリートにでもぶつかったみたいな衝撃だ。

 俺はその衝撃で宙に浮きもう一発の塊で吹き飛ばされるが、素早く受け身を取って立ち上がる。刀を逆手に持ち駆け出す。

 鷲も水の弾丸を細かく牽制するように撃ち出すが、俺には当たらない。あくまでも牽制か。

 元々あまりなかった距離を詰め逆手の刀で一閃。だが躱された。しかし、俺の狙いはここからだ! 

 腰の鞘を素早く抜き、回転して鞘で鷲の首を殴る。


「もう、一撃ぃ!」

 俺は逆手から持ち方を普通の握り方に直し、回転の勢いを殺さず、今度は刀で突く。鷲の喉を貫通し、黒い煙が噴出する。

 そして鞘でダメ出しの一撃を腹に加え、刀から無理矢理抜いた。

 鷲は動かない。

「お前、何者だ?」

 あの鷲に憑かれた人か? 彼女は俺を怪物か何かのように思っているらしく、この憑神を倒せされたこと自体に疑問を持っていた。

「俺か? 俺はメイド喫茶シャノンのおりにゃんの第一号のファンだ!」

 俺がそう言うと響子さんは頭を抱えて「あの馬鹿」と言って呆れていた。

「ふざけるな。お前なんかに私と夏帆の邪魔はされてたまるか!!」

 その言葉に呼応するように憑神が黒い煙と化し、彼女の口から侵入する。

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」

 体内から憑神に浸食され、左手が鷲の足のように変化する。

「助手くん、やるわよ」

「いや、響子さんは下がっててくれ。あれぐらいの浸食率ならまだ俺だけでも倒せる」

 響子さんはムスッとして後ろに下がる。気合を入れてきてくれたのは悪いけど、本当にこの程度なら俺だけで対処できる。

「出来れば、斬りたくない。大人しく捕まってくれないか?」

「ウゥゥゥゥゥ、コロス、コロス、ゴロズ!!」

 やっぱり人格を食われたか。こうなったら倒すしかない。長引かせたくない、一瞬で終わらせよう。


 俺は刀を鞘に戻し、脱力。彼女が駆け出しその鋭い爪で俺を切り裂こうとしている。

「終わりだ。そのまま寝ててくれ」

 引き裂こうとしていた彼女が地面に這いつくばっている。接触する瞬間に刀を抜かないまま、彼女に重たい一撃を食らわせた。これで暫く動けないだろう。

「響子さん、執行人に電話を」 

「ええ、分かったわ」

 響子さんは執行人に電話をかけ、執行人が瞬く間に現れる。

「おやおや、今回は織神嬢は手を出していないので?」

「助手くんがね、どうしてもって言うから今回は手を出さなかったのよ」 

「で、その彼は?」

 響子さんは俺の方を指差す。

「香澄殿、今回のお手際お見事でございました。ささやかながら敬意と感謝の言葉を贈ります」

 執行人はハットを取り、頭を下げた。

「いいんですよ。それより彼女を」

「では、罪人を捕えよ。叶風」

 棺桶を突き刺し、その棺桶が開くと鎖が倒れている彼女を縛る。これで終わると思っていた。

 ――だけど、今日は終わらなかった。

「!!」

 なんと捕まえた彼女が暴れ、肩甲骨のあたりから鷲の羽を生え出した。その羽が鎖を引き千切り、空に飛翔する。

「嘘だろ……」

 ここまで浸食されるとさすがに俺だけでは無理だ。響子さんと憑神化するしかない。

 俺は刀を抜こうとした時、執行人が手を出し制止させた。

「これは我々のミスです。香澄殿は刀を収めください。ここは、我らがやります」


 彼が棺桶をとんとんと誰かを起こすように叩き、こう言った。

「おいで()()。久し振りに狩りの時間だよ」

 棺桶の中から幼げな印象が強く残る、茶色い髪の赤いワンピース姿の少女が眠たい目をこすりながら出てきた。

「パパ、まだ寝てたい」

「すぐ寝れるさ。今飛んでる人がいるだろ? あれを捕まえればすぐだ。だから、深羽の眠りを邪魔をするあれをこらしめてあげよう」

「分かった。パパのこと信じる」

「良い子だ」

 彼は頭を撫で、少女はその瞳を覚醒させ強い殺気を放つ。凄まじい悪寒がする。八色さんと同じ? いや、下手するとそれ以上だ。

「いくよ、叶風。あいつを叩き落して」

 少女の影から無数の鎖が飛び出し、逃げる彼女を追う。どこまでも伸びていきついに鎖の一つが捕まえた。

「落ちちゃえ」

 少女は無邪気な笑みを浮かべたまま彼女を地上に叩き落す。

「パパ、これでいい?」

「あぁ上出来だ。あとはパパがやるからね」

「うん!」

 元気よく返事をすると少女は黒い煙となり、執行人と一体になる。あれは間違いなく憑神化。だけど一体何で執行人が?

 執行人は双剣を己の影から取り出し、構えることもなくただ立っている。

 彼女は鎖を破壊し、僅かに飛びながら執行人に突進してくる。このままでは爪が当たってしまう。

「貴女とは遊んでいる(いとま)がありません。失礼ですが、これで終わらせて頂きました」

 執行人に羽と脇腹、片足を切断され、彼女は再び地面に這いつくばる。何が起きたのか分からなかった。と言うより、見えなかった。

 あのたった一瞬でこれだけのことをやってのけてしまうのか。

「罪人を捕えよ。叶風」

 冷たく言い放ち今度こそ彼女を棺桶に入れ、何事もなく立ち去ろうとした時、響子さんが止める。


「貴方、園江家の人間だったのね。名乗りなさい」

(わたくし)の名は(その)()辿(たどる)。そして先ほどの子は私の娘、園江深羽でございます。この(ふた)()を以後お見知りおきを」

 そう言うと執行人いや、園江さんは冷たく吹き付ける夜風とともに消えていった。

「結、終わったぞ」 

 彼女は途中から目を開けていたようだ。涙を流し、ビニール袋を強く握っていた。彼女にも全部話そう。俺は響子さんと目を合わせて、頷いた。

「二人とも帰りましょう。夜の風は寒いわ」

 俺は二人を連れ、事務所に帰った。

園江家の者。パワーアップした助手くん。色々と出てきましたが次話も楽しみにしてください!

次話は後日談となります

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