表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
骨の在処
20/116

第六話 真相①

 俺と響子さんは彼女が気になっていた、被害者が住んでいたマンションの異臭騒動のことにさらに調べるためにマンション近くに来ていた。

 空は秋晴れ。だが何故か晴れない気持ちがある。この先の謎を解き明かしたらきっとこのもやもやした気持ちも晴れるだろう。

「なぁ、響子さん。なんでマンションの異臭騒動なんて気にしてんだ?」

 わざわざ来るぐらいなのだから、気になってしょうがないのは分かる。

 だけど理由ぐらい聞かないと。

「理由? そんなもの私の勘よ」

 彼女はしれっとそんなことを言った。俺はもっとすごい理由があると信じていたのだが、実際はそうでもなかったらしい。


「そうなのか……」

「あら、侮らないでほしいわね。女の勘って結構当たるのよ。貴方だって解ってるでしょう? 一回その凄さを味わって身として」

「うっ! それは」

 そう言えばそうだ。俺は彼女のいや、女の勘の恐ろしさってやつの凄まじさを一番よく知っている。 一度、黙って彼女の誕生日にケーキを買ってきてあげたことがある。

 驚くことを想像していたが、そうじゃなかった。響子さんはケーキでも買ってきたの? と俺に言ってきたんだ。そんなんじゃ驚くどころじゃない。逆に俺が驚いた。

 空気が読めないというかなんというか。兎に角、響子さんにはサプライズはほとんど通用しない。

「ね? でも誕生日にプレゼントは素直に嬉しかったわよ。次やるときは私に勘付かれないようにしてやってね」

「今度こそ、気が付かれないように頑張ります」

「それならばよろしい。助手くんが頑張ってもすぐに気が付くけどね。まっ、少しぐらいは期待してるわよ」

 彼女は俺を見てふふっと意地悪な笑みを浮かべて、先を歩く。あんなこと言ったって本当は嬉しいくせに。

 俄然やる気が湧いてきた。今度こそ、響子さんを驚かせるぞ!


 彼女は日差しを気にして、溜め息をつき飛び立った烏を見送る。歩き慣れない道を歩くせいか途中で何度も転びそうになっていた。そしてそのたびにおんぶしてと駄々をこねる。

 いつしか俺もその駄々も可愛く思えてきた。

 そして問題のマンションに着いた。玄関近くでは管理人と思われる老人が(ほうき)で掃除をしていた。


「こんにちわ。管理人さん。僕ちょっとコンビニに行ってきますね」

 管理人に声をかけたのは感じのいい青年だった。とても穏やかな表情で、誰でも好感が持てる近頃見ない好青年。

 俺たちをすれ違う前に頭をぺこりと下げて行ってしまった。

「おや、昨日のお嬢ちゃん。今日も来たのかい?」

 管理人さんが響子さんを見て挨拶をした。

「こんにちわ。お身体にお変わりありませんか?」

「大丈夫だよ。こんな爺を労わってくれるのは珍しい人だよ。どうだい、お茶しかないけど飲んで行かないかい?」

「ええ、是非」

 彼女と俺は挨拶をそこそこにして、管理人さんの部屋にひょんなことから招かれた。

 部屋には必要最小限の物しかなく、老後を過ごすなら丁度良さそうな部屋だった。そして仏間には長年連れ添った女性の遺影があった。

「ご線香をあげても?」

「ええどうぞ。松代も喜びますわい」

 俺と響子さんは仏壇の前に座り、線香をあげた。そして手を合わせ、心の中でお邪魔します。と一言挨拶をした。

「で、お嬢ちゃん。そちらのお兄さんは?」

 線香をあげ終わって俺たちは小さな卓袱台を囲んでいた。そして管理人さんはお茶をお盆に乗せて少し危なっかしく持ってきながら、質問してきた。

「私の相棒です。こう見えて結構頼りになるんですよ」

「仲が良いんだね。まるで昔のぼくたちを見てるみたいだよ」

「うふふ、ありがとうございます」

 そこから少しばかり談笑をして、ひと段落したところで響子さんが本題を切り出す。


「実は、私はあの異臭騒動についてもう一度お聞きするために参りました。もう一度お話願いますか?」

「良いですよ。そう言えば今朝もあの臭いがしましたね。住んでいる方々もうんざりしてましたよ。何とかなりませんかねぇ」

「それは何処からの苦情が一番多かったですか?」

「何処からのと言われても全体的に多かったけど、強いて言うなら三階の方が一番多かったですかね」

 三階か……だけどなんだろう、俺たちは何かを見逃してる気がする。

「三階の雁野さんの息子の(しょう)(へい)くんだけは一番きついはずなのに、文句ひとつも言わずにぼくを気遣ってくれましたよ」

「一番きつい。とは?」

「あの部屋が一番臭いが酷いんだ。みんなはあの部屋が原因だってうるさいけど。人が住んでいるならどうしようもないんだ」

「それと雁野さんの息子さんについて教えてくれませんか?」

「高校は今年で卒業らしいよ。野鳥観察が好きでね。夏とか近くの桐之山に見に行ってたよ」

 その言葉を聞いた瞬間、響子さんの中で何かが繋がったようだった。


「そういうことだったのね。なるほど合点がいったわ。管理人さん、私たちはこれで失礼します」

「もう行くのかい?」

「はい。急用ができたので、またいずれ必ず来ます。その時は松代おばあさんの話を聞かせてくださいね」

「あぁ、もちろん。その時はとびっきり美味しいお茶を用意してるよ」

 俺たちは管理人さんの部屋を後にしてマンションから会沢病院に向かう。その途中、響子さんの電話が鳴った。相手は安瀬馬さんみたいだ。

「あら、丁度私も貴方と話したかったのよ。ええ、まずはそっちに向かうわ」

 そう言って手早く電話を切る。そして俺に走るわよ。と言って慣れない足取りで彼女は走り出した。いきなりのことで驚きながらも俺は慌てて後を追った。

 お互いに走ったおかげか、すぐに会沢病院に着いた。

 俺は響子さんのペースに合わせて走ったので辛くはないが肝心の彼女は少しへばってしまっていた。

「大丈夫か? そんなに急がなくてもよかったんじゃないのか」

「これは、この事件はいち早く終わらせる方がいいのよ。ちょっと待って。ふー、もう大丈夫。安瀬馬くんが外科部長室で待ってる」


 外科部長室? なんでまたそんなところに。

 疑問に思いながらも、俺は響子さんに連れられて会沢病院の外科部長室に入った。

 そこには軍服を着て、堂々としている安瀬馬さんとメイド服を着た八色さんがいた。

「遅いぞ、織神」

「ごめんなさいね。私は貴方みたく、馬鹿みたいに鍛えていない華奢な女の子だから走るのもきつくって」

「ぬかせ」

 俺は部屋に着いたが、これからはなにが始まるのか分からない。息を呑んで見守った。

「さて、雁野外科部長。これで役者は揃いました。早速、オレの推理を聞いてもらおうか」

「ええ、どうぞ。何を推理するか分かりませんがね」

 眼鏡をかけた四十代ぐらいの男性は俺たちをその眼鏡の奥の瞳で確かに嘲笑っていた。

「まずは、一人目の行方不明者。国山千代さんついて話そうか。貴様は国山さんと不倫をしていたそうだな。それは周知の事実だ」

「だから何だってん――」

「黙って聞け。率直に言う。お前は国山千代を殺したな?」

「!!」


「図星か。何故分かった聞かせてやる。ヒントは貴様の息子だ。あのマンションの異臭騒動、その臭いはホルマリンの臭い……あれは人には有害だ。換気せねば大変なことになる。

 だが換気した結果、その臭いはマンション中を駆け巡った。そしてここからはオレの仮説だ。貴様は不倫、若しくは殺害現場をあの息子に見られてしまった。それをネタに実の息子に脅されて、外科部長である貴様は簡単かどうかは知らんがホルマリンを持ち出し、渡した」


「…………」

「どうなんだ。何か言ってみろ」

「あぁ確かに私はあいつを殺した! あの女可愛がってやったのにこの事実を院長に言うなんて言いやがって、俺がどんだけ苦労してこの座に着いたか知らねぇくせに!!」

「この下衆が」

「それともう一つ、あんたの仮説は間違ってるところがある。殺したところを見られたんじゃなくて、山に埋めた死体があるのを確認してるところを野鳥観察をしてる昇平に見られたんだよ。そしたらあいつ半分白骨化した頭を見て興奮して。結局あいつも人ひとり殺しちまったんだ」

「それが二人目の行方不明者か」

「なぁ、頼む。見逃してくれ! 土下座でも何でもする、金ならいくらでも払う。頼む!!」

 雁野さんは俺たちの前で土下座をして見逃してくれるように言った。


「悪いが、その答えは永遠にノーだ」


 そう言って安瀬馬さんは彼を一蹴した。そして雁野さんは泣き崩れ、それを見下しながら安瀬馬さんは警察に電話した。

「もうすぐ、警察が来る。終わったな」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」

「皮肉だな。命を救う手で命を奪うとは」

 先に到着した鳶さんと南方さんに全てを話し、桐之山にある遺体の捜索も始まるみたいだ。これで別の事件は一件落着した。

「よし、オレたちはあのバカ息子を探しに行くぞ。先に行く、見つけたら連絡しろ。こちらも見つけ次第連絡する」

 そう言った勢いよくオフロードバイクに乗り、二人ともヘルメットを被り発進させる。

「私たちも探すわよ!」

「あぁ、分かってる!!」

 俺たちも急いで会沢病院を後にした。

 夕日が沈み、完全な夜が支配する。この日はどこか仄暗く、不気味な烏の声が聞こえた。俺はどことなく嫌な予感がした。

次話、とんでもないことが起こります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ