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百八番目は異世界魔王  作者: 藤正治
第二章 魔王領ゾルガー
12/24

12.異世界の朝食から

「生きてて良かった!」

 感涙にむせびながら、おかゆっぽい煮物を貪る。

「そんな大げさですよ」

 フィリラちゃんが苦笑するが、まんざらでもないようだ。

 キリキスの許可が出たので、朝食はみんなと同じものだ。

 例のガンパンと、肉と野草を煮込んだものが朝食のメニューだ。

 昨夜はお預けを食らったので、感動もひとしおだ。一人だけ別メニューだと、なんだか除け者になったようで寂しかったし。

いやあ、みんなと同じものを食べるというのは、連帯感みたいなものが芽生えるなあ。

「いやいやいや、ほんと美味しいよ、ありがとうね」

「えへへ、おかわりありますから、いっぱい食べてくださいね」

「お願いしますフィリラ様」

「ってラキス、食べるの早いね!」

「ではわたしも頼もうか」

「アルフもか!」

 アルフはともかくラキスの場合は、フィリラちゃんが作ったというところがポイントなのだろう。

 キリキスもクルスも、小食というほどではないが量は控えめだ。同じ従者であるラキスが大食いであるはずがない。

「もっと食材の種類があると良いですね。小麦とかお野菜とかチーズとか、あと調味料があれば」

 この城砦には一応、包丁や鍋などの基本的な道具は揃っているらしい。道具や食器はある程度あるのに、食材がないのはどういうことだ?

「ガンパンがあれば、生存するのに支障はありませんから」

 ガンパン以外は一応揃えただけだ、とキリキス。この城砦はあくまで防御施設で、余分なものは必要ないとのこと。

 だけどなあ、色々と不便なんだよなあ。ストレスだって溜まってしまう。

 六人が共同で暮らすとなると生活環境の改善は必須課題だ。

「近隣の村と接触するわけにはいかないのか?」

 アルフが尋ねる。

「開拓村らしいが必要な物資が手に入るかもしれないぞ」

「う~~ん」

 自分でも煮え切れないとは思う。

「わたくしがスケルトン兵を率い、徴収してまいりましょうか?」

「だめだよ! 恐いなおまえ!」

 キリキスの意見を速攻で却下する。

 なんというか彼女は短絡的だ。経緯とか手段を選ばず、結果だけを追求するのだ。

 それもこれも全て、俺のためという理由だから余計に始末が悪い。

「人様の物を力づくで奪うとかダメだからな」

 だから俺はことあるごとに一般常識を教育しなければならない。

「何も奪う必要はない。城砦の財物で払えばいいだろう?」

 アルフが言うのは、各城砦に保管されている合計三百万の金貨だ。

 おそらく、かなりの額なんだろう。フィリラちゃんがそれを知ったとき目を回していたからな。

 だけど、ためらう理由は金銭的な問題ではないのだ。

「ごめん、村と接触するのはもう少し待ってもらえないか」

 俺は気後れしている。はっきり言うと恐いのだ。

 アルフやフィリラちゃんは、同じ魔王という境遇だからある程度、安心して付き合える。

 だが、村の人間はこの世界ではあたりまえの一般人、つまり俺にとっては完全な異世界人だ。

 俺という存在が、あるいは魔王という立場がどのように受け止められるか心配なのだ。

 その辺を感触だけでも事前につかんでおきたいのだが。

「それはかまわない。主殿の考えに従うまでだ」

 アルフは特に不平もなさそうだ。フィリラちゃんも頷く。

 俺は内心でほっとした。

「それでアルフ、今日は周辺の探索を行いたいんだが、付き合ってもらえるか?」

「むろんだ、いいかげん城砦の中だけでは息がつまりそうだったしな」

「それじゃあ俺とアルフ、それにクルスで出かけよう」

 ちなみに、いつのまにか俺以外はすでに食事を終えていた。

 しかも、おかわりは残っていなかった。



「それでどこへ行くんだ?」

「まずはアルフの第一〇七城砦、その次にフィリラの城砦をまわろう。それぞれの城砦にスケ兵さんたちを何体か置いていこうと思う」

「どうしてだ?」

「物資があるから、防犯用かな?」

「なるほど、あちらの城砦付近には人里の類はないが、旅人が通りかかる可能性も皆無ではない。すまない、うかつだった」

「いいって、俺だって必要性に気付いたのは昨日、魔獣に遭遇したからなんだ」

「ああ、上位種だったらしいな」

「そうらしいね、俺には分からないけど。そういえば、アルフは騎士なんだろ?魔獣と戦ったことはある?」

「騎士だった、というべきだがな。ああそうだ、国では騎士団をひとつ、率いていた」

「騎士団長、てこと? 意外と偉い人だったんだ」

「そうでもない。国防は軍が担っていて、騎士団はお飾りの面もあったからな」

 苦々しげな表情だ。

「軍の兵士は平民が担い、騎士団は貴族たちが主流だった。王都警備と魔獣退治の名目で前線に赴くことはない。箔付けのために騎士になるものが大半だった」

「アルフはどうして騎士になったの?」

「わたしか? わたしは幼少の頃、騎士の物語にあこがれてな。剣の腕を磨いて、騎士団の試験を受け、がむしゃらに働いているうちに騎士団長になっていた」

「すごいじゃないか!」

「いいや、おそらく父の影響力もあったんだろう。父は国でも有力な貴族でな。実力だけで団長になれたわけではない」

 彼女は自嘲気味に笑う。

 父親が権力者となれば、おもねる者がいたとしても不思議ではない。

 娘に便宜をはかって父親の歓心を買おうとした輩だっているだろう。でも

「父親の影響で騎士団長になったからって、任務をおろそかにしてたわけじゃないんだろう?」

「無論だ! わたしの騎士団には不心得者は入れないし、絶え間ない訓練も課した!」

 俺の言葉にアルフは反発する。

「王都外の民に危険を及ぼす魔獣の討伐も幾度となくおこなった。十分な成果をあげたと驕るつもりはないが、自らの役目を怠ったことはない!」

「だろうね」

「・・・なんなのだ、いったい」

 俺があっさり頷くと、拍子抜けしたようだ。

「だって俺、アルフと戦ったんだよ?」

 思えば、よく生き残れたものだと我ながら感心する。

「敵として真正面に立つと、アルフの凄さがよく分かるよ。こう、ぐわっというのかな、圧力というか、炎の嵐が吹き付けてくるというか」

「・・・よくわからんが」

「いや、自分でも良く分からないけどね。ただアルフが凄い奴だってのは、分かったよ。今の話を聞いて納得した。あれが鍛錬を重ね、誇りをもって戦う騎士なんだって。アルフが物語で憧れた、本当に本物の騎士なんだって」

 あのとき、俺が感じたのは恐怖だけではない。脳裏に浮かぶのは、スケ兵さんたちをなぎ払う戦いぶり。自分に迫る死の恐怖に怯えながら、どこかで心奪われていなかったか。

 そんなことを思いながらアルフを見詰めると、彼女は目をそらした。

「わたしに勝っておいてそんなことを言われても、皮肉にしか聞こえないな」

 憎まれ口を叩きながら、顔が赤い。

「ひょっとして、照れてる?」

「な、なにをば馬鹿なことを!」

 あれ、なんだか可愛いぞ?

「俺が勝てたのは、俺が臆病で、卑怯だからだよ。最初からアルフとまっとうに戦うつもりはなかったし、勝つことよりも生き残ることを優先しただけ」

 それだけ徹底しても、後手後手にまわってしまった。勝てたのは、彼女よりちょっぴりスケ兵さんたちの扱いを心得ていたからだ。

 それと偶然。フィリラとアルフ、戦う順序が逆だったら、俺なんか一蹴されていただろう。

「運が良かっただけだよ」

「幸運は自ら招くもの、とも言います」

 それまで黙って俺たちの話しを聞いていたクルスが口を開いた。

「自ら至らぬことを自覚し周到な準備を怠らないのは優れた将器の証し。卑下なさる必要はないかと」

「そうだぞ、戦場に卑怯卑劣はない。あるのは勝敗ただそれだけだ。主殿はもっと自信をもってよいと思う」

 真顔で誉められ、思わず目を背ける。頬が熱い。

「照れているのか?」

「照れてないよ!?」

「照れてますね」

 まさかの挟撃。ふたりともくすくす笑い出しやがった。

「チクショウ! 悪かったな! 美人にお世辞を言われりゃふつうに恥ずかしいわい!」

 ああくそ! ふたりともストレートの黒髪とかどストライクなんだよな!

「べ、別に悪くはないぞ」

「・・・悪くありません」

「そ、そろそろ城砦が見えてきたぞ」

「・・・そうですね」

 クルスが竜骨馬の上で背伸びをし、前方を眺める。

「あら?」

「どうかした?」

 声を掛けると、彼女はうろんげな表情で俺を見た。

「カズサ様は不思議というか、奇妙な運勢の持ち主なのでしょうか?」

「な、なんだよ」

「盗賊が現れたようです」

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