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百八番目は異世界魔王  作者: 藤正治
第一章 三日戦争
6/24

06.想定外の遭遇

 結局、小さいほうだけ済ませた。

 ふと、これから戦いになるかもしれないと思ったら大きいのは引っ込んでしまった。

 遮るものがない場所で済ますのも難易度が高すぎた。

 戦いの準備をいろいろ整えてから朝食にした。

 岩パンと命名した携行食料を口にする。

 昨日も食べたが、とにかく硬い。ドライフルーツっぽい粒々が入っていている。

 味は悪くないのだが、顎が疲れる。噛む回数が多くなり密度も高いので満腹感がある。

 ただ水なしでは飲み下しにくいのが難点だ。

 あたりの景色を眺めながら、ゆっくりと朝食を堪能する。

 見渡す限りの草原が、風にそよぐさまが心地よい。

 遥か北の方角には雪を頂いた山脈が見えた。

 地面に生える草の若々しさや明け方の肌寒さから、いまは初春だろうと見当を付ける。

「この辺りに、人は住んでいないの?」

「第一〇八城砦の東、川の手前に人族の開拓村があります」

「フーン」

 キリキスと、そんなとりとめのない会話をかわす。

 この場所は、魔王三城砦のほぼ中心地にあたる。なだらかな起伏がさえぎって、どの城砦もここからは見えない。

 食事を終えた俺は、草原の上に横たわり、ひじ枕をした。

「もうちょっと眠るよ。第一〇七城砦から魔王が進軍してきたら起こしてくれ」

「・・・承知しました」

 何故だろう。表情にも口調にも感情を忍ばせないキリキスの内心が、だんだんと読めるようになった気がする。

「聞きたいことがあるなら、言ってごらん」

「魔王一〇七は、本当に攻めてくるのですか?」

「さあ? どうだろうね」

 すると俺は魔王一〇八か。威厳もなにもないね。

「確信もないのに、陣を張られたのですか?」

「昨日攻めて来なかったのなら、利口な人間なら今頃は状況を把握して、大筋の方針ぐらいは決めたんじゃないかな。だとすると今日あたり、周辺の状況を把握するために、偵察に来ると思うんだ。一応、どんな事態に遭遇しても対応できるように兵を率いてね」

 人数はそう、スケ兵が百体ほどか?

 城砦の防御に百体、従者対策にもう百体を残すとする。そうすると偵察に割けるには百体ぐらいという計算だ。

 もし魔王本人が率いていれば、囮を使って捕縛できるかもしれない。

 そうなれば魔王三人で交渉の席につける。

 こちらが主導権を握るのだから、何らかの合意に達することが可能だろう。


「もし来なかったら、どうなさるおつもりですか」

 そう、それが一番厄介だ。城砦に立てこもられたら長期戦になる。

 城攻めなんて、もちろん経験がない。昨日、第一〇六城砦を陥落させたのは万が一の僥倖にすぎない。アイラちゃんが防衛態勢をなんにも施してなかったことと、キリキスの必殺技があったおかげだ。

 さすがに一晩たって、なんの手も施していないはずがないし、キリキスの必殺技は封印だ。城攻めとなったら、どうしたらいいか?

 兵糧攻め? スケ兵は食事をしない。攻城兵器? 造り方をしらない。

 水攻め火攻め? どうやるのか俺は知らない。

 その点、野外なら簡単だ。勝つにしろ負けるにしろ短期で終わるし、勝つ可能性もある。

 そうなると魔王一〇七が来るというのは予測というより願望だな。

「まあ一日待って来ないようなら、いったん帰って策を練るか使者を送って」

 使者はだめか。スケ兵はしゃべれないから手紙を持たせるのがせいぜいだ。

 キリキスを送るのは論外だろう。

 いろいろと思いつくが、仲間が少ないのがかなり痛い。魔王といっても名前だけで、部下と言えば従者一人のわびしさだ。

 まあ最後の魔王の問題が解決したら、自分の世界に戻る手段を探すだけなので特に問題はないのだが。

「キリキス、何か話してくれないか?」

「どのようなことを?」

「話題は何でもいい、どんな些細な事でもいい、俺はこの世界のことは何も知らない。思いつくままありとあらゆることを話してくれ。国のことでもいい、そこらへんに生えている草花の話でもいい、食事の話でもいい、とにかくぜんぶだ」

「承知しました。では」

 俺の無茶な要求にも戸惑うことなく、キリキスは話し始めた。

 キリキスの話しの選択が、彼女の人となりを理解する一助にもなるだろう。




「無間飢餓地獄に堕ちた罪人たちは互いの肉を・・・来たようです、陛下」

「・・・ああ?」

 遠のいていた意識が戻る。見渡せば、そこはのどかな平原。

 煉獄の炎も永遠の亡者の姿も見えない。

 陣形を組むスケ兵たちの骨のまばゆい白さに、先ほどまで見ていた悪夢がきれいに洗われるようだ。

「陛下、大丈夫ですか?」

「・・・ああ、だいじょうぶ大丈夫」

 頭を振り、意識をはっきりとさせる。


 どこで道が逸れたのか。

 キリキスははじめ、秋になると可憐な花を咲かせる果物の話をしていたはずだ。

 キリキスのイメージからはちょっと想像できない話題を、意外に思いながらもほほえましく思っていたのだが。


 キリキスの視線の先には、隊列を組んでこちらに迫るスケ兵たちの軍勢が見える。

 総数はおそらく

 三百体!?

 偵察などではない、総力戦の構えだ!!

 相手の魔王の大胆さに、俺は恐れを抱いた。

 昨日の俺はパニックと怒りに駆られ、無謀な特攻で運よく城砦を落とせた。

 だが、相手は一晩経った上で行動している。突然の出来事から回復し、冷静さを取り戻したであろう。状況も把握しているだろう。

 その上で全軍を率いて城砦を出ている。それは覚悟なのか。あるいは自信なのか。俺と同じ単なる自棄と無謀なのか。

 所詮、俺は一介の庶民に過ぎない。

 本気で戦う覚悟なんてないし命が惜しい。

 目の前に、明確な攻撃の意図をもって軍隊が迫れば、恐怖のあまり逃げ出したくなる。

「陛下」

 気がつけば、キリキスが俺の手に触れていた。

 最初の戦いのときと同じように、感情のない赤い瞳で俺を見詰めている。

 彼女はふたたび、俺の命令を待っていた。

 深呼吸をひとつして、俺は彼女に告げた。

「戦闘の準備をしよう」

次話掲載予約 明日2014/08/17 00時


第107魔王の猛攻に苦戦を強いられる。

かろうじて作戦が功を奏したと思った瞬間・・・

次話『剣騎の魔王』

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