第十二話 捜査④
「それで、次は何するんだ?」
俺はあえて彼女と肩を並べるように傍らに立った。これできっと彼女は織神響子に立ち戻れるはずだ。そうでなければ俺の命も危ない。それに、彼女もそれを願っているようだった。他人とか関わらず自分の力だけで立っていたあの姿に。
惜しい気もする。おそらく彼女には柔和な笑顔が良く似合うだろうと言葉が出てしまいそうになったが、そんな気障な言葉をかけられるほど俺は出来た男ではなかった。
「そうね……貴方、芹沢さんが殺された理由って何だと思う?」
彼女は問いかけをし、横断歩道の信号が青になると同時に歩き出した。
「え?」
「私たちが楽しくおしゃべりしている間、事件の整理をしておけって言ったこと忘れたの? もしかしてあの空間にいて悦に浸ってたわけじゃないでしょうね」
「バっ! そんなわけないだろ! ちゃんと言われた通り自分なりに整理したって!」
「じゃあその結果を聞かせてちょうだい」
「それってどういう……」
彼女の要求は分かり切っていた。俺に推理しろと言っているのだ。どこかの名探偵の助手のように。
「今までのことを加味して推理しろって言っているの。それとも私に全部任せて寝不足にするつもり?」
ほらな。彼女の言うことはめちゃくちゃだ。
「分かったよ。もし外れてても文句言わないでくれよな」
横断歩道を渡り終わると、俺は一息置いて推理を展開する。
「芹沢さんが殺された理由は……多分、イジメだと思う。あの子がしてきたしっぺ返しとして、過去のイジメの被害者に殺されたんだって俺は考えてる。それじゃないと辻褄が合わない、先生たちに殺す動機はないし、他の子もそうだ。彼女を殺すほど憎い理由なんてそうそうないよ」
「でも、現に彼女は殺されている。貴方の言う、殺されるほどのよっぽどな理由があるでしょうね。それで、あなたは誰が犯人だと思う?」
「犯人なんて分かるわけないよ。まだ誰が芹沢さんにイジメられたかなんてわから……」
いる。彼女が殺されても文句が言えないほどの相手が。だが、それは有り得ない。彼女は学校の屋上から飛び降りて土の上に落ちてきたはずだ。まるで滑り落ちるように。
「いるでしょう、一人だけ。私たちが知る。有名な事件が」
確信があるのだろうか。彼女の僅かに頬は緩み、自信がある顔つきになっている。そうだとしても、証拠がないのだ。死者が証拠など。
「ちょっと待って。白崎さんには無理だ。あの時間帯に彼女は学校になんていなかったし、そもそも彼女は俺たちが一年生のときに飛び降りたじゃないか。死んだ人間を蘇らせる憑神がいるならまだ可能性があるにしても――」
「死者を蘇らせる憑神なんていないわ」
彼女は俺の言葉を遮って切り捨てた。
「そもそも、白崎さんが死んだという事実はない。あるのは彼女が死んだという怪しいウワサだけ。貴方、彼女の死体を見たことがある?」
実は彼女が死んでなかったとして。彼女は復讐のために芹沢さんを殺したとして。あの優しかった彼女からは想像が出来ない、したくない。人の命を奪うという行為が容易く行われていることが。怨嗟にまみれて復讐をして、それで白崎さんの気持ちは晴れたのか。俺には分からない。復讐を決意して生きている人の気持ちなんて。
「無いはずの死体を探しても何も出てこないのは当然よ、だから考え方を変えるの。ウワサを否定するために白崎麻耶が今も生きているって言う証拠を見つける」
「どうやってだよ?」
織神さんの言うことは分かる。しかし生きている証拠を探すと言っても俺たちにはそのツテが無い。一体どうやって探せばいいのか思案していたところ彼女はおもむろに携帯電話を取り出す。
「警察の手を借りるのと、もちろん私たちの足でよ。これ以上私の目の前で人殺しなんてさせないんだから。行くわよ、白崎さんの家に」
捜査の指針と俺たちの進むべき道を彼女は指し示すと、白崎麻耶さんの家に向かって迷うことなく歩き始めた。




