『秘密の三至高と、深淵の万華鏡』
【神界・第4観測ルーム(定時後)】
誰もいなくなったルーム内。
いつもならレイとセツに連れ出されるミルルが、今日に限っては「我が魔力の充填を行いますの」とすました顔で言い張り、一人居残っていた。
ミルルは自席のデバイスの裏メニューを、お兄ちゃん譲りの超優秀な技術でハックする。
(心の声:よし、みんな行ったわね。ふふ、お待たせいたしましたわ、お姉様方……!)
画面に表示されたのは、本来の担当ではない、偶然見つけてしまった禁断の世界線。
そこは、ミルルが悪役令嬢にかぶれる原因となった、神すら超える力を持つ『チート級悪役令嬢が3人いる世界』だった。
【画面の裏側(ミルルの推し活画面)】
豪華なパーティー会場。息を呑むほど美しい3人の悪役令嬢が、静かに火花を散らすように対峙している。
「お待ちなさいな。あなたのような人とドレスの柄が被るなんて、本当に不愉快ですわ」
一人の令嬢が黒レースの扇子で上品に口元を隠し、冷たく、しかしどこまでも優雅に言い放つ。
それを見たミルルは、自席で自分の扇子をバッと広げ、うっとりと身悶えした。
「ああ……っ! お美しいですわ、お姉様……! あの完璧な気高さ、一挙手一投足の優雅さ、やっぱり悪役令嬢って最高の存在……!」
(心の声:あの扇子の角度、お上品で尊すぎる……! 明日から絶対真似しよ!!)
ミルルは本気で恐れていた。彼女たちの放つオーラはあまりに圧倒的で、もし何かの拍子にこの「盗み見」がバレて敵に回したら、神である自分すら一瞬で消し飛ばされるのではないか、と。
──その時だった。
画面の向こうで冷たいセリフを吐いていた令嬢が、ふと、扇子の影から「画面(ミルルの視点)」の向こう側を、まっすぐに射抜くような視線を向けた気がした。
「え……っ!?」
ミルルは思わず息を呑み、自席でガタッと身を引いた。
神を超える存在の、冷たくも圧倒的な眼差し。次元の壁を越えて、自分の魂まで見透かされたかのような、心臓が跳ね上がるほどの緊迫感。
しかし次の瞬間、令嬢は何事もなかったかのように視線を外し、周りの人たちの目が離れた隙に、他の2人の令嬢とこっそり手を繋いで嬉そうにクスッと微笑み合った。
ミルルは自分の胸を押さえ、激しく脈打つ鼓動を落ち着かせながら、冷や汗を拭う。
(心の声:い、今、一瞬コチラを見たような……。……き、気のせい……だよね……?)
恐怖で一瞬硬直したものの、画面の向こうの3人が織りなす「表向きは不仲、裏では最高の仲良し」という尊い光景に、ミルルの瞳はすぐにまた優しく緩んでいくのだった。
その時、自動ドアがガラッと開いた。
「ミルルちゃん、購買のアイスいちご味売り切れそうだよー!」
レイとセツが息を切らせて戻ってきた。
「ひゃああっ!?」
ミルルは飛び上がり、超スピードで裏画面を「あー、はいはい、ポチッとな」と秒速で閉じた。あまりの動揺に、縦ロールが激しく弾んでいる。
「な、何をお騒ぎになっていらっしゃいますの、あなたたち?」
(心の声:びっくりしたー! 心臓止まるかと思った!!)
「えー、だってミルルちゃん置いてったら寂しいじゃん」
レイとセツが両側から当たり前のように腕を絡めてくる。
ミルルは真っ赤になりながらも、さっきの圧倒的な令嬢たちを思い浮かべ、ツンと扇子を構えた。
「仕方ありませんわね……。この私が、同行して差し上げますわ」
(心の声:ふふ。お姉様方には全然届かないけど……私だって、最高の2人に囲まれてるんだからね)
最強のチート令嬢たちにハラハラドキドキしながら憧れる見習い神は、大好きな友人たちに引っ張られ、今日も嬉しそうに放課後の廊下を歩いていくのだった。




