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百八番目は異世界魔王  作者: 藤正治
第二章 魔王領ゾルガー
17/24

17.日帰り冒険

「エルフ探しに行きたい人、手をあげて!」

 はいはーい、俺がバンザイをしてメンバーを募ったが。

 ディルくん一人しか参加者がいない!?

「何をはしゃいでいるのか理解できないが、エルフなぞ探してどうする」

「呪われちゃいますよ?」

 従者たちは集まってこそこそ話し合い、冷たい目でこちらを見ている。なぜだ!

「な、なんだよみんなして! エルフだよ? 森の守護者だよ! 謎のベールに包まれた孤高の種族だよ! 人外魔境の森に踏み込み、数々の危険と苦難を乗り越え、神秘の集落を求める冒険だよ!」

 俺の言葉にディルくんは、瞳をキラキラさせて何度も頷く。さすがは男の子!

「どこから仕入れた評判だか知らんが、エルフを買いかぶりすぎているぞ? 逆に言えばあいつらは、他種族を見下して交わろうとせず、外界を恐れて森の奥に逃れた、秘密主義の偏屈どもにすぎん」

「それに呪われちゃいますし」

 従者たちが熱心にうんうん頷く。

「ひ、ひどいよみんな、冒険のロマンがわかってないよ! なんだいバカにして!」

「い、いや? 別にカズサを馬鹿にしているわけでは――――」

「いいよもう! ディルくんは分かるよね! エルフに会ってみたいよね!」

 コブシを握りしめ、激しくディルくんが肯定する。

「同志よ! 共に冒険の旅に出かけようではないか!」

「オ―――!」

「お、おい、ちょっと待て」

「カズサ様!?」

「陛下!」

「みんなのバカ――――オタンチ――――ン!」

「「「「「なあ!!!!!」」」」」

 俺はディルくんと手を取り合い、意気揚々と出発した。



 数日前、ソーク村長との会談後、気になる話を聞いた。

「森のヌシがいなくなったとしても、あの古の森の奥には踏み込まぬほうがいいでしょう」

 ソーク村長が真剣な顔で語る。

「あの森には守護者がおります」

「守護者、ですか?」

「そう、人が立ち入らぬ深い森には、彼らの集落があるという。いたずらに森の奥に進んだり、森を荒らさぬほうが良い。彼らの怒りを招く者には、呪いが降りかかるという」

 なんだか村長さんの話しぶりが、調子に乗って芝居じみてきた。

「・・・あの、恐ろしくも美しい森の守護者、エルフの呪いがああああ」

 きゃああと悲鳴をあげて耳をふさぐディルくん。

 ああ、フィリラちゃんまでもがちょっと涙目です。

 それはともかく

「・・・エルフかあ」

 知識としては詰め込まれているが、大雑把な特徴だけである。

 異種族・長命・魔術高適正ぐらいだ。

 この雑すぎる知識は、この世界の人間なら当然知っているべき基礎知識なので省略されたのか。

 だとしたら異世界魔王用簡単ガイドブックでも作ってほしい。

 それにしても、エルフかあ。元の世界の物語と同じような存在なのか、名前が偶然似ているだけなのか。

 そもそも異種族とかどういうものなのだ。

 しかし、ロマンがある。ファンタジーだ。

 ぜひお友達になりたい。



「へえ! 村ではそんな遊びが流行っているんだ」

「・・・とってもおもしろいよ?」

「俺にもこんど、教えてくれよ」

「・・・いいよ?」

「なあ、カズサ」「・・」

「そうだ、俺の故郷の遊びも教えてやるよ!」

「どんなの?」

「おい、カズサ」「・・」

「いろいろあるぞ? たとえば鬼ごっこにドロケンにカンケリにハナイチモンメ、カゴメカゴメというのもあるぞ」

「たのしいの?」

「おう、すげえ楽しいぞ!」

「うああ」

「聞いているのかカズサ」「・・・」

「どっかで誰かが何かを言っているなあ、ディルくんは聞こえる?」

「聞こえな~~い」

「ちょっと待てふたりとも!」「・・・」

「そうだよねえ聞こえないよねえ」

「エヘヘへ」

「冒険しない人は関係ないもんねえ」

「カンケイない!」

「・・・」「・・・」

「よし、今日から俺たちは冒険者だ! 仲間だぞ! 友達だ!」

「うん、カズサおじちゃん」

「・・・おじちゃんじゃないぞ、お兄ちゃんだ!」

「え~~~おじちゃんだよ~~~」

「・・・そういうことをいうやつはこうだ!」

「きゃあああはははははは」

 俺はディルくんをクスグリの刑に処す。ディルくんは身をよじって暴れ、竜骨馬から落ちそうになって慌てて抱きとめた。

「・・・まったくいちゃいちゃしおって。あれが大人のすることか? なあ、キリキス」

「・・・陛下が楽しげなら、かまわないと思います」

「まるで子供ではないか」

「幼稚だろうが幼児だろうが、陛下は陛下です。誰と楽しく戯れようと、従者であるわたしはいっこうにかまいません」

「そ、そうか? ま、まあ、キリキスがそれでいいならいいんだ、うん」


 背後から、アルフとキリキスの、聞こえよがしな皮肉が矢のように刺さってくる。

 キリキスの声がやたら低い気がする。

 竜骨馬にまたがり、鞍の前にディルくんを乗せた俺は、前方に注意を払う。

 周囲はスケ兵さんたちで囲み、魔獣の奇襲にも万全の備えだ。

 魔獣狩りのおかげで、この辺りはだいぶ安全になった。

 もっともすぐに増えるらしいから、さぼるわけにはいかない。

 一説によると魔獣は大地の魔力を吸収するため繁殖力が高く、成長速度も速いらしい。

 クルス先生によれば、デモニアムが発動すると世界中の魔力が活性化する。

 そのため魔王の活動期間中は魔獣が増えるのだろうと、推測した。

 彼女がわざわざ説明した理由は、俺が魔王の存在そのものが魔獣の増殖の原因ではないかと気に病んでいるからだ。

 魔王が魔獣を従えて世界征服を目論むというファンタジーが頭にあったのだが、クルスによれば魔王と魔獣には従属関係はないらしい。

 逆に言えば、とうぜん魔王も魔獣に襲われるので、対策が必要とのことだ。

 だが、今日は魔獣の姿を見かけないし、のんびりとピクニック気分を満喫できる。

 ディルくんとじゃれあいながら進んでいくと、やがて古の森が見えてきた。


 やはり広い森だ。視界いっぱいに緑の壁が広がっている。

 俺は竜骨馬をその場に止まらせ、スケ兵さんたちを森に向かって前進させた。

 森に侵入させるスケ兵さんたちは二百体。百体は護衛として付近を警戒させる。

 森に入ったスケ兵さんたちには危険な魔獣がいないか探索してもらい、発見したら適当に戦わせて森の奥に追い立ててもらう。

 狩りが目的ではないので、鳥や獣も逃げ出してもかまわない。

 ディルくんがいるので安全優先だ。

 やがて古の森の一画に、危険を追い払った安全圏を確保すると、二百体のスケ兵さんたちには防壁となってもらう。

 俺は森の端まで竜骨馬を進めると、先に鞍から降り、馬上のディルくんを抱きかかえて降ろしてやる。


「さて、いくか」

 俺はディルくんと手をつなぎ、森の中に侵入した。

「気をつけろよ、どこに魔獣がいるか分からないからな」

 もちろん魔獣がいないのは分かっているけどね。

「・・・・・・」

 ディルくんは緊張した面持ちで頷くと、俺の手をぎゅっと握り締めた。子供の体温はたかいなあ。

「・・・いいのか、子供をこんなところに連れてきて」

 アルフが心配げにたずねる。

 彼女もスケ兵さんたちのネットワークに連結して状況を把握しているだろうが、万が一を考えているのだろう。

「うん、ちょっと辺りを探索してから、帰るつもり。それよりも聞きたいんだけど」

「なんだ、いったい」

「どうしてディルくんがいるんだ?」

「自分で連れてきて何を言っているんだ!」

 アルフは愕然とした表情で俺を見る。不安げな視線は俺の頭を疑っているようだ。

「そうなんだけどね?俺が言いたいのは城砦になんで滞在しているのか、ていう意味だよ。なんかあたり前に朝食を一緒に食べているから違和感がなかったんだけど?」

「知らないのか? 一昨日フィリラが開拓村から連れてきたんだ。遊びにきたいとねだられたらしい」

「へえ、ディルくんは勇敢だなあ、スケ兵さんたちとか恐くないの?」

「へっちゃらだよ?」

「すごいなあ、えらいぞ」

 反対の手で頭をなでると、くすぐったげに首をすくめるディルくん。

 大の大人でも逃げ出しそうな骸骨の兵士の巣窟で平然としている彼の神経は、頼もしいけどちょっと心配だ。

「でも、なんで許可したのかなあ」

 そういえばフィリラちゃんがディルくんを城砦に泊めていいか、聞いてきた記憶がうっすらとある。

 そのときは作業に集中していて適当に返事をしたのだが、なんか理由があったはずだ。

「ああそういえば」

 確か、開拓村の人々へのイメージ対策を思いついたような気がする。

 城砦に子供が気軽に遊びにくれば、少しは彼らの恐怖心が薄らぐかもしれないと考えたのだ。

 効果があれば今後、開拓村の人に城砦での仕事を頼むことができるかもしれない。そんな風に計算した覚えがある。

 うん、そうだそうだと納得していると、アルフが心配げにこちらを見た。

「大丈夫なのかカズサ、疲れているんじゃないか?」

「ああ、ここんとこ忙しくてね。昨夜も実験に夢中になって徹夜だったなあ」

「睡眠もとらずに何をしていたんだ」

「スケ兵さんたちの強化実験」

 きたる魔王群襲来に備え、少しでも手持ちのスケ兵さんたちを強くできないか、試行錯誤しているのだ。

 決定的な成果はないが、少しは光明が見えてきたかな、という段階だ。

「睡眠不足でさあ、妙にテンションがあがってさあ。エルフ探しも実験で煮詰まって、気分転換のつもりだったんだ」

「そうだったのか・・・・すまない、そんな理由があったとは知らず、にべもなくあしらってしまった」

「いいって、そんなにまじめに言われると、かえって困る」

 自分の行動を思い出すと、いまさらながら恥ずかしくなる。

「しかし、あまり無理はするなよ。身体を壊したら元も子もない」

「わかっちゃいるんだけどね、考えることやしなくちゃいけないことがありすぎて。最近はみんなにも仕事をたくさん任せてしまって、すまないね」

「わたしたちの仕事などたいしたことはない。わたしたちの負担を減らした分、自分で背負ってしまったら、いつか倒れてしまうぞ」


 彼女たちの仕事まで引き受けているわけではないのだ。ただ、彼女たちには任せられない仕事が増加傾向にあるだけだ。

 魔獣討伐のローテーション。草原の民や開拓村、領域内にある資源などの調査のまとめ。

 その他諸々に関する情報を、みんなから聞いて評価を下し、新たな方針を立ち上げて仕事を作り、みんなにまたお願いする。

 例えば開拓村のゼンさんが農家でもあるが鍛冶師が本職と聞けば、彼の人柄や仕事の腕前を調べる。

 城砦から依頼を出した場合引き受けてもらえるか、必要な材料や道具を提供する場合の入手先について。

 もし仕事量が増えた場合に鍛冶専門の作業場を立ち上げることは可能かどうか。

 建築資材はどのように調達するのか、建築の専門家は開拓村にいるのか、建築期間中の人員の報酬はどのような形が望ましいか、などなど。

 いまはいろいろと構想の段階で、着手可能な部分からコツコツと始めているが、進捗状況は思わしくない。

 いや、そもそも期限が不明なので、果たして魔王群襲来に備えて準備が早いのか遅いのか、わからないのがプレッシャーだ。

 だからつい焦ってしまい、あれもこれもと手当たり次第に仕事を増やし、結局は処理しきれなくて溺れている状況だ。

 まあそんなことは今はどうでもいい。


「これから役割分担を決める、まずディルくんはレンジャーだ!」

「れんじゃー?」

「そう、これは非常に重要な役目だ。仲間の先頭に立って危険を探り、食べられる野草や木の実、果物を探さなければならない。できるか?」

「まかせて!」

「うむ、良い返事だ。俺は遊び人だ。罠に引っかかったり、怯えて腰を抜かしたり、戦う仲間の後ろで歌ったり踊ったりする重要な役割だ」

「かっこ悪いね!」

「そうだ。そしてアルフは女遊び人だ」

「ちょっと待て! しかも戦力バランスが悪すぎる!」

「何もないところで転んだり、悲鳴をあげたり、意味もなく肌を露出するお色気係だ」

「・・・あとでゆっくりと話し合おう」

「そしてキリキスは女あそ」

「従者です」

「いやキリ」

「従者です」

「・・・従者だ。敵と戦ったり仲間を守ったりする役目だ」

「お任せ下さい」

「えこひいきだ!!」

「ディルくんはリーダーをやってもらおう。頼りない仲間を率いるディルくんの責任は重要だぞ、大丈夫か?」

「だいじょうぶ!」

「よし、それでは出発だ!」

「オー!」

「はい」

「・・・お色気係・・・」


 約一名、ぶつぶつボヤキながら探索を開始した。

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