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国立聖紅薔薇学院大学付属黒薔薇学園初等部のいっかく、六年一組の教室で一人の少年が窓の外を見つめていた。特に何を見ていると言う風でもなく学園の有する広大な敷地を眺めている。そんな少年の頭上で無機質なチャイムの音が響く。だが、特に気にするでもなくチラリと教室の掛け時計を確認して視線を外に戻す。そんなセンチメンタルな雰囲気を放つ少年の背後で教室の扉が開かれる。

「おっはよぉハカセー!」

蹴り破ったのかと勘違いされるほどのド派手な音を立てて扉を開けて教室に入ってきたのは意外にも小さな少女だった。黒い艶やかなツインテールに大きな瞳、陶器のような白い肌のその少女は神宮司咲姫〈ジングウジ サキ〉。「お人形のようだ」と形容され学園中の男子から「姫」と呼ばれている。しかし、実際の彼女は

「おい!ハカセ!何で挨拶しないんだよ?」

見た目とは裏腹な口の悪さだった。

「めんどくせ。」

ハカセと呼ばれた少年はかけていた黒縁眼鏡を上げると

「咲姫。何度も言わせるな、俺は野田陽魔〈ノダ ヨウマ〉だ。ハカセじゃない。」

溜息混じりに訂正する。しかし

「えーハカセはハカセだろー。」

咲姫はニコニコと笑っている。そんな咲姫に陽魔はツカツカと歩み寄ると細く白い腕を掴み咲姫の体を宙に浮かせる。130cm体重25kgと小学六年生にしては小柄すぎるほど小柄な咲姫の体は身長差20cmの陽魔によって易々と持ち上げられてしまう。

「はなせー」

咲姫はパタパタと足をバタつかせて抗議の声を上げる。

「キーキー喚くな。」

陽魔は溜息をつくが

「うるせー!」

咲姫は聞く耳を持たず、掴まれていない方の手で陽魔にパンチを繰り出す。が、その手を陽魔はいとも簡単に掴みニヤリと笑う。

「お前バカなの?俺に敵うとか思うのおかしいよ。」

「うるさいうるさい!ボクはバカじゃないし、陽魔より強いもん!」

咲姫は自分の事を『ボク』と形容しなおも足をバタつかせている。そんな咲姫に

「ほー。じゃあ今のこの状況は何なんだろうな?」

陽魔はニヤニヤと笑いながら腕をさらに引き上げる。

「う~。」

咲姫が強いのは事実だ。それは陽魔も重々承知している。小さな体をフルに活用したすばしっこい動きにその華奢な体からは想像もつかないような強力なパンチとバネの様な脚力で繰り出される地上3mからの踵落しで地元最強と言われるほどの少女だ。とは言え咲姫の側近である陽魔を始め数人の六年一組男子生徒は咲姫の踵落しやパンチを回避する術を備えている。だからと言って咲姫よりも喧嘩が強いと言うわけでは決してなく、ただ回避の方法や止める力が有るというだけなので、本気で咲姫が向かってきたらどうすることも出来ない。そんな事を陽魔が考えていると

「ハカセー腕もげるよーはなせよー。」

咲姫が涙目で訴える。脚が地面から完全に離れた状態まで引き上げられた腕には全体重が掛かっている。

「いてーよー。」

いよいよ咲姫は大きな瞳から涙をこぼす。

「じゃあお願いしろよ。」

陽魔は咲姫に告げる。陽魔はクスリと笑う。

「俺も相当なバカだな。」

自嘲気味に呟いた陽魔は咲姫の顔を見上げる。腕の痛みに涙を流し、苦しそうに頬を赤く染めた咲姫は凄く可愛いと陽魔は思う。それ故毎朝のこのやり取りが楽しくて仕方がないのだ。しかし、陽魔にとっての至福の一時はそう長くは続かなかった。


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