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妄想恋愛叶えます。  作者: CoconaKid
第一話 離婚間際の恋愛ゲーム
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9

 教室の後ろのドアの前で由香がもじもじしていると、トキアはその隣の教室のドアに手をかけ、最後に由香を一瞥して笑顔を見せてさっと入っていってしまった。

 由香もこのままではいられないと勇気を出してドアをスライドさせると、クラス中の視線を一度に浴びた。

 黒板に字を書いていた先生も振り向きながら仕方ないわねという渋々した表情を見せ、また黒板に向いて続きを書き出した。

 由香は先生と目が合ったときに軽く「すみません」と殊勝な態度を見せ、そしてざっと教室を見渡せば、窓際の後ろが一つ開いていた。

 教室の真ん中辺りに座っていたリッキーが振り返って愛想良く笑顔を浮かべると、由香は少しだけほっとして、空いている席へと向かった。

 窓からは運動場が見え、体育の授業が見渡せた。

 字を書き終わった先生が、黒板に書いた事を説明し出し、昔もこんな状況だったと高校生の時を懐かしく感じてしまう反面、自分の高校は女子高だったので、 共学という新鮮さも充分味わえて由香は再び青春をやり直せることに、例えこれが夢だったとしてもなんだか新鮮な気分だった。

 授業は卒なく、先生のワンマンショーとなり、ただ座ってるだけで何も困ることはなかった。

 チャイムが鳴り響き、四時間目が終わると、次は昼食の時間となった。

 お弁当は母親に作ってもらっていたので、それを鞄から取り出すと、二人の女の子がイスを持って由香に近づいてきた。

 由香の机の上にお弁当を置いて親しげに語り出した。

「由香、一体どうしたの? 思いっきり遅刻してさ」

「そうよ、私も、久美子も心配したよ」

「ご、ごめん」

 とりあえず合わせてみた。

 そして二人を観察してみる。

 ストレートの髪の長い子はどうやら久美子というらしい。もう一人のメガネをかけた子の名前がまだ分からないので、様子をみていたが、すぐに名前がわかった。

「早苗がさ、事故にでもあったんじゃないかっていうからさ、ほんとそんな気に思えてきておろおろする始末だったんだから」

 由香のことをここまで心配してくれるということで、どうやら二人は仲のいい友達のようだった。

 自分の勘を頼りに、ここでもこの流れに乗ってみた。

「久美子も早苗も大げさなんだから。だけど心配してくれてありがとうね」

 由香の笑顔で二人は満足げに笑っていた。

 この二人のお陰で、教室にいても心強く感じ、残りの授業も机に向かって座ってるだけでなんなく終わった。

 放課後、由香が帰り支度をしてると、久美子と早苗がどこかへ寄り道しようと誘ってきた。

 それもいいかなと流れで承諾しそうになったが、ふと下駄箱に入れられていた手紙を思い出し、佐々木敦からの誘いを思い出した。

 こうなればその人にも会ってみたくなる。

 警戒心を持ちながらも、すっかりとこの世界の男性との出会いにも期待しているところがある。

 由香は久美子と早苗に用事がある事を伝え、申し訳ないとぺこぺこ謝った。

 二人は詮索することもなく、優しい眼差しを由香に向け「しょうがないな」「それじゃまた今度ね」とそれぞれ明るく受け答えして、先に教室から出て行った。

 去っていく二人の後姿を見つめ、まさにいい友達そのものだと女付き合いにも満足感を得ていた。

 由香が教科書を鞄に詰め込んでいると、もじもじとしてリッキーが声を掛けてきた。

「よぉ、由香ちゃん。今から帰り? よかったら一緒に帰らないか?」

「えっ、あっ、その、今日はちょっと用事が……」

 といいかけたとき、住吉先生がリッキーの名前を大声で呼んだ。

「おい、戸上! お前、ちょっとこい。このふざけた答案はなんだ」

「ヤベー」

 リッキーがうな垂れて住吉先生に近づくと、お説教が始まった。

 聞きたくもないとリッキーは目線を合わせずにふてくされていると、その間に住吉先生は由香に帰れと首を横に振り、顎を出口に向けるようにして合図していた。

 住吉先生も由香に近づくものは排除したい思いがあるようだった。

 由香は戸惑いながらもそっと教室を出て行く。

 リッキーが振り返りその様子を伺ったとき、また住吉先生の声が教室内で響いていた。

 先生の立場で、一女生徒を女として露骨に見ているのも、ゲームの世界では不思議ではない。

 ましてや、禁断の恋とでも言うべきスリリングさがあり、いけないながらも魅力的に映ってしまう。

「もうなんでもありなんだろう」

 ふとそんな声が漏れていた。

 そうして、足は手紙に書かれてあった体育館の裏へと向かう。

 大きな建物なので、その場所はすぐに判別できた。

 こういう場所は人気のない場所と決まってるので、何か秘密めいた雰囲気がしては少しドキドキしていた。

 生徒会長の佐々木敦とはどういう人物なのだろうか。

 足が体育館の裏にさしかかると、そこには精悍で真面目な雰囲気のする男の子が立っていた。

 由香を見るなり、嬉しそうに笑みを浮かべて走り寄ってくる。

「神谷さん、本当に来てくれたんですね。嬉しいです」

 少し照れてやさしく語るその声は穏やかな性格を強調しているようで、強張っていた肩の力が抜けてリラックスできた。

 今まで登場した男の子達のアプローチを考慮して、由香は落ち着いて対応する。

「あの、一体どういう御用でしょうか?」

「いや、その、実は」

 敦の方が上がってしまい頬を少し赤らめてドギマギとしている。

「突然、本当にすみませんでした。その、今日は占いで行動あるのみってあったので、ついそれに従ってしまって」

「はい?」

 要点をなさない言い方だが、それが却って真面目そうな雰囲気が漂う。

「ご、ごめんなさい。その、神谷さんと一度話してみたくて、勇気を振り絞ったってことなんです」

 やはり敦も自分に気がある。

 背筋が伸びているが、さらに体が硬直してピンとまっすぐになってる様はきっちりと向き合いたいと一生懸命さが伝わってきた。

 やや目が少したれ目だが、それは愛嬌がありまだ子供っぽさがあどけなく残る可愛い感じの男の子だった。

 生徒会長を務めるくらい、頭も良さそうである。

 ただ一点、恋に関しては慣れてないためにぎこちない。

 38歳の由香には、敦がかわいらしく見え、恋に慣れているちゃらちゃらした男よりもずっと胸キュンさせてくれてよかった。

 不意に母親のような笑みを漏らすと、敦ははっとしたように余計に焦っていた。

「由香さんて、こんな近くで見るとどこか大人っぽい表情をしているんですね。僕なんかとても子供じみてなんか恥ずかしいです。つい占いなんか頼ってこんな無茶な事をしてしまいましたが、迷惑なことしてごめんなさい」

「そんなことないです。佐々木君って面白い方なんですね。なんだか楽しい気分にさせてくれるようで、決して迷惑じゃないです」

 その言葉を聞いて安心したのか、敦は頬を緩めて笑っていた。

 このシチュエーションも由香を大いに楽しませていた。

 一緒になって笑っていると、そこに住吉先生が見回りを装ってやってきた。

 敦からの手紙を見てたので、ここに二人がいる事を承知してのことだった。

「おい、佐々木、こんなところに神谷を呼び出して何をしているんだ」

「あっ、先生、べ、別に僕は何もやましい事は」

「何もそんなこと聞いてないだろう。という事は下心もって、神谷に会っていたのか。神谷、大丈夫か?」

「はい、別に何も、そのただ話してただけで」

 先生であるのに、嫉妬心も入り乱れたその言い方に由香は驚きながらも、これもありなんだと受け入れる癖がついていた。

 先生も大人の魅力で捨てがたい。

 職も安定してこの先の生活を考えたら一番結婚に相応しいのではと思えてくる。

 年上で常に可愛がって大切にされることだろう。

 まるで他人事のように、そんな事を考える余裕まででてきてしまった。

 暫く住吉先生と敦のやり取りを見ていると、今度はリッキーが入り込んできた。

「あっ、由香ちゃんじゃないか。なんで住吉先生と佐々木が一緒にいるんだよ」

「お前こそ、何しにきたんだ」

 またややこしいのがきたと住吉先生はリッキーを睨んだ。

「お説教の後、先生が一目散に体育館の裏に行くから不思議に思って後をつけてきたんだよ」

「勝手についてくるな」

「だけど、なぜ生徒会長の佐々木がいるんだよ」

「こいつ、神谷にラブレターなんか出して呼び出してたんだ。それで、先生としては心配で見回りしてたんだ」

「えっ、佐々木が由香ちゃんにラブレター? どういうことだよ」

 リッキーは競争心が芽生えるように敦に視線をやった。

「ら、ラブレターって、そんなものじゃ。ただ神谷さんと話をしてみたくて」

「そこに気持ちが入ってたら、ラブレターなんだよ」

 リッキーはとうとうライバル認定してしまった。

 こういうゴタゴタに慣れてない敦は動揺していたが、由香が心配そうな目を向けているのを知って、背筋をこの上なく伸ばした。

 生徒会長であるプライドがそこに盛り込まれ、リッキーにキリッとした目を向けた。

 二人は見つめ合い火花を散らしている様子だった。

「二人ともよさないか。もういい。下校の時間だ。さっさと帰りなさい」

 リッキーも敦も不服そうに舌打ちを微かに鳴らした。

 二人が歩き出すと由香もその後をついていこうとするが、住吉先生が呼び止めた。

「神谷、ちょっといいか。今日遅れた理由、そういえばはっきり聞いてなかった」

 由香の足が止まった。

 リッキーと敦は振り返り、名残惜しそうに由香に一瞥を投げながら、先生に呼び止められたら仕方がないと諦めて去って行った。

 彼らの後姿が見えなくなると、邪魔者がすっかりいなくなった安堵で、住吉はふーっと息を漏らして落ち着きを払った。

「神谷ももてるな。私は心配で仕方がないよ。まあ、その、アレだ。生徒を守るという意味でだ」

 教師という立場から、気持ちをはっきりと表ざたにできないもどかしさが、見繕った笑顔から読み取れる。

 由香は禁断の恋にどこかスリリングさを感じ、この状況も素直にドキドキして楽しかった。

「先生、ご心配かけてすみませんでした。あの遅刻も、そのちょっと色々とありまして。でももう大丈夫です」

「そっか、無理には聞かないけど、もし私に力になれる事があるなら、遠慮なく相談してくれ」

「ありがとうございます。先生は本当に優しいんですね」

「いや、どうしても神谷を見てると放っておけないというのか……」

 住吉先生に真剣な眼差しを向けられて、由香はそこに頼もしい男としての魅力を感じていた。

 暫く見詰め合っているとき、水を掛けられたように突然声がして目を覚まさせられた。

「おい、先生が生徒と体育館の裏で何やってんだよ」

 それは朝、傷の手当てをしてくれた片山秀介だった。

「なんだ、片山か。お前こそここで何をしているんだ」

「俺は迷い込んだボールを探していただけだ」

「私も学校の見回りで仕事に決まってるだろ」

「さっき、用事を頼みたいのに姿が見えないって他の先生が住吉先生を探してたぜ」

 住吉先生は、心当たりがあるのか仕方がないと渋々な表情になった。

「神谷、ほら、さっさと帰れよ。それじゃな」

 秀介から引き離したいが、怪しげな目つきを向けられると平常心を装うので精一杯で、住吉先生は仕方がなく校舎へと向かって行った。

 由香は一礼をして、住吉先生を見送った。

 そして自分も帰ろうとしたときだった、秀介が突然手を取って引きとめた。

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