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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
顔剥ぎ兎
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第五話 邂逅➄

 俺は南方さんと織神さんと一緒に再び死体が見つかった現場へと戻った。そこには既にブルーシートが張られ、周りの目には触れらねぬようになっているが女生徒の死体はまだそのままだった。さすがに剥がされた顔には個人を偲ぶように布が被されている。


「鑑識も一通り終わったから多少自由にしてもらって構わない。それと、お前から預かった凶器と思われる不審な包丁はこちらで鑑識させてもらう」


 南方さんは彼女と話しながら、彼女の後ろについて来ている俺を見て首を傾げる。


「それで、この子はなんだ? あんたらは二人一組で行動するってアレか?」


「違うわ。そこの彼はただの付き添い。邪魔はさせないから私の近くにいさせて」


 彼女らの会話にまったくついて行けない俺だったが、どうやら本当に彼女から離れてはいけない理由があるらしい。それが一体何なのか彼女が答えてくれるときが来るのだろうか。いや、来てくれなければ困る。こんなおかしな事件に巻き込まれて一刻も早く家に帰りたいのに。欲を言うと、あとのとき三部と一緒に帰りたかった。


「おいそこの……香澄くんだっけか? あんまりうろうろすると他のやつらに怒られるからちょっと離れててくれねぇか?」


 南方さんは近くの遠い木を指差し、そこに行けと暗に言っている。俺も指示に反するつもりなど毛頭なかったので、黙って頷きながらなるべく遺体を見ないようにして離れた。これから本格的な初動捜査というものが始まるのだろう。目の前の出来事がまるでドラマの世界だ。現実感などまるでない。すべて夢であってくれればそれでいいのに。


「それで、彼女の名前は?」


「遺体の制服の上着に学生証と携帯電話が入っていた。彼女の前は芹沢(せりざわ)ゆいか。ここの三年生だ。ここにいた先生方に軽く事情を聞いたが、特別誰かに恨みを買うような生徒じゃなかったらしい。死因は顔の皮を剥がされたことによるものじゃなく、胸の刺し傷だ。一発で心臓を的確に差している。腕や掌には抵抗した形跡はなく、犯人は近しい友人か、余程油断していた瞬間を狙ったんだろう」


「私たちが偶然見つけた包丁がその凶器である可能性が高いってわけね。それで死亡推定時刻はどうなっているの?」


「死後硬直が始まった頃合いから察するに死亡推定時刻は約二時間ほど前。犯行時刻は二時から四時の間だ。その時間、まだ授業中だったはずだ」


「そうね、だからこそ彼女の遺体がここにあるのはおかしい。ここは校舎裏と言っても、どの階の教室からは見えてしまう。一番現場から近くて二階の私たちの隣のクラスね。でも誰も叫ばなかったし気が付かなかった。放課後になるまで」


「犯行現場は別にあるって考えた方が正しいな。遺体を見つけた女の子は病院に運ばれて検査を受けているから話しを聞くのはもう少し後になる。偶然だったのかそれとも被害者と親しい仲だったのか……まずは殺された理由だな」


「殺された理由なんてそれこそごまんとあるわよ。品行方正な生徒に見えても裏ではイジメっ子ってことも有り得る。現にこの子は相当なイジメをしていたらしいわ」


「おいおい、そりゃまじかよ。先生方はなんとも言ってなかったぜ?」


「当たり前でしょ。誰も彼女がやってるなんて言ってもないし、先生方も見て見ぬふりをしている。学校の評価を下げないためにもね。基本的に学校ってのは腐ってるのよ。目に見えないところで」


「世も末だな」


「じゃないとこんな事件も起きないわよ。貴方も散々酷い事件を見てきたでしょ?」


「……あまり口では言えんがな。で、殺害する動機としていじめが原因だとしてこの子を殺したのは一体誰だ? それこそ、有名なんだろ?」


「たしかに有名だけど、その子はもう学校にはいないわ」


「転校でもしたのか?」


「いいえ。ここから飛び降りたのよ。丁度遺体が転がっている位置に」


 織神さんは屋上に向かって指を差した。俺も会話だけは聞こえていたので南方さん同様に彼女の指の先を見上げた。

 この飛び降り事件は俺も知っている。飛び降りた女生徒の名前は白崎(しらさき)麻耶(まや)。一年生のときだけ俺と同じクラスで隣の席だった。彼女は優しく俺にも話しかけてきてくれたり、友人もそれなりに多かったらしく順風満帆な高校生活を送る予定だった。だが、その事を気に喰わなかった芹沢さんに目をつけられいじめの標的になった。それから飛び降りる半年間は本当にひどいもので弁当をごみ箱に捨てたり、虫を入れたり、教科書をびりびりに引き裂いたり、顔に痣を作ったときもあった。おそらく顔だけでは無かっただろう。多かった友人も一緒になっていじめられるのを嫌い、誰一人として白崎さんを助けようとしなかった。

 それどころか一部の人間は芹沢の一派に加わり彼女をいじめていた。それが彼女にとって心を負った最大の要因だったはずだ。その一週間後、彼女は今日のような良く晴れた日に立ち入り禁止だったはずの屋上から飛び降りたて二度と学校には姿を見せていない。先生方の反応の悪さを見る限り、そのまま命を落としたと考えて相違ないだろう。


「じゃあ、その飛び降りた彼女と仲良かった奴が?」


「全部憶測よ。警察なら事実だけ見なさい。推理するのは私の役目なんだから」

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