第二話 捜査②
祓い屋の御三家である安瀬馬の跡取り息子、安瀬馬開斗とその憑き人である律動院八色が持ってきた事件が俺と響子さんを危険な道へと導いた。
本日快晴、非常に穏やかな風。こんな穏やかな日にも拘らず、俺の心境はとてもじゃないが穏やかじゃなかった。
俺の心は荒れていて、荒れ狂う海のように複雑な感情が渦巻いていた。本当に今回の敵はヤバい。
俺自身、響子さんを守れるかどうか分からない。いや、必ず守るしかない。それ以外にこの事件を無事乗り切る方法は無い。
「土下座して喜びなさい……か。大きく出たな織神。だが、今回ばかりはその自信が命取りになるぞ。その点だけは注意しておけ」
「そうね。肝に銘じておくわ」
この会話を最後に、安瀬馬さんは紅茶を飲み干して「悪いが時間だ。このことについては追って連絡する」と言って探偵事務所を後にした。
そしてこの場所は俺と彼女しかいなくなった。
「しかし、ものすごい人だったな。なぁ響子さん、なんで安瀬馬さんは軍服を着てるんだ?」
彼女は冷めかけてしまったコーヒーを飲み、一息ついてから喋り始める。
「彼が軍服を着ている理由? あれはね、父親が軍人だからよ。いえ、正確に言うなら軍人兼祓い屋ね。彼は軍服を着ているお父さんに憧れているらしいから、彼は寝る時も何をする時も軍服よ。それに安瀬馬くんのお父さんは私が知る中で一番強い」
じゃあその血筋を受け継いでる安瀬馬さんは相当な腕の持ち主なのだろう。一体、どんな戦い方をしているんだ? 俺の想像が膨らんでいるうちに彼女が。
「助手くん、彼のお父さんが一番っていうのは間違い。確かに強いわ。でもその人より強い人がたった一人だけいるの」
「そうなのか!? 俺はてっきり、その人が最強かと」
「最強はどうかは分からないけど、身内に一人だけ、この世の者とは思えないほどの強さと私や安瀬馬くんを凌ぐほどの頭脳を持っている人がいるわ。もう、何年も会ってないけど。けどきっと元気でやってるでしょ」
「身内に一人? お父さんか、お母さん? それとも?」
「……お父さんも、お母さんも死んだわ」
このことを彼女は嫌な顔の一つもせず、眉すら動かさずいつもの会話をしているように極々普通な感じで俺にそう言った。
俺はこの質問をしてしまったことを後悔した。俺は訊いてはならないことを聞いてしまったのではないか。彼女に謝らないといけない。
だけど、その後ろめたい気持ちがあるせいかまともに響子さんの顔を見れない。
「ごめん。余計な事、聞いた。俺が鈍感なばっかりに」
「いいのよ。言ってなかったし、訊かれもしなかったから。私はもう言い慣れたわ。小学校の時も、中学、高校も。今更何とも思わないわよ。だから貴方は謝らなくていいのよ。もし、どうしても謝罪したいって言うなら、早く朝ごはんを作って頂戴」
彼女は最後にふふっと笑った。その笑顔がどこか、俺を気遣っているようで胸に刺さった。申し訳ないことをしてしまった。
「分かった。今作るから待っててくれ。コーヒーも熱いの淹れなおすよ」
「あら、貴方にしては気が利くのね。じゃあ淹れなおした珈琲でも飲みながら、朝ごはん楽しみに待ってるわ」
「あぁ、そうしててくれ」
俺はトーストを作りためにパンを取り出し、トースターに入れた。出来上がるのに少しかかる。だからコーヒーを淹れなおす。
彼女が好んでいる砂糖を入れ、彼女に差し出す。すると彼女は何も言わずに本を読みながらコーヒーを口につけた。
そして熱かったらしく、少し顔を歪めて訝しげな表情を浮かべて息をかけて冷まして飲んだ。
俺は冷蔵庫の野菜室から余っている野菜を取り出し、サラダを作った。
彼女の好きなミニトマトを色合いを良くするために三つほど添えた。
トースターから良い感じに焦げたパンが出ていた。とても香ばしい匂いが事務所内に広がる。
皿に盛り、テーブルに置き席について二人で頂きますと言って食べ始めた。
「助手くん。これが食べ終わったら、事件現場に行くわよ。早速捜査開始よ」
「了解! 俺は南方さんに電話して事情を話すよ」
ふと外を見ると今まで晴れていた空が徐々に曇り始めた。俺は雨が降らないことを祈りながらパンを食べる。
女心と秋の空とはよく言ったものだ。
「やぁね、曇ってきちゃったわ。晴れているよりましだけど、秋の天気はころころ変わるから嫌なのよ。急に晴れたり、涼しいのはいいんだけど」
なんて文句を言いながらミニトマトを口に入れる。俺は一足先に食べ終わり、食器を洗い南方さんに電話をして事情を説明した。
「ご馳走様。助手くん食べたわよー」
響子さんが食器を下げて彼女は外出の準備をした。俺は全ての食器を洗い終わり、事件現場へと出発する。
人通りが多く、響子さんは蒸し暑さをうざったくしていながら俺の隣を今回は近いからか珍しく駄々をこねずにいた。
探偵事務所から歩いて十分のところにある事件現場に着くと立ち入り禁止のテープが張られていた。その近くには南方さんがいた。
「南方さん、お久しぶり、貴方も厄介な事件ばかりに当たるのね」
響子さんは皮肉交じりに挨拶をした。
「はっ、しょうがねぇだろ。こういう仕事しか来ないんだから。お前たちはあの安瀬馬開斗と協力してるんだって?」
「南方さん、安瀬馬くんを知ってるの?」
そのことについては俺も驚いた。やはり、この事件の解決を頼みに行ったのだろうか?
だとしたら何故、俺たちじゃないんだろう。いつもなら、南方さんは織神探偵事務所に来るはずなのに。だがどっちにしろ俺たちはこの事件に関わってしまった。
「あぁよく知ってるぜ。いつもなら、お前らに真っ先に頼みに行きたいが、今回は上からの指示であの気に食わない奴のところに頼みに行っちまった」
「上からの指示じゃあしょうがないわ。でもどんな形であれ私はこの事件に関わった。だからいつもみたいによろしくね」
「分かってる。いつも通りやろうぜ」
そう南方さんが言うと、俺と響子さんを立ち入り禁止のテープの中に招き入れた。
この路地はよく日が入り、近くには駐車場に人が歩く歩道。ましてや車が通る車道だってある。
こんなところで人が殺せるのだろうか? どんな憑神のタイプか知らないが、一体どんな殺し方をして灰化させたんだ?
どれだけ鮮やかな手口で人を殺せても絶対、何かが残る。
それに響子さんが見逃すわけがない。
「ここが死体が発見された場所ね。で、どこの骨が盗まれたの?」
「背骨が全部なくなっている。まったく人の骨を盗むなんてどんな神経してやがる」
と言うかなんで盗まれたって分かったんだ?
「それとな盗まれた理由は、死体に丁寧に手紙を置いていきやがったんだ。しかも筆跡鑑定でばれないようにパソコンで打った手紙だ。見るか?」
「ええ、見せてもらえるかしら」
南方さんの携帯で撮った手紙の写真を見せてくれた。
「この方の美しい骨は私が頂きます」と書かれてあった。これはいったいどういう意味だ? いや、そのままの意味なのか?
「この人、どんな美的センスをしているのかしら。私は骨に美しいと思ったことがないわ。助手くんはどう?」
「あるわけないだろ。骨にいちいち感動なんてしてたらただの変態だ」
「そうね。それは同感だわ。今回の犯人はとんだ変態さんみたいだわ」
そう言い終わると響子さんの電話が鳴った。
「もしもし? あぁ、貴方。どうしたの? 分かったわ……今から助手くんと一緒に向かうわ」
電話を切り、溜め息をつく。
「どうしたんだ響子さん」
「安瀬馬くんからの電話で今から被害者の部屋を捜索するから来いって言われたのよ。しょうがない。行くわよ」
俺たちは南方さんに別れを言ってこの町唯一の山。桐之山近くのマンションの被害者自宅に向かった。どうやらここに安瀬馬家からのリムジンが迎えに来るらしい。
俺は周りの目を気にしながらリムジンを待った。
今回の犯人は一体どういう人間なんだ。骨をこよなく愛している人間――で認識はあっているのか? いずれにせよ、この事件を紐解いていくうちに分かっていくだろう。
さて犯人は一体、どんな人間なのでしょうか。
みなさん、想像してみて下さい!




