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一人百物語

うろちょろ

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/18


以前弟が友人たちと映画を観に行った時の事。

弟たちはスクリーンから5、6列目あたりの席に座っていた。

上映開始のブザーが鳴り、館内が暗くなって本編前のコマーシャルや次作映画の予告などがスクリーンに映し出された。

と、そのスクリーン手前の、客席の最前列あたりを、小学低学年くらいの小さな影がうろちょろとしていた。

男の子か女の子かはわからないが、弟はその影に、誰かが連れて来た小さい子供がウロウロしてるんだろう、迷惑だなと思った。

弟が見ている中、小さな影は絶えずあたりを動き回り、そのうち観客の一人によじ登って、肩車までしはじめた。

「なんだ、あの子…」

その様子に弟は文句を言おうとした。

が、隣りに座っている友人たちはそんな事などまるで見えていないかの様に、スクリーンに見入っていた。

「?」

友人の様子に、弟は再びスクリーン前で動き回っている影を見た。

小さな影はやはりあちこちをうろちょろとしていて、今度は観客の一人の膝の上に乗り、ぴょんぴょんと飛び跳ねだした。

「……」

スクリーン前にいるのがみなその子の親や知り合いだったとしても。

映画を観ている時にそんな事をされれば、注意くらいはするだろう。しかし、スクリーン前の人たちはどの人もそういった事をしようとはせず、ただスクリーンに見入っている様だった。

(うーわ、これって…)

弟は思った。

小さな影は本編が始まっても、客席の右端あたりに走って行ったかと思うや、すぐに左端から現れたりしていた。

その日、弟は映画に集中する事が出来なかった。


しばらくしてからまたその映画館に行ったが、その日は小さな影は現れなかった。



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