13.盗賊鎮圧作戦
盗賊と聞きアルフは色めき立った。
「本当か!?」
「はい。見える範囲に十名ほど、城砦の中から物資を運び出している様子です」
「先行するぞクルス!」
「アルフ! クルス! なるべく殺すな! あと足止めだけ頼む!」
「しかし―――!」
「無理をする必要はない! ふたりの安全が最優先だ!!」
今回率いているスケルトン兵さん達は三百体。
まず竜骨馬に乗ったアルフとクルスが先行して盗賊たちをかく乱する。
その後、足の遅いスケ兵さん達が現場に到着したら人海戦術で捕縛という段取りだ。
スケ兵さん達なら、いくら抵抗しようと盗賊達を殺さないで抑え込めるはずだ。
こちらの被害を度外視できるスケ兵さんは本当に頼りになる。
「―――わかった!」「承知しました」
俺も竜骨馬の速度をあげてふたりの後に続いた。
「なんでついてくる!?」
アルフが振り返り、怒鳴ってくる。
「あたりまえだろ? ここからじゃ何も見えない」
「あたりまえじゃない!スケ兵たちと一緒に来い!」
「なんだよ邪魔なのか!」
「邪魔だ!足手まといだ!ついてくるな!」
ひどくない? 建前でも俺、ご主人様だよね?
「大丈夫だ! ひたすら逃げまわるから!」
「それが邪魔だというんだ!」
「おふたりとも、そろそろ到着しますよ?」
おおさすが愛馬デープ、 素晴らしい脚力だ。ほんと骨だけなのにどうしてこんなに速いんだ?
「くそ!絶対に戦おうとするなよ!弓には注意するんだぞ!」
「まかせろ!よく考えたら手ぶらできた!」
「なにしにきたんだ!!」
アルフが絶叫する。
だけどねえ俺が武器持ってもしょうがないでしょ?逃げるのに邪魔だし。
でも今度、フィリラちゃんに弓の使い方を教えてもらおう。手取り足取りで。
俺は盗賊たちの姿かたちがはっきり見とれる位置にくると、デープを急停止させた。
そのままアルフとクルスの背中を見送る。
「盗賊ども! 武器を捨てて降伏しろ!」
アルフの怒号。うわ、すごい迫力。
俺はすばやく状況を読み取る。馬が二十頭、人間が十四名、二頭立ての荷馬車が三台。
四回目の戦闘のためか、視界が広く感じられる。
緊張はしているが、無駄に怯えていない気がする。
これは訓練の一環だ。
剣を握ったことのない俺が戦いの場で役に立つとすれば、冷静に戦況を見定めることしかない。
それには場数をこなし、戦場に馴れるのが第一歩だと思う。
盗賊達の装備はバラバラだ。剣や弓を携えている。
ただ、城砦から荷物を運ぶのに夢中だったせいか、俺たちの接近に気付くのが遅れてうろたえている。
降伏勧告を聞いてから慌てて剣を抜く始末だ。
アルフは戦場を縦横無尽に駆け巡った。
馬に乗ろうとした男に剣を振り下ろす。ぐっと奥歯をかみ締めて見守る。
男は倒れたが、血は流れていないようだ。
鞘をつけたままの剣で頭を殴ったようだ。打ち所が悪ければ死ぬかもしれないが、俺の頼みを聞いて手加減してくれたらしい。
クルスは竜骨馬をとび降り、その勢いを利用して疾走する。
剣を構えた奴の肩を剣の切っ先で貫いた。
そのまま横を駆け抜け、目につく弓の弦を手当たり次第に切り払う。
アルフが騎馬で混乱を誘い、クルスがその隙をつく感じか。
「おまえら!うろたえるんじゃないよ!相手はふたりだけだ!」
女の子!また女の子だ! どうなっているんだ!
荷馬車に立ち、盗賊たちを叱咤する女の子。たぶん年齢はアルフと同じかちょっと下だろう。
そのアルフが、盗賊の女の子に馬首を巡らし、突進する。
荷馬車の脇をすり抜ける瞬間、女の子の脚を剣でなぎ払う。
女の子はひょいっと上に跳んで剣をかわす。すごい身の軽さだ。剣の届く範囲よりはるかに高い。
そのままくるりと荷馬車から跳び下り、近くの馬の背にまたがる。サーカスの軽業師みたいだ。
彼女は手綱を操り、その場でくるりと馬を反転させる。あれ、すごい技術じゃないのか。
荷馬車を遮蔽物にして馬を駆けさせると、アルフの後ろに回って剣を突き出す。
それに気付き、アルフが身をよじって避ける。
それからふたりは、馬術の技巧を凝らし、騎乗の戦いに突入した。
突進力と剣の腕ではアルフの方が有利に見えるが、盗賊の女の子の方が馬の扱いが上手く、小回りが利くようだ。
まずいんじゃないか!?
「アルフ!」
俺は思わず叫んだ。叫んでしまった。
ちょうど二人がすれ違い、盗賊の女の子がこちら向きになったタイミングで。
女の子と目が合った。
「あるじどの!」
アルフが叫ぶが、それもアウトだから。決定的だから。
案の定、女の子がにやりと笑う。
戦場は、クルスによって制圧されつつある。
盗賊たちが狙う起死回生の策とは
俺はデープを反転させようとした。むろん超初心者なので、方向転換がスムーズに済むわけがない。
俺が苦心惨憺してようやく向きを変えたとき、女の子がすぐ近くまで迫っていた。
「ひいいいいい」
一目散に逃げ出した。
背後から、女の子の叫ぶ声が聞こえる。たぶん止まれとかそんな感じだろう。
さらに遠くからアルフの叫びが聞こえる。
しかし――――なぜだ!?
剣を持った女の子に迫られるのはこれで二度目だ。
前世の因果か何かなのか!
とにかく怖い。いまにも首筋に冷たい刃が触れそうな気がする。
敵に追いかけられた昔の殿様が、恐さのあまり脱糞したとか歴史の先生がいってたけど。
笑ってすいませんでした殿! もう少しで俺もちびりそうでした!
それでも俺はこらえました。醜態をさらさずにすみました。
だって俺の前方に頼もしい救援やってきたから!
いつもありがとうスケ兵さんたち!
かっこいいぞ我が不死身の軍団よ!
俺は遅れてきたスケ兵さんたちの進軍の真っ只中に駆け込み、
スケ兵さん達を十体以上踏み潰してしまいました。
申し訳ありません!




