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夜の月に笑われて  作者: 宮城まこと
四肢狩りの獅子
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第一話 捜査①

楽しんでいって下さい!

 俺はどこにでもいない大学生、()(すみ)(じゅん)(ぺい)。何故、俺が極普通の大学生と違うかと言うと、俺は探偵事務所の助手を務めているからだ。

 大学生で探偵の事務所の手伝いをしている奴なんて、世界中どこ探したって、南極、北極をすべからく探したところでそんなにいないだろう。

 仕事はもちろんキツイ。掃除に洗濯にさらに三食も作らないといけない。事件があれば給料に見合わない働きをさせられる。

 最悪この上ない職場だ。

「今日未明、(きり)()()町五丁目、港付近で手足が切断された死体が発見されました。この凶悪で猟奇的な殺人事件の被害者は今月で二人になってしまいました」

 桐之座町の大通りのテレビモニターで朝のニュース番組でアナウンサーが凶悪な事件について詳細を話し、専門家に意見を聞いた。

「四肢を切断するという極めて猟奇的な犯罪。これは犯人が被害者に異様な恨みがあったか、それとも快楽を求めて犯行に及んだと考えられます」


 ――快感を求めて? つまりは快楽殺人ってわけか?

 

 ここのところテレビも新聞もこの話題で持ちきりだ。

「あっ、ヤバい! 時間だ」

 時計を確認すると約束の時間九時にあと少しでなってしまいそうだった。

 俺は急いで職場に向かう。朝の割には混雑していなく、自転車だと難なく進める。ほどなくして職場のビルに着く。

「よし、五分前だ」

 約束の時間には間に合いそうだ。

 駐輪場に自転車を止めて、朝ご飯をなににしようかと考えながらビルを上がる。三階分の階段を上り切ってすぐのところに俺の職場「(おり)(がみ)探偵事務所」がある。 

 職場の扉を合鍵を使って開けると入ってすぐのソファーに綺麗な足を組みながら読書を嗜んでる女性がいる。


 彼女の名は(おり)(がみ)(きょう)()。容姿端麗にして頭脳明晰。彼女の佇まいは世の男性をいとも簡単に魅了してしまいそうなほどに美しい。

 スラリと伸びた長い(つや)やかな黒い髪。見つめられてしまえばあっという間に飲み込まれてしまいそうになる黒い瞳。その相対的にその白さが映える透き通るような肌。

 ほど良い体のライン。白い衣服を好みよく着ている。

 妖艶な紅い唇。しかし、その口をひとたび開くと――

「おはよう。響子さん」

「あら……来ていたの? ごめんなさい。貴方の影が薄くて気が付かなかったわ。おはよう。助手くん」

 こうなる。彼女はいつも一言余計なのだ。

「悪かったな。影が薄くて」

「良いのよ。いつものことじゃない。それより、朝ごはんを作る前に(コー)(ヒー)を淹れてくれるかしら?」

「はいはい」

 荷物をソファーに置き、朝ごはんを作る前に彼女にコーヒーを淹れてやる。

「どうぞ」

 淹れたてのコーヒーをテーブルの前に置く。彼女は読書をしながら、お礼も無しに熱いコーヒーを一口飲む。

 俺は彼女から文句が来る前に、早急に朝ごはんを作った。

「ほら、響子さん。出来たぞ」

「ん……美味しくできた?」

 彼女は読んでいる本に四つ葉のクローバーの栞を挟め、自分の傍らに置いた。

「まぁ、いつも通り……かな?」

「ふーん。まぁ良いわ。早速いただきましょう助手くん」

 俺は自分と彼女の分の朝ごはんを運び、ソファーに座る。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 大した会話もなく黙々と食べ続ける。いつもならこの流れで食べ終えてしまうが、今日は違った。この事務所にはテレビがなく、代わりに小さな白いテレビラジオがあるのだが、そのラジオから例の猟奇的な殺人事件のニュースが流れた。

「物騒な事件ね。怖くて気軽に外に出れないわ」

「響子さん、あんたは大丈夫だろ。普段外に出ないんだから」

「失礼ね。私だって外に出るわよ。この前だって図書館に行ったし」

「この前って、もう二週間前じゃないか」 

「細かい男は嫌われるわよ助手くん」

「じゃあ――」

 じゃあ響子さんは探偵なのに細かいことを気にしないのか。と言いかけたが、彼女の機嫌を損ねるとやや面倒なので止めた。

「じゃあってなによ?」

「何でもない」

 はぁっと軽い溜め息を漏らしながら俺にこう言った。

「男ならはっきりとものを言いなさい。女々しい男も嫌われるのよ。ただでさえ貴方は冴えない顔してるんだから」

 顔のことは否定しない。だけど女々しいまで言われるとは思わなかった。少しいや、大分傷ついた。

 食事も終わりに差し掛かるころ探偵事務所の扉が開いた。

「やってるか?」


 自称美人天才探偵を名乗っている織神響子だが、まぁ実際に美人で天才なんだが、なにせ小さな事務所な上、仕事が来ないのだ。

 猫探し、浮気調査を一切受け付けないこの事務所は一体なにを取り扱っているかというと 

「ええやってるわ。いらっしゃい。(みな)(かた)さん。今日はどんな難事件を持ってきてくれたのかしら?」

 そう。この事務所が取り扱っているのかというと警察もお手上げな迷宮入りが決定してしまいそうな事件を取り扱っている。言わば俺と響子さんは迷宮の攻略者なのだ。

 今入ってきたのは刑事の南方一郎さん。一か月前にも事件を持ってきて、俺たちを飢えから守ってくれたありがたい人だ。

 俺は急いで朝ごはんを片付けて南方さんにコーヒーを出す。

「ありがとう香澄くん」

 やはり、お礼を言える人は素晴らしい。響子さんにも見習ってほしいものだ。

「では早速本題に入ろうか」

「そうしてくれると助かるわ」

 俺は彼女におかわりのコーヒーを淹れ、隣に座り依頼内容に耳を傾ける。

 南方さんはコーヒーを少しだけ飲み、シャツのネクタイを緩め、話し始めた。

「今日お前らに依頼したいのは知ってるかもしれんが、四肢が切断されている死体の殺人事件だ」

「もちろん知ってるわ。今はどこもその話題で持ち切りだもの。でも、貴方たちが手におえないほどの事件なの?」

「ただの事件ならわざわざ来ないさ」

「なんだか煮え切らない答え方ね」

 南方さんは一呼吸おいてから再度話す。

「凶器や犯罪の跡が見つからないのも厄介だが……一番厄介なのが、犯人である可能性が一番あるのがすでに死んだ人間だってことだ」


「死んだ人間が犯人ですって? ふふ。冗談のつもりなの?」

「すまんが大真面目だ。この写真を見てくれ」

 上着の胸ポケットから三枚の写真を取り出す。

「まずはこの派手な女がいるだろう。これが一人目の被害者。()()()()。そしてこの眼鏡をかけている女が、二人目の被害者。(しの)()ゆの」

 一枚、二枚と被害者の女性の写真をテーブルに俺たちに見やすいように置くと――

「これが犯人である可能性が一番高い、(えのき)(あき)さん。二年前の高校三年の夏に学校の屋上で自殺している」

 犯人である可能性が高い、女性の写真を見せた。

 しかし、俺からすれば見るからにおしとやかな女性で、もし人を殺したのならばとてもじゃないがそうは見えないのが正直なところだ。

 響子さんはこの写真を見てどう思っているのだろうか?

「その事件は知ってるわ。確か、いじめられて死んだんでしょ? まさかそのいじめの復讐のために蘇ったって言うの?」

「さすがにありえないとは思うが……」

「凶器もない。犯人は死人? 最高の難事件じゃない」

 彼女は足を組み、コーヒーに口をつけるとこう言った。

「良いわ。この事件、私が解決してあげる。土下座して喜びなさい」

 彼女はニヤリと笑みを浮かべる。

 その笑みは、俺たちがこの四肢がない死体の犯人を捜すもとい、幽霊の正体を(あば)く捜査の始める号砲となった。

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