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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
四肢狩りの獅子
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第二話 捜査②

「良いわ。この事件、私が解決してあげる。土下座して喜びなさい」

 彼女がそう言って、俺たちは捜査を始めるわけだが……なんせ手掛かりがない。解決することは不可能じゃないが、流石の響子さんも難しいと思う。

 南方さんが事件の詳細を話し、探偵事務所から去ったあとで、俺たちは独自に事件を整理する。

 ホワイトボードを取り出して、黒いマジックペンで今知っている情報を響子さんの指示で書く。

「まずは、要点をまとめましょう」

「そうだな。そうするか」

 要点をまとめるとこうだ。


 ・凶器は見つかっていない。

 ・外傷は四肢の切断だけ。しかし、直接の死因ではないらしい。

 ・内臓がぐちゃぐちゃになっていて、それが死因と考えられる。

 ・被害者の女性二人と榎秋さんは同じ高校で榎秋さんはいじめられていた。

 ・犯人は昔いじめていた人への復讐が動機?

 ・犯人は榎秋さんの幽霊?


「こんなところか?」

「ええ、そうなるわね。あら、珈琲なくなちゃった。助手くんおかわり」

 俺はこの事件の(てん)(まつ)を気にしながら、彼女に最後のコーヒーを淹れる。 

「こんな事件、安請け合いして良いのか?」

 彼女はコーヒーに口をつける前に俺の質問に答えた。

「良いに決まってるじゃない。私が解決できなかったことある? 貴方が一番よく知ってるはずよ」

「それもそうだったな。でも、情報が少ないが……これはどうする?」

 はぁっと溜め息をつきながら彼女はあからさまに呆れた顔をして、足をパンパンと叩く。

 最初は意味が解らなかったが、すぐにその意味を理解した。 

「本気か?」

「超本気よ」

 地道に足を使って情報収集を行う。これが一番疲れるが、確かな方法でもある。何度もやっているがいくらやってもあることがあるせいで面倒だ。

 彼女はコーヒーを飲み干すと、立ち上がり、髪をなびかせてこう言った。

「今から聞き込み捜査よ!」

 響子さんが久しぶりの事件でワクワクしているのがよくわかる。

 彼女がそう宣言したことにより、俺たちは聞き込み捜査を始めた。まず、どこに向かうかというと被害者と榎秋さんの高校だ。

 季節は初夏。外で小さな子供が元気に遊んでいる。緑の葉をつけた木々が清々しいほどの風で静かに揺らぐ。

 皆それぞれ思う夏を過ごしていることだろう。

「疲れたー。助手くんおんぶしてー」

 響子さんの場合はこうだ。

 普段外を歩かないせいなのか、気合十分、意気揚々と外に繰り出してもすぐに疲れてしまう。そしてすぐにタクシーなどを使おうとするし、俺におんぶを要求してくる。


「自分で言い出したんだから、自分の足で歩かないと意味ないだろ?」

「助手くんのけち! だから女の子にモテないのよ」

「さりげなく悪口を言うな」

 こんな会話を続けていくうちに、目的の高校に到着し、事情を言い、偽造した警察手帳を見せて校長と話すことになった。

「えっと、警察の関係者とお伺いしましたが、一体何の料簡で私の高校なんかに、足を運ばれたのですか?」

 この部屋はエアコンを効いていて涼しいはずなのに、校長はほんのりと汗をかいている。

「すみません。いきなり訪門してしまったにも関わらず、会談に応じていて頂き感謝いたします斉木校長」

「いえ、良いんですよ。しがない私立高校の校長なんて四六時中暇ですよ。はっはっは」

 斉木校長は自分自身の緊張を緩めるために無理矢理にでも笑った。それを見て、響子さんも口を隠して上品に笑う。

「では、単調直入にお聞きします。戸谷恵理さんと篠田ゆのさんと榎秋さんの三名についてです」 

 校長の表情が固まった。

「榎秋さんはいじめられていた。これは間違いありませんね?」

「……」


 ――沈黙。

 今まで饒舌だった校長が黙り込んでしまった。汗が留まることも知らず、だらだらと流れる。

「間違いありませんね?」

 響子さんがもう一度言う。

 すると、ハンカチで額の汗を拭きながら、校長の重々しい口がゆっくりと開いた。

「はい……間違いありません。で、ですが何故そのことを今更? あの事件があってからわが校に来る生徒は激減しました。でもやっと評判も回復したんです! 蒸し返さないでいただけないでしょうか!」

 斉木校長が我を忘れたかのように激昂した。その気持ちは分からなくはない。終わったことを蒸し返してほしくないだろう。

 俺だってそうだ。


「蒸し返す訳ではありません。気に障ってしまったのなら、謝罪致します。申し訳ありませんでした。私がしたかったのはあくまでも事実の確認です」

「すいません。こちらも熱くなってしまって」

「いえ、こちらにも非はあります。……では、本題に入ります。連日の報道でご存じだとは思いますが、四肢が切断された死体のあの事件です」

「はい。存じております。本校の卒業生が犠牲になってしまって。大変痛ましく思っております」

「犠牲になってしまったお二人のことについて少し教えて頂けませんでしょうか?」

 斉木校長から得られた情報は少なかった。だが、次にもしかしたら犠牲者になるかもしれない人たちと、榎秋さんと仲が良かった人が分かった。

 高校を後にし、今度は生きている榎秋さんをいじめていたグループのメンバーに話を聞きに行く。

 いつもなら外の風は心地いいはずなのだが、今日感じた風はそれほど心地よく感じない。 

 

 何故だろう?

 校長の反応にはおかしいところは全くなかったとは言えないが、別に怪しくはないはずだ。学校の存続や生徒を憂うどこにでもいるごくごく普通の校長先生にしか見えない。

「どうしたの? そんなに難しい顔をして、貴方が悩む必要はないのよ。推理するのは私の役目なんだから」

「いや、ちょっとな。嫌な予感がするんだ」

「嫌な予感? 助手くんのその予感はよく当たるのよね」

 そう。自慢でも何でもないが、いつもじゃないが、俺は悪い方の予感が気持ち悪いくらいに当たってしまうんだ。普段の予感は可愛いものだが、こういう事件となるとその予感は凶暴になる。

「まぁ、当たらないことを祈りましょう」

「そうだな。次の聞き込みに行こう」 

「ええ。早速向かうわよ」

 これからしばらく歩くことになるのだが、響子さんの駄々をもう一度聞くとなると、とても疲れる。

 

 三十分程度歩くと、(すみ)(むら)(こう)(すけ)さんの十階建ての自宅マンションに着いた。

 管理人に話を通し、何号室に住んでいるか訊いた。

 三〇四号室。炭村と書かれている埃のかぶった表札。どうやらここで間違いはなさそうだ。響子さんはインターホンを迷うことなく押す。

「?」 

 反応がない。もしかしたらすでに!

 そう邪推したが俺のここでの悪い予感は外れた。外れていてくれたほうがありがたい。

 インターホンを押した一分後にスウェット姿の眠たそうな女の人が出てきた。

「はい? なんですか?」

「警察の者ですけども。炭村康介さんのご自宅で間違いないでしょうか?」 

「けい……さつ?」

 いまいち状況が飲み込めないらしいが、警察と聞いた瞬間、彼女の目は大きく見開き「ちょっと待って下さい」と言って家の中に消えていった。

「響子さん。なんで警察って言ったんだよ」

 腕を組み、暑さにうんざりしながらこう答えた。

「だってそっちの方が話が速いじゃない。余計な手間は省いた方がいいでしょ」

 確かにそうだが……

「あの……」

 今度は女性ではなく、恐らく天然パーマの男性が出てきた。炭村康介さんで間違いなさそうだ。

「炭村康介さんですね?」

「そうですが、一体警察が俺に何を?」

「榎秋さんと言えばご理解いただけますか」 

「……どうぞ、中に」 

 炭村さんの家に入れてもらって、榎秋さんについて話を聞く。

 部屋は狭く、一人で住んだとしても満足には生活できないだろう。彼の隣には先ほどの彼女が服を変え座っていた。


「座ってください」

 そう彼に言われて俺たちは座る。

「まず、紹介します。彼女の()(なえ)です」

(どう)(もり)早苗です」

「ご丁寧にありがとうございます。私が織神響子、こちらが香澄准兵くんです」

「どうも」

 俺は頭を下げて挨拶をした。一通り自己紹介が済み、響子さんが話を切り出す。

「長くはかかりません。貴方が榎秋さんにしていたこと、そのいじめの内容を教えて頂けませんか?」

 言葉が詰まる炭村さん。次に言葉を発したのは意外にも彼女の早苗さんだった。

「ちゃんと話そう? こうくん」

 彼女が炭村さんの肩にそっと手を当て、優しい声でそう言った。 

「あぁ、分かった。ちゃんと話すよ」

 深呼吸して炭村さんが話し出す。


「俺たちは最初、あいつと……いや、秋と仲が良かったんだ。でも、ある日俺たちが遊びに誘ったんだ。けど、秋の奴来なくて。それでちょっとした嫌がらせを始めた。それがどんどんエスカレートしてあんなになるんだったら止めればよかったんだ。   あの事件の被害者を見てすぐに分かった。あいつが俺たちを殺しに来たんだって。きっと俺を今すぐにでも、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 徐々に口調が変わってゆき最後には恐怖のあまり最後には発狂して泣き崩れてしまった。

 きっと想像を絶するほどの恐怖でそして、ずっと謝りたかったのだろう。今までは苦しい思い出を心の奥に隠して、やっと今の幸せな生活を手に入れた。しかし、自分の犯した過ちのせいでその全てを失おうとしている。

 彼のやったことは間違っている。でも、凶悪な犯人から幸せな今を生きている彼を守らないといけない。

「もう、彼は無理です。今日のところは」

 早苗さんが泣き崩れた炭村さんをなだめる。

「炭村さん。最後に一つ、言っておきます。貴方たちの幸せは私が守るわ。早苗さん、私の連絡先を渡しておくわね。何かあったら連絡を頂戴」

「じゃあ私の連絡先も」 

 お互いに連絡先を交換し、俺たちはマンションから立ち去った。

「次はどうする? 榎秋さんと仲が良かった()(なか)(まさ)()さんか前川(まえかわ)()()さんの家に行くか? それとも最後のメンバーの(かき)(ざき)(とおる)さんの家か?」

「どうしましょうか。そうね、柿崎さんの家に行くわ。それが終わったら今日は帰りましょう。私、疲れたの」

「そうだな、そうするか」


 俺がそう言い終わると、響子さんの携帯が何かを知らせるように鳴り響く。

「もしもし、南方さん? え!? なんですって!! ええ、分かった……今すぐ向かうわ」

「響子さんどうした? 何かあったのか?」

 誰も予想をしていなかったんだ。この事態を……

「驚かないで聞いて頂戴。柿崎さんの死体が発見されたわ」

 午後昼過ぎ、風が吹き抜け、初夏の熱い日差しが燦々と照り付ける。皆が一日の午後を幸せに過ごしている中、俺の予感が最悪の結果を呼び込んだ。

犯人がもう登場しているので良ければ推理してみて下さい

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