第三話 捜索③
私は庶民的な風景に似つかわしくないリムジンに乗り、指定されたマンション近くに来ていた。そこには安瀬馬くんが待っていた。八色さんはいない。
「織神、憑き人は置いてきたか?」
「ええ、もちろん。今、夕食の買い物にでも行ってるはずだわ」
「そうか。八色には見つけて合流しろと伝えてある」
私は彼の指示によって助手くんを置いてきた。何故そんなことをしたのか分からないけど、どうやら積もる話があるみたい。
「さて、なんで助手くんを置いてきたかその理由を言ってくれるかしら?」
「あぁ。久し振りに貴様と二人っきりで話したくなった」
「あら、それって口説いてるの?」
私は口に手を当てクスクスと笑ってみせた。この笑い方をすると助手くんには意地が悪く見えるみたい。
失礼しちゃうわ、これでも精一杯の笑顔なのに。
「馬鹿を言え、貴様にだってあの男に聞かれたくない話があるだろう」
「貴方なりの配慮ってわけね。一応感謝しとくわ」
確かに、助手くんに聞かれたくない話はいくらでもある。家のことや、私のこと、そして呪いとも言えるものが私にあること。
彼には余計なことでうろたえてほしくない。秘密を全部言ってしまったらきっと助手くんは私を憐れむ目で見るでしょう。
それだけは絶対に嫌なのよ。
「それで訊くが、織神家の者が憑き人を連れているのは珍しい。何故、あの男を連れている? 織神ならば必要あるまい」
「あれは、私の不注意で彼を危険な目にあわせてしまった。それの償い」
「償いか……勿論、貴様は織神家の秘技を会得しているんだろう?」
「馬鹿にしないで頂戴。私だってちゃんと会得したわよ。でも使いたくない。最近はしょうがなく人を引き上げるために使ったけど、戸惑いはしたわ」
「それを聞いていささか安心した。秘技も会得してないで今回憑神は倒すのは難しいからな」
「聞きたかったのはそれだけ? 他にないならさっさと聞き込みを開始しましょう」
「そうだな。始めるとするか」
私たちはマンションに向かって歩き出した。マンションの管理人に二人そろって偽装した警察手帳を見せ、管理人は神妙な顔つきをしながら部屋に案内してくれた。
三階の四八五号室。マスターキーを入れ開錠すると私はまず管理人に聞いた。
「被害者。いえ、真戸さんに変わったご様子などありませんでしたか?」
「変わった様子かぁ、特になかったと思うけどなぁ。こんな老いぼれた爺にも挨拶してくれるのはあの子と雁野さんの息子だけだよ。いなくなった日の前の日もいつものように元気に挨拶していったのに。なんでああいう子がすぐ死んじゃうんだろうね」
管理人さんは目に光るものを浮かべながらそう話していた。
被害者の真戸さんはこのマンションの元気印みたいなもので、このマンションに住むものなら知らない人はいないという。
管理人さんが風邪を引いた時もここに近くにある会沢病院の看護師ということで色々診てあげてたみたいね。
でも、殺される理由が分からない。話を聞く限り恨みを買う人に聞こえないし、寧ろ尊敬されるべき人だと思う。
「ねぇ、何か見つかった?」
先に部屋に上がり手掛かりを探していた安瀬馬くんに声をかけるが首を横に振った。どうやら何も見つかってないみたい。
「手掛かりは見つからんが、被害者に彼氏がいたことは分かったぞ」
「なによそれ。無駄足みたいなものじゃない」
「ところが、そうでもないらしい。彼氏は同じ職場の人間だ。そいつに話を聞けば何か分かるかもしれん」
「なら早く行きましょう」
そう言うと、私の鼻を突如刺激臭が襲う。
「なにこれ何の臭い?」
安瀬馬くんも気が付き、ハンカチで鼻を押さえる。今まで嗅いだことのない酷い臭い。
「あぁ、またですか」
管理人さんはこの悪臭に覚えがあるようだった。私はそれについても尋ねた。「また。とは以前にも同じことが?」そう聞くと彼は「ええありました。一年前から突然。これで五度目です」そう答えた。
「五度目? 随分多いんですね。管理会社には連絡を入れましたか?」
「もちろんですよ。ですが何度調べても原因が掴めず、ついには気分を害して倒れる人が現れました」
ただの悪臭騒動だと良いけど。私はなぜか胸騒ぎがした。助手くん的に言うなら悪い予感がする。
「織神、この悪臭は後だ。今は病院に行くぞ」
「分かってるわよ。管理人さん、貴重なお時間を割いてしまい申し訳ありませんでした」
そう言って、私たちは隣接する会沢病院に向かった。歩いている途中、安瀬馬くんが声をかけてきた。なんでもこの事件に関係あるとかなんとか。
「なによ、事件に関係することって」
「犯人は骨を盗んでいった。この一年前に見つかった死体も骨がなかった。右足の骨がすべて紛失していた。当時は烏や鳥の仕業と考えられていたが、偶然だと思うか?」
「この事件はそれの延長上って言いたいの?」
「その可能性は大いにある。それにその死体は若い男性で、しかも今から行く会沢病院に勤務していたそうだ。この二人の被害者とそしてあの病院にはもう一人、失踪者がいる。この事件、思ったより闇が深いかもしれん」
「そんなの望むところよ。私が貴方の言う闇ってやつを光の下に引きずり出してやるわ」
そうこうしているうちに問題の多い会沢病院に着いた。車いすに乗っているご老人、松葉杖をついている青年、腕を骨折して固定している少女。退院するのか花を持っている小さな女の子。どこもおかしくないこの病院。だが、ここはどこかが狂っている。人には見えないところで徐々に。
病院に入り、受付に先ほどと同じく警察手帳を見せ、真戸さんの彼氏を呼んでもらった。そして別室に入り話を聞く。
「真戸さんのことは心中お察しします。ですが今は、酷なことを言いますがご協力ください」
真戸ゆかりの彼氏、石川さんは目が腫れていて生気が感じられない。呆然としてきっと涙も枯れてしまったのだろう。
可哀想に。愛する人を失って、これから彼はどうやって生きていけばいいのだろうか。でもその答えは本人にしか出せない。
周りの人間は見守ることしか出来ない。
「俺の知ってること全部言って、犯人が捕まるならなんでも答えます。だから、だからゆかりを殺した犯人を捕まえてください!!」
「分かっています。オレたちが必ず捕まえます」
私が同じことを言う前に安瀬馬くんが言ってしまった。
石川さんから話を聞いただけど、マンションの管理人さんが言ってることと、ほとんど変わらなかった。
職場でもあの明るい性格で患者にも看護師にも優しかったという。
私たちが石川さんにお礼を言って病院から立ち去ろうとした時、一人の歳をとった女性が声をかけていた。
「ねぇねぇ、刑事さん。ちょっとお話してもいいかしら?」
「ええ、構いませんがどうしたんですか?」
安瀬馬くんがそう訊くと看護師長と名乗った女性は話し出した。
「いなくなった真戸さんのことについて探しに来たんでしょう? だったらいいこと教えてあげるわよ。真戸さん。雁野外科部長に迫られてたらしいの。あの人奥さんが海外にいることをいいことに不倫し放題。
一年前、国山さんも外科部長と不倫してたみたいだけど。恋人を裏切ってしまったそのショックで行方不明になったちゃって」
雁野。マンションの管理人さんが言っていた名だわ。息子が良い子だって褒められてたのに親が悪いことしてるんなんて知ったら子供が泣いちゃうわね。
「貴重なお話ありがとう御座いました。参考にさせていただきます」
安瀬馬くんと私ははそう言って今度こそ病院を後にした。
――ふと考えてしまった。私にも大切な人がいてその人が死んでしまったら一体私はどうなってしまうのだろうと。
やっぱり泣き崩れてしまうの? それとも彼の分まで逞しく生きようとするのかしら。分からないけどある程度予想がつく。
「ねぇ、安瀬馬くん。ちょっと聞きたいんだけどいいかしら?」
「なんだ」
「貴方には大切な人がいるの?」
我ながら少し恥ずかしい質問をしているような気がする。
「いる。八色は大事なビジネスパートナーであり、大切な家族だ」
「家族?」
「そういえば言ってなかったな。俺と八色は結婚している」
「え!? 結婚!? 嘘言わないでよ。どうして!?」
「嘘を言ってどうする。今はつけていないが婚約指輪だってある」
「結婚ってちゃんと恋愛してするもんじゃなかったの?」
「悪いが、オレは貴様ほどロマンチストではなくてな。婚約者を見つけるのが面倒だった。通りかかった八色に結婚しようと言ったら喜んでいたぞ」
なんとなく八色さんがなんて言ったか分かる。絶対、主人の命とあらばとか言って受け入れたんだ。
まぁこういう形の結婚もあってもいいような……いや、結婚はしっかり付き合って決めるものよ。こんな結婚認めないし、したくもない!
「じゃあ訊くが、貴様にはいないのか?」
「え?」
犯人は誰でしょう
考えてみてください




