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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
骨の在処
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第五話 捜査⑤

 俺は血を垂らしながら、安瀬馬さんの事務所に八色さんに担がれて入った。

 血を流し過ぎたのか再生がうまく出来ない。八色さんに応急処置をされ、なんとか血は止まったが傷が深く左腕の動きに制限がかかってしまった。

 これじゃあまた憑神に襲われでもしたら響子さんを守り切れない。

 俺はソファーを占領してしまい響子さんと安瀬馬さんは別室で何かを話している。この事件に関することだと思うが、あの二人ですら推理が行き詰っているようだ。

 八色さんに包帯を巻かれながら聞いた話だが、まだ犯人像があやふやらしい。だが、俺と彼女の問題はそれだけじゃなかった。 


 ――竜華長次郎。あの強力な憑神は俺たちを圧倒しただけではなく、(あざけ)り己の力をわざわざと見せつけるように戦っていた。まだ全力を出していない。

 あの武士の殺気を思い出すだけで身震いする。

 だが、何故あいつは憑神になった?

 名前があるということは生前生きていた証。不幸蝶みたいに有名な憑神でもない。一体なにが理由で……ダメだ。分からない。響子さんが言っていた、憑神には分からないことが多いと。

 あの強さ。憑神になったからだけでは無い。元の強さとそこに憑神になったとこで生前以上の力を発揮しているのか。

 不安が募る。俺と響子さんが憑神化したとしても果たして勝てるだろうか。

 あの強さは異常だ。人型は強いと聞いていたがここまでだとは予想していなかった。


「お怪我の具合はどうですか?」 

 八色さんがエプロン姿で俺に声をかけてくれた。手には包帯を持っていた。

「今のところは大丈夫です。それにしてもこの怪我、いつもみたいに治りませんね。このぐらいなら一時間もあれば……」

「恐らく、傷が深いだけでなく私たちの再生を阻害する何かがあるのでしょう。時間をかかりますが完全に再生するでしょう。ご心配ですか?」

「いえ、ただまともに刀が振れるかどうか。それが一番の気がかりです」

 片手で振れば問題ないと思っているが体重と力が乗らない一撃などきっと簡単に止められてしまうだろう。

 俺と八色さんが話し終わると奥の別室から響子さんと安瀬馬さんが出てきた。

「助手くんったら、みっともない顔してるわね。いつにもなく頼りない顔してるわよ。ほら立ちなさい!」

 彼女にいきなり叱咤されて俺は驚きながら立ち上がる。何を言われるんだろう。


「貴方が怪我したからほんのちょっとだけ心配してみたら案外元気そうじゃない。助手くんは私が憑神に勝てるかどうか心配してるみたいだけど」

「なんでそれを!?」

 彼女は、はぁっと溜め息をつきながらまったく呆れたわと直接言わなかったが、俺には表情からそう察した。

「助手くんが考えそうなことは手に取るようにわかるわ。心配いらないわよ。私にはまだまだやり残したことがある。だから死なない。安心しなさい。だからそのうじうじした顔を今すぐ止めなさい。じゃないと私の料理を食べさせるわよ」

 彼女は俺の両頬を引っ張り、無理矢理表情を崩させる。

「分かったから、痛いって、だから料理だけは勘弁してくれ!」

「あら、そんなに私の手料理が嫌なの? 酷いじゃない。せっかく頑張って作ってるのに。貴方はいつから生意気を言うようになったのかしら? 生意気な助手くんには私の料理の練習台になってもらうわ」

 彼女は頬を引っ張る強さを更に強め、小悪魔みたいな笑顔を浮かべて俺からしてみれば地獄と同じくらいのことを言った。

 なんとか響子さんに引っ張る行為を止めさせて一緒にソファーに座った。

 と座ってもやることがない。そうだ、料理でも手伝おう。

「八色さん手伝いますよ」

「ですが、安瀬馬家では客人は丁重にもてなせと言われておりますので」

「いいんですよ。暇ですし、ハンバーグ? をつくりのにも手こずってるみたいなので」

「ではお言葉に甘えさせて頂きます」 


 俺と彼女は慣れた手つきで料理を始める。途中、八色さんが安瀬馬さんに出した紅茶を見て羨ましいのか響子さんも紅茶を飲みたいと言い出した。

 八色さんは快く紅茶を作ってくれたが、飲むと響子さんは驚いた顔をして美味しいと言っていた。

 俺の淹れたコーヒーには、ほとんど何も言ってくれないのにと少しやきもちを妬いてしまったが毎日飲んでくれるということは言わずとも褒めてくれると思って自分自身納得させる。

 そして十分後、料理が完成した。

 ハンバーグにポテトサラダ、味噌汁、温かい白いご飯。手伝いはしたが全て八色さんの手作りだ。

「それでは、頂くとするか。貴様ら八色に感謝して食せよ」

「分かってるわよもう。八色さん、ありがとう」

 一口響子さんが口に運ぶと彼女は口を押えて。

「美味しい。美味しいわこれ。八色さん、とっても美味しいわ」

「織神様、お褒め頂きありがとうございます」

「助手くんのより美味しいわ」

 俺も口に入れるが、確かに美味しい。悔しいが負けた。

「悪かったな、八色さんの方が美味しくて」

「誰も助手くんの料理が不味いなんて言ってないわよ。もしかして妬いてるの? ねぇそうでしょう。意外に可愛いところあるじゃない」

 俺の頬をつんつんとつつく響子さんの細く綺麗な白い指。

「お二人とも仲が良いんですね」

 八色さんが俺たちのやり取りを見てそう言った。


「それを言うなら貴方たちだって結婚してるじゃない」

「フン。これとそれとは違う」  

 安瀬馬さんが口元を汚さないようにハンバーグを食べながら会話に入ってきた。

「貴方たち、子どもとか作らないの?」

「あぁ、勿論作るさ。だが今はその時ではない。一通り落ち着いてからでも遅くあるまい」

「結婚式には呼ばなかったんだから出産のときぐらい呼びなさいよ」

「善処する」

 こんな感じで談笑しているうちに食事は終わってしまった。

 安瀬馬さんは響子さんが紅茶を嗜んでいるときに事件のついて話し始めた。

「いいか、状況を整理する」


 ・死体には骨がない。それは犯人が盗んだ。

 ・会沢病院に勤務していた三人の男女が行方不明。

 ・憑神の能力は灰化の能力。

 ・犯人の目的は美しい骨の収集か?


「こんなところか。オレと八色は病院について調べる。あそこがこの事件に関わっているのは間違いない」

「それじゃあ私たちはあの異臭騒動がどうしても気になるからあのマンションをもう一度調べるわね」

 各々の役割が決まり、この事件も着実に真実に近づいてきている。

 そして秋の月が沈み、太陽が一日の始まりを告げた。この一日は俺たちにとってとても大切な一日になった。

 そしてこの事件は思いもよらない所で繋がった。

次話が響子さんにとって勝負の一話になります!

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