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百八番目は異世界魔王  作者: 藤正治
第一章 三日戦争
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08.三魔王会談

 アルフェシオを捕えたあと、敵の従者に降伏勧告した。

 もちろんアルフェシオを人質にしてだ。

 ラキスさんとは違い、敵の従者は糾弾することなく、あっさりと剣を捨てた。

 アルフェシオから暁闇の指輪を貰った。

 要求すると、無言で渡してくれた。騎士だから、やっぱり潔いのだろう。

 必殺技で消滅させられたスケルトン兵十体は、復活自体は可能だそうだ。

 ただ依り代となる骨が残っていないので、すぐには無理らしい。

 それでも嬉しい。これで文字通りの意味で犠牲者はなかったことになる。

 ふたりを拘束して第一〇六城砦に戻り、フィリラちゃんとラキスさんを回収。

 四名の捕虜を引きつれて第一〇八城砦へと帰還した。

 八百九十体のスケルトン兵達は、置き場所に困ったので城砦の周りにぐるりと配置した。

 とりあえずフィリラちゃん以外の捕虜の皆さんには、地下牢に入ってもらった。

 フィリラちゃんは一晩地下牢で過ごしたせいか、ずいぶん疲れている様子なので城砦の一室で休ませた。


 地下牢に魔王一名と従者二名を収監すると、キリキスが不寝番を名乗り出た。

 本当はキリキスの怪我の治療をしたかったが、彼女に必要ないと言われた。

 従者は自然治癒力が非常に高いとのこと。

 そもそも従者は必殺技に対しては強い抵抗力があるらしい。

 背中の爛れた痕も見掛けほどではなく、一晩寝ればほとんど治癒すると断言された。

 仕方なしに捕虜の監視を任せた。この三人に暴れられたら地下牢など崩壊してしまうだろうから。

 俺は城砦内を探索し、ベッドを探し当てると布団にもぐり込んだ。




 ガタガタと身体が震えだした。

 震えを止めようとして、身体をきつく抱きしめる。

 最後の伏兵五十体がいなければ死んでいた。

 そもそも五十体を後方の地面に隠していたのは深い考えがあってのことではない。

 スケルトン兵三百体で陣を構え、林の百体を伏兵とした。

 残り五十体は万が一を考え、後方からの攻撃を防ぐために隠しておいただけだ。

 しかも戦いの激しさに意識を奪われ、五十体の存在はすっかり忘れていた。

 偶然だったのだ。

 戦いに勝てたこと、生き残ったこと、敵味方に死傷者がいないこと、それら全てが。


  

 身体がまだ震えている。

 キリキスはどうやら、アルフェシオを捕えたのは俺の策が的中したと思っているようだ。

 アルフェシオもその従者も同様の考えみたいだ。

 真実は違う。

 最後のスケルトン兵五十体に、俺は命令していない。

 彼らは勝手に動き出し、俺を守ってくれたのだ。

 


 いつの間にか、俺は眠りについていた。



 翌日の朝、魔王三者会談を開催した。

「おはよう、皆さん。よく眠れましたか」

 言ってから、失言に気が付いた。

 よく眠れるはずがないのだ。皮肉だと受け止められなかったか?

「ああ、問題ない」

 アルフェシオが答える。

「あ、あの、わたしだけベッドに寝かせてもらってごめんなさい」

「お気になさらずに、フィリラ様」

 フィリラとラキスが互いを気遣う。うん、美しい主従愛だ。

 アルフェシオの従者は無言。この娘もあまり表情が出ないのだが、キリキスの人形のような印象とは違う。

 物静かというか、控えめな感じなのだ。

 この三者会談の席だが、俺は例の玉座に座り、傍らにはキリキスが控えている。

 左手にはフィリラとラキス、右手にはアルフェシオとその従者が椅子に腰を掛けている。

 但し、従者たちには頑丈な手枷足枷を付けている。

 しかも手枷と足枷は椅子に座った状態で鎖をぴんと張って結んでいる。手足を動かせないし、立ち上がれもしない。

 従者の非常識な能力を理解した俺は、彼女たちを自由にしておくほど不用心ではない。

 フィリラちゃんは痛ましいそうにラキスを見ているが、我慢してもらうしかない。

 キリキスは玉座の前で跪かせた格好で対面するべきだと、婉曲な表現で進言したが、却下した。

 女の子たちを石の床に座らせてふんぞり返るような趣味は持ち合わせていない。


「どうだろう、まずはお互い、自己紹介をしないか。短い付き合いになるが、互いの名を知らないのでは不便だからな」

 アルフェシオが提案する。

 なるほどと俺も頷いたが、キリキスが冷ややかな眼差しでアルフェシオを見詰める。

 何か気に障ったのか?

「わたしはアルフェシオ・アイスバーグ。ランドルク王国の貴族の長女だ」

 へえ、貴族か。生ではじめて見たよ。

「クルスと申します」

 はじめて耳にしたアルフェシオの従者の声は、なんとなく大和撫子をイメージさせた。

「わ、わたしはフィリラです。コボク村の、の、農家の娘です」

「ラキスだ。フィリラ様の従者だ」

 ラキスが誇らしげに胸を張る。

 彼女は他の従者とは印象が違うんだよな。

 なんというか、感情が豊かだ。従者としてはどれが普通なのだろうか。

 彼女たちの自己紹介からいろいろ考えていた俺は、全員の視線が集中しているのにようやく気がついた。

「ああ、俺の番か」

 名乗ろうとして、ふと思い立つ。

 俺は魔王なのだ。もしかするとこの世界で悪名を広げてしまうかもしれない。

 もしも本名が知れ渡ったらどうなる?

 まさかとは思うが万が一、俺の所業が元の世界に伝わってニュースで報道でもされたりしたら。

『日本人、異世界で女性監禁』『女性を人質に脅迫行為』『異世界との外交問題に発展』

 こんなテロップが頭をよぎる。

 考えすぎだと馬鹿にはできない。人間がひとりこっちに来たのだ。

 それに比べれば何らかの情報が向こうに伝わる可能性は十分にある。

 うん、あれだ。せっかくの異世界だ。心機一転のつもりで新たな名を名乗ろう。

 魔王なんだから・・・いやそのまんまでは日本人だとモロバレだ。

「・・・俺はカズサ、別の世界から来た」

 なかなかいいじゃないか。なのに沈黙が落ちる。誰も言葉を発しない。

 俺が首を傾げたが、すぐにその原因に気がつく。

「ほら、キリキスも自己紹介をしな」

「・・・キリキスです。偉大なる魔王、カズサ陛下の従者です」

「えらいぞキリキス。よく出来たな」

「いや違うだろ!」

 ラキスさんが叫び、勢いよく立ち上がろうとした。

 そのまま鎖に引っ張られ、前かがみのまま転んだ。

「ラキスさん!」

「お、おい、大丈夫か!?キリキス!」

「・・・承知しました」

 キリキスが手伝い、席に座りなおすと、ラキスはまたもや叫んだ。

「なんだその別の世界って!」

「なんだって、そのままの意味だが?」

「・・・それは、別の大陸から来たという意味か?」

「違うよ。そのままの意味。あれ?」

 みんなの反応がおかしい。

「キリキス、別の世界の人間って、珍しいのか?」

「珍しい、というより、そのような存在は記憶にありません」

「あれ? ちょっと待て? その割にキリキスはぜんぜん驚いてなかったじゃないか。だからてっきり、異世界の人間なんて普通にいるのかと思ってた」

 そういう小説もあるしね。

「陛下がどこの生まれであろうと、何者であろうと、関係はありません。陛下はわたくしの唯一にして無二の主。絶対の忠誠を捧げるべき方です」

「・・・その、ありがとうな。キリキスも俺の大事な従者だよ」

「・・・おそれ入ります、陛下」

 いまさらだがなんか照れる。かゆくもない頬をかいて誤魔化した。

「いや、良い雰囲気のところ申し訳ないのだが、けっこう大事ではないか?」

「学術的には重大発見ですが、現状ではさほど意味はありません」

「あ、あの、皆さん、どうされたのでしょうか?」

「そのですね、なんと言いますか」

 なんだか大騒ぎになってしまった。

次話掲載予約 明日2014/08/19 00時


≪魔王の世紀≫を生き残るには他の魔王を殺すしかない。

その残酷な現実を前に、カズサが求めた答えとは?

次話『魔王領ゾルガーと異世界魔王カズサ』

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