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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
息をして生きて
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第四話 捜査③

 私は事務所近くの喫茶店で結と別行動を取って、ある程度のことを話して自他ともに認めるファンの美濃雄大に話を聞いていた。

「で、貴方はこの事件どう思う?」

「どう思うって……」

 歯切れの悪い答え。私はそんなに難しい質問をしたつもりはないんだけれども、彼は頭を悩ましている。

「俺は、犯人を許せない。私情だけど、ファンとしても、夏帆さんが好きだった。一人の男としても……これで正解かな?」

「この質問に正解なんてないわよ。貴方の見解なんだから、人は自分自身の答えを持っているの。それを他人に押し付けようとしてその結果、傷つける」

 私は頼んでおいた珈琲に大量の砂糖を入れ、かき回した渦を見ながらそう言った。

「そういう、ものなのかな?」

「そういうものよ。だからこそ、相手のことを考えて行動しなきゃいけない」

 私の好きな甘い珈琲を一口飲み、彼の顔を見ると、きょろきょろして落ち着かない目の動きをしていた。

「貴方は、夏帆さんのどんなところに惹かれたの? やっぱり、あの笑顔と優しいところ?」

 緊張を解くために世間話を始める。

「もちろんそういうところも好きだけど、俺はあの頑張ってる姿が好きなんだ。いつも丁寧で、気遣ってくれる姿も……ね」

 彼は悲しそうな顔をしていながらも、先ほどよりハキハキとどことなく嬉しそうに喋っている。緊張も少しは解けたみたいね。


「貴方、好きなことになった途端に話し出すのね」

「ハハッ、それがオタクってもんさ」

 彼は少しばかり笑みを浮かべて、今度は私に質問してきた。

「探偵さんはいないの?」

「何が?」

 最初はその言葉の意図が理解できなかったけど、いつも聞かれていることかと、私の女の勘がそう呟いている。

「いないわよ。今も昔も好きな人なんて」

「でも探偵さん美人だし、頭も相当良い筈でしょ? 何で?」

「何でって言われてもね……」

 考えたこともなかった。私に好きな人が出来ない理由、高校のときは人を避けていたということもあって、できなかったのは必然。

 だけど今は? あの時と違って私は一人じゃない。そうだ、助手くんがいる。

「でも」

「でも?」

「この気持ちが好きなのか分からないけど、私には好きな人はいないけど、大切な人ならいるわ。それは友人だったり、同業者だったり色々だけどね」

 私の世界はどこか欠けている。そう、こう言った話をされた時に思うことがある。誰にも補われず、ただ一人でその壊れた私の中の地球儀を見ていた。

 くるくると回してみるけど、変わりのない、同じ場所がぐるぐると私の目の前で踊る。

 突然だけど、私は家族で、サーカスを見に行ったことがあるの。あの道化師(ピエロ)はおどけていて、ひょうきんだった。昔は純粋に笑えた。

 だけど、時々夢で見るその道化師は私だった。すべてが客へのパフォーマンス。私が声を荒げようが、笑おうが、時に蔑まれ、軽蔑され、嘲笑われる。

 すべてが仕組まれた世界ならば、いっそのこと壊してしまいたい。あの人が、私の目の前に現れた日から変わってしまった。


「どうしたの? ボーっとして?」

「ちょっと、昔のことを思い出してだけよ。夏帆さんも、貴方みたいな人に好かれて良かったわね。きっと、彼女も喜んでいるはずだわ」

「そうかな? そうならいいけど」

 彼は初めて破顔させた。人懐っこい、良い笑顔だわ。

「俺は犯人を捕まえたい」

 緊張が完全に解け、自分の気持ちをつらつらと語り始めた。

「だから、俺に犯人を捕まえる手伝いをしたい! 他のファンのことを調べているんでしょ? 俺さ、夏帆さんのモバイルファンクラブの管理人なんだ。知ってる限り教えるよ」

 そして二人のことについて分かった。

 一人目は斎藤(さいとう)孝一(こういち)。三十代の男性で、サラリーマンをやっている、日ごろの疲れやストレスで傷ついた心などを癒すために通っている。

 ファンの間では切り込み隊長の孝一と呼ばれ、開店と同時に店に入り、閉店間際まで、常時夏帆さんが見える窓際の特等席で陣を作っている。誕生日には花束を贈っている。

 もう一人は()(まき)(てつ)()。こちらは二十代の男性で、自営業を営んでいて、売り上げはそこそこらしい。家で熱帯魚を買っているため大きな水槽がある。

 彼もファンの間では軍曹と呼ばれている。彼は夏帆さんのファンが殺到する時間に現れては、混乱を招かないように、順番を決め、手際よく注文などをさせてくれる。誕生日には自分で作った和菓子を贈った。

「こんなところね。特段、怪しい人もいないみたいだし。ちょっと結に電話するからちょっと待ってて」


 私は別行動をしていた結に電話をかけ、彼女の状況を聞く。

「どう? そっちは。やっぱりあの二人は知らないのね、ファンが殺すわけないもの。ええ分かった。貴方は事務所で待ってて、少し整理して話したいことがあるから、じゃあね」

 電話を切る。彼女はその二人のファンの自宅に行ってもらい話しを聞いてもらってた。けど、どうやら何もなかったみたいね。

 二人とも夏帆さんの死を悼んでいた。ならば、犯人はいったい誰?

「相棒はなんだって?」

「何も分からなかったって言ってたわ。貴方を含めて三人、疑う余地もない。疑ったり、怪しんだりしてごめんなさいね」

「いや、それが仕事なんだからしょうがないよ」

「それよりも、困ったわ。これで捜査が振り出しに戻っちゃった。ざらにあることなんだけど、こうも全く手掛かりがないと骨が折れるのよ」

「あの人を恨んでる人なんて、いないと思うけどな」

「人間、どこで恨まれるか分かったもんじゃないのよ」

 そう私が言い終わったとき私の携帯電話がブルブルと震え、誰かから電話が来たことを教えてくれた。

「もしもし? 南方さん、どうしたの……え? この事件に関わっている男が見つかった? もう事情聴取は終わっているのね。その情報、私に回してくれないかしら? 流石に捜査情報は無理?

 ここまで言ったんだから黙って教えなさいよ。貴方たち警察にはどれだけ協力したことか。そう、初めから素直になればいいのよ。じゃあ、私は事務所で待ってるわね」

 電話を切り、急いで立ち上がる。

「私はもう行くわ。ご協力ありがとう、貴方もなるべく早く立ち直ってね。それじゃあ」

「あぁ、必ず犯人を捕まえてくれよ」

「当たり前よ。捕まえたら、貴方たちは土下座して喜びなさい」

 そう言い残し、私は喫茶店を後にした。

捜査線上に現れたのは新たな容疑者!?

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