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はだか桜と雪だるま

作者: 御目越太陽

冬の童話祭2013に出そうと思っていたやつです。

反映にあんな時間がかかるとは……。

 はらはらと雪の降りしきる冬の日のこと。

 あるところに、葉っぱを散らせた桜の木が、寒さに震えながら春を待っていました。つめたい北風に吹かれては、細い枝をぶるぶる震わせるそのすがたは、まるで服を着てないはだかの木。

 と、そこへ、どこからか元気な雪だるまがやってきてたずねました。

「ねぇ、ねぇ。どうしてきみの枝には葉っぱがついていないんだい?」

 はだか桜は答えます。

「それは冬だからだよ。寒い冬の間は葉っぱをちらせて栄養をたくわえなければいけないんだ」

「栄養をたくわえてどうするんだい?」

「花を咲かせるんだ。春になれば、この枝の先に、りっぱな花が咲くよ」

「花? きみに? ほんとに、そんなことができるの?」

 雪だるまはとてもおどろきました。無理もありません。咲いている花を見ることも珍しいのに、それが葉っぱも枯れ果てた、頼りないこの木に咲くというのですから。

 大げさにおどろく雪だるまに、桜の木はむっとしていいました。

「できるさ。春に咲くわたしの花はとてもうつくしいと有名なんだ。それはこの雪景色よりも、ずっとね」

 誇らしげな桜の話に、雪だるまは興味津々。小躍りしながら木のまわりを飛び跳ねます。

「へぇ、それはぜひ見てみたいな。それで、春にはいつなるんだい?」

「そうだな。たぶんあと30回お日様が昇れば春になるだろうな」

「30回かぁ。それは楽しみだなぁ」

 それからと言うもの、雪だるまは毎日はだか桜のもとにやってきては、

「ねぇ、ねぇ。もうそろそろ春になるころかい?」

 と尋ねるようになりました。

 雪だるまに聞かれるたび、はだか桜は答えました。

「まだまだ。あと20回はお日様が昇らなければダメだろうな」

「20回かぁ。楽しみだなぁ」

 やがて静かに冬がおわり、あたたかい春がやってくると、はだか桜はみごとな花を咲かせました。

 鳥や虫や風や太陽や、みんなが満開の桜を祝福します。

「こんにちは、桜さん。少しのあいだ枝を借りてもいいかな? 羽を休めたいんだ」

「やあ、桜さん。いい匂いだね。そのきれいな花を、ここでしばらくながめていてもいいかい?」

 みんなの注目をあびて、桜の木はすっかり得意顔。

 しかし、そんな桜をかこう面々の中に、雪だるまはいませんでした。それもそのはず、春の陽気が雪だるまをあとかたもなくとかしてしまっていたのです。

 そんなことにはまったく気付かない桜の木は、得意になって春の風にはなびらを揺らせていました。はなびらが散り、葉っぱが色づき、木がらしがふたたび雪をはこんでくるまで、桜の木は、雪だるまのことなどきれいさっぱりわすれていました。


 季節はめぐり、ふたたび冬。

 今年も葉っぱ一枚のこっていないさみしげな枝を震わせ、ひっしで北風にたえるはだか桜のところに、元気な雪だるまはやってきました。

「ねぇ、ねぇ。どうしてきみの枝には葉っぱがついていないんだい?」

 前の年とまったく同じ質問に、桜の木はあきれた調子で答えます。

「どうしてって、去年も話しただろう? 春に花を咲かせるために、栄養をたくわえているんだよ」

 雪だるまはとてもおどろきました。そしてまた、前の年とまったく同じ質問をかえします。

「花? きみに? ほんとに、そんなことができるの?」

 前にも話したことなのに、いちいち大げさにおどろく雪だるまを見て、はだか桜は腹を立てました。

「できるさ。きみは見れなかっただろうけど、去年の春も私の花は評判だったんだ。鳥も虫も、みんなわたしの花を見るために、遠くからあつまって来たものだ」

 きびしい冬の寒さのせいで、少し気が立っていたのかもしれません。はだか桜はふんと鼻をならしていじわるく笑いました。

 しかし、はだか桜のいやみも雪だるまには関係ないようです。評判の桜の花を想像して雪空の下を駆けまわります。

「すごいな、それはぜひ見てみたいなぁ。それで、春にはいつなるんだい?」

 はだか桜はため息をつきました。どうやら、雪だるまは前の年のことをおぼえていないようです。

「そうだな。まあ、あと30回お日様が昇れば春になるだろう」

「30回かぁ。それは楽しみだなぁ」

 こうしてまた、雪だるまの挑戦がはじまりました。

 毎日やってきては、

「そろそろ春になるころかい?」

 と、たずねる雪だるまでしたが、春が近づくにつれ元気をなくし、やはり桜の花が咲くころにはすっかりとけてしまっていました。

 桜の木は少しだけざんねんそうに雪どけ水をながめました。毎日毎日、くる日もくる日も、いっしょに春のとうらいを待っていたのです。さみしさを感じてもむりはありません。

 この年の桜の花は、いつもより少しだけ早くちりました。


 やがてまた冬となり、今年もまたはだかとなった桜のところに、雪だるまはやってきました。

「ねぇ、ねぇ。どうしてきみの枝には葉っぱがついていないんだい?」

 またしても同じことをたずねる雪だるまに、はだか桜はまた腹を立てました。

「いいかげんにしてくれ。どうしてって」

 そこまでいって、はだか桜はなぜ雪だるまがしつこく同じことをたずねてくるのかに気付きました。

 雪は毎年、春になると地面にとけて消えてしまいます。そして冬になると、こんどは空の、雲の中から降ってきます。つまり、前の年に降った雪と、今降っている雪と、次の年に降る雪とは、すべてちがう雪なのです。桜の木に葉っぱがついていない理由を話したのは前の年の雪だるまなので、今年の雪だるまがそれを知らないことはあたり前のことなのです。

 はだか桜は考えました。

(なにを話したところで、どうせ次の年にはわすれてしまうのだ。なら、本当のことを話すひつようなんかないじゃないか)

「ねぇ、ねぇ。どうしたんだい?」

 急にだまったはだか桜を心配して、雪だるまはたずねました。

 はだか桜は雪だるまに気付かれないように一瞬だけにやりと笑うと、大きく体をゆらして泣くふりをはじめました。

「どうしたんだい? なにか、かなしいことでもあったのかい?」

「はい。じつは、本当ならわたしの枝にもたくさん葉っぱがつくはずなのですが、病気にかかってしまって。こんなすがたではみんなにバカにされてしまいます。それがかなしくて」

「ああ、やっぱりそうなのか。それは気のどくに」

 はだか桜の嘘泣きに、雪だるまはすっかりだまされたようです。なにかできることはないかと、せわしなくあっちこっちを動き回ります。

「そうだ、いい手があるぞ」

 そうつぶやいて、ふいにうごきをとめた雪だるまは、とつぜん桜の木にのぼりだしました。

「雪だるまくん、なにをする気だ?」

「いいから、少し待っててくれよ」

 首をかしげるはだか桜にほほえむと、雪だるまは枝の先でしきりに体を動かしました。

 するとどうでしょう。葉っぱの一枚もないさびしげな桜の枝に見る見る雪が積もっていき、あっという間にむき出しだったはだか桜を真っ白い雪の花でそめてしまいました。

「どうだい? これなら葉っぱのついていない枝を、見られることもないだろう?」

 雪だるまは木の上から降りると、まんぞくした顔で白い桜を見上げました。

 一方桜は、そんな雪だるまから顔をそらしてしまいました。


「ねぇ、ねぇ。どうしてきみの枝には葉っぱがついていないんだい?」

 次の年も、その次の年も、雪だるまはたずねるでしょう。

 はだか桜は答えます。もう腹を立てることはありません。

「それは冬だからだよ。寒い冬の間は葉っぱをちらせて栄養をたくわえなければいけないんだ」

「栄養をたくわえてどうするんだい?」

「花を咲かせるんだ。春になれば、この枝の先に、りっぱな花が咲くよ」

「花? きみに? ほんとに、そんなことができるの?」

 はだか桜は答えます。もう、うそをつくこともありません。

「ああ、できるんだよ。あと30回、お日様がのぼれば、みんながわたしの花を見にあつまってくるよ」

「30回かぁ、ぜひ見てみたいなぁ。たのしみだなぁ」

 雪だるまが、桜の花を見ることはきっとないでしょう。

 それでも桜は、雪だるまといっしょに春を待ちます。

 そうして、やがて、春の終わりになみだの花をちらせるのです。

〈終わり〉

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