第六話 真相①
私は夏帆さんの住んでいたアパートから、鍵がないと開かない特殊な日記を持ち帰ってきた。
問題はその鍵の在処、部屋にはなかった。遺体の服にも、バックにも入っていなかったと南方さんに確認を取った。
秋の太陽の日差しがいつもより、うざったく感じるのは推理が上手くいってないせいかしら? だけど、鍵は確かにある。誰かが奪ってない限り。考えよう、彼女がお守りと言っていた鍵を一体どこにもっていくのか。
私が彼女ならどうする? バックに入れておくのが普通だと思う、でもそのバックにはなにもない。あとは仕事場? きっとあの鍵は静さんとの友情の証だと思うの。だから、夏帆さんの支えである静さんの代わりとも言える鍵をどこにしまうか?
メイド服。鍵の在処を確認したついでに聞いた話、南方さんがあの暴力彼氏に言った話では、鍵を片時も離さずに持っていたと言っている。私生活の時もポケットかどこかにしまっていたと考えたら、メイド服のポケットに入れていてもおかしくない。
いや、彼女の思考を考慮して考えてみても可能性は十分ある。けど、忘れるの? そんないつも大切にしている物を。
メイド服に入れ忘れている仮定で話を進めてみよう。
忘れるほどの理由があった。例えば誰かにあの公園に呼び出されたとか? あの暴力彼氏? 違う、もっと親しくて、何でも話し合えて、信じあえる仲。
そう考えると、彼女しかいない。
静さんしか思い当たらない。だけど、呼び出しただけかもしれない。そのあと誰かに殺されたかもしれない。
私がソファーで考えているとラジオからニュースが流れる。
『メイド喫茶シャノンで働いていた木山夏帆さんは、公園で何者かに襲われて、殺害されました。犯人も見つからず、警察も手をこまねいています。生前は働いていたシャノンや、公園にはファンだった人からの大量の花束が献花されているそうです』
とにかくこの仮定を実証しに行きましょう。
私は結に事務所の留守番を頼んで、シャノンに行くため出掛けた。
夕日が月と交代する前に最後の輝きを見せている。鮮やかな紅色、街路樹の紅葉も綺麗に見える、街灯がつき始め夜の訪れを告げる。
十分程度歩くと、シャノンの前には沢山の花束が置いてあった。そこには静さんがいて、色鮮やかな花を見ているというのに、まるで汚物を見ているような目。
手には花束、すべて同じ花。私は花は流石に全種類を暗記できなかったけど、あの花は分かるわ。
あの花はピンクのガーベラ。確か花言葉は崇高な愛、崇高な美。彼女は花を見ると微笑み、そっと添えた。
彼女は私に気が付き、近づいてくる。
「やぁ、犯人は捕まりそうかい?」
「残念ながらまだよ。今すぐにも捕まえたいけど、ぬらりくらりされてね、なかなか尻尾を使えるのも苦労してるの」
「そうか……」
「貴方は何故ここに?」
彼女はシャノンの花束で一杯になっている入り口を指を差し、これに用があったと言った。
「だけど、夏帆のやつ溺死で死んだんだよな。可哀想に……それでも穏やかな顔して死んだのが唯一の救いだ。そう思わねぇか?」
「そうね、だけど私はそうは思わないわ。犯人は今もどこかで笑っている。夏帆さんを殺しておいて笑うなんて外道がすることよ」
「なら、犯人捜し頑張れよ。私は帰る」
彼女は去って行った。私は彼女の姿が消えるのを確認して店の中に入る。そこには店長が飲み物を箱に入れ、厨房の冷蔵庫に運んでいた。
「店長!」
店長は私に気が付き、重そうに箱を置くと汗を拭った。
「こんばんわかな? もうシャノンを休めないと思ってさ。せめていつでも働けるように、夏帆ちゃんが働いていたいつもみたいにしておきたいんだ。じゃないと夏帆ちゃんに怒られそうでさ」
「そうですか、私も手伝います」
私も店長の手伝いをして、テーブルを拭いたり、フロアを掃き掃除したりとバイトしていたころを思い出す。
「ありがとう、響子ちゃんのおかげで早く終わったよ。でも、なんでシャノンに来たの?」
目的を忘れるところだったわ。
店長にある程度事情を話し、ロッカーにそのままにされているメイド服を探る。
「!!」
あった。メイド服のポケットに鍵が。
私は店長に別れを告げ急いで事務所に戻り、結にどうしたの!? と聞かれながらも何でもないと答えた。日記を持ち出し、結は味噌汁の火を止めてエプロンのまま日記を開けるのを見る。
「開けるわよ」
「うん」
私は鍵を入れ、日記の錠が外れた。そしてそのまま日記を開く。そこには静さんとの思い出で一杯だった。
遊園地に行ったことも、お祭り、海、紅葉、子どもみたいに雪合戦をしたことも、春には桐ヶ丘にある桜を見たことも。
それだけじゃない、静さんに相談したことも、彼女が関与していることはすべて書いてあるわ。私は大体半分くらいで、ページを捲る手が止まった。
そこにはあの彼氏と静さんの喧嘩したことが書かれてあった、お互いにボロボロになって彼氏が引き下がった。
ここからだ、静さんについての感想が徐々におかしくなっている「あの子が最近、私の家に泊まっていく。それだけなら大歓迎。だけど、あの子は私に抱き付いてきた。何かがおかしい」
「あの子がどんどん大胆になっている、泊めるときは体を触られ、まるで口説こうとする男の人のように甘い言葉を囁いてくる」
「怖い、まるで別人みたい」
この日記を見て私の脳細胞が騒ぎ出した。殺人的に思考が加速して、この事件にかかわっていることをすべて思い出す。
「溺死で死んだんだよな」
「穏やかな顔して死んだのが唯一の救いだ」
何故、貴方が知っているの? ラジオでも何者かに襲われて死んだことしか報じられていない。
「怖い、まるで別人みたい」
これだけの判断材料、動かぬ証拠。貴方が犯人だったのね。
「結、犯人が分かったわ。それと貴方に頼みたいことがあるの」
やっと手が届いた答えは、私たちにとって最も残酷な真実なのかもしれない。けれども、私は暴かなくてはならない。そこにどんな答えが待ち受けていようとも。
次話は終局です




