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08. ルークとの手合わせ


「審判は私が務めるわ。では、これよりルークとイリスの手合わせを始める。ルールは単純よ、どちらか一方が降参するか気絶したら勝者が決まるわ。両者位置につきなさい。…始め!」


 審判のレイリンの合図と同時に早速爆炎を容赦なくルークにぶつける。途中で大人たちが会議を終えて庭園に来て私たちがいないことに気づかれたら面倒だし、強力な属性魔法でさっさとカタをつけようと思ったのだが。


「なんだ、こんなものか?エイプリルの天才魔法使いも大したことないな。」

「!」


 ルークの前にブラックホールのようなものが現れ、私の魔法を全て吸収したようだった。これは“闇属性”の魔法の一つで、どんな魔法でも“無”に返すまさしくブラックホールのようなものだ。

 昔読んだことがある“闇属性”に関する魔導書では、ブラックホールの吸収限界まで魔法を放つことしか突破口がないとされていた。


「(ここは魔導書通りブラックホールの吸収限界まで爆炎を連発しておく?体を冷やすことができる私になら可能だけど、それは正直疲れるし庭の木に燃え移りでもしたら困るわね…)」

「来ないなら俺からも攻撃させてもらうぞ!」


 体がぐんと重くなる。通常魔法でも体の機能を落とす魔法はあるが、ここまで顕著に影響が出るのは属性魔法の方だろう。間髪入れずに一般攻撃魔法でが襲ってきたので、それをすんでのところで躱す。

 うーん、爆炎じゃなくて熱風にすればいいのか?兄以外の“属性持ち”とは今世では初めての対決だし、せっかくだから属性魔法で戦いたいんだけど…あぁなんか考えるのが面倒臭くなってきた、もうアヴリルの時と同じ攻略の仕方でいいか。


「降参するならここまでに…って、はぁ?!」

「降参するならここまでにしてあげるわ。」


 ルークのブラックホールは跡形もなく姿を消していた。「あ、台詞取っちゃった。ごめんね。」と付け足すとルークは顔をはくはくとさせて動揺を隠せていない。


「お、お前、どうやって…!」

「友達でもなんでもない赤の他人に教えてやる義理はないけど?」

「くっ…分かった、俺の負けだ。友達になってやるからどうやったのか教えろ。」

「うわ、高慢。」


 けどまぁ結果的に友達になれたしいいか、と思い私がやったことを教えてあげることにした。観戦していた兄たちもいつの間にか近くで私の話に耳を傾けている。


「単純なことだよ。過去に戻す魔法と魔法を無効化する魔法を組み合わせて使っただけ。」

「無効化魔法は分かるけど、過去に戻す魔法って何だよ?!そもそも無効化魔法の方だって通常魔法だろ?効力は大したことなかったはずだ、属性魔法を打ち消せるなんて有り得ない!」

「一つずつ答えるから落ち着いてって。まず過去に戻す魔法だけど、文字通り少し前に時間を戻すことができるの。とは言っても本当に少しだけだし適用範囲は小さいんだけどね。それと無効化魔法の効力が弱いのは当たってるわ。」

「つまり無効化魔法単体だと属性魔法を無効化するなんて到底無理だけど、その属性魔法が発動した瞬間に時を戻して使えば例え属性魔法でも打ち消せる仕掛けってことだ。」

「そう!さすがお兄様。」

「まぁ俺は何回か食らったことあるからな…」


 イヴァンジェリンだった頃の通常魔法の腕を取り戻すために、何回か訓練中兄に試したことがある。その時のことを言っているんだろう。


「そんなことが可能なの?少しとはいえ過去に戻す魔法なんて通常魔法の中でも相当上位で特殊なものなんじゃない?」

「はい、消耗が激しいので当然連発はできませんがとても便利ですよ。良ければ教えましょうか?」

「えっ本当に?!」


 レイリンはパッと顔を輝かせて喜んだ。教えるにしてもずっと裏庭にいるわけにいかないので、庭園に戻って魔力の練り方を教える。


「こう…対象物の周りの空気を感じて、その一つ一つに宿る魔力を捉えたらそのまま…」


 いつの間にか兄以外の三人が私の教えの通りに折れた枝を前に奮闘していた。しかし誰も一向にできる兆しが見えない。過去にあのアヴリルもできなかったことだしやっぱり難しかっただろうか?


「っ俺は無理!!何だよ空気の一つ一つって!無理に決まってんだろーが!!」

「…クソ」

「…さすがにこれは私も無理だわ。こんなことができるなんてやっぱりイリス公女は紛うことなき天才ね。」

「これは認めざるを得ねーか…」

「まぁこれはできなくてもしょうがない、俺も前教えてもらったけどできなかったし。」

「っ俺はできるまで諦めないからな!おいお前、友達なんだからもっとちゃんと教えろ!」

「そんな無茶な…」

「あっずるいわ!私も友達なんだしもっと色んな魔法教えてちょうだいね!」

「姉上!そんなずっと年下のガキに教えてもらって恥ずかしくねーのかよ?!」

「うるさいわね、そんなわけないでしょ!イリス公女は魔法使いとしては大先輩よ!」


 そこまで言って、思い出したようにレイリンは手を叩いた。


「そういえば十二歳になったらイリス公女とルーク公子もアカデミーに入るのよね?やっぱりアストル?」

「はい、まぁ。」

「私も多分。」


 総合アカデミー“アストル”は、世界で一番と言われている教育機関だ。今世の私が住んでいるロチェスター帝国の首都ライオネルにあり、世界各地から将来有望な若者たちが集まってくる。皇族や王族、高位貴族もいれば、入学試験を突破できる実力さえあれば平民だって入学することが可能らしい。


「やだ、そしたら楽しみだわ!私はその頃二十だからきっと教授になってるわね!」

「教授?レイリン公女は教授になるんですか?」

「ええ、私こう見えて魔法薬学が得意なの。卒業したら魔法薬学の教授としてアストルで働くことが夢なのよ。」


 強い魔法使い…それも名門ラファーガ公爵家の“属性持ち”の魔法使いなら尚更、魔法使いとして生きるなら“魔法協会”に勤めるのが一般的だ。

 魔法協会はエリート揃いなため競争率は高いが、レイリン程の魔法使いであれば恐らく余裕だろう。それなのにあえてその道を選ばず教授になるのが夢だとはかなり珍しいケースだ。


「父上には『魔法協会に勤めて時が来たら家門の為に結婚しなさい。』って反対されてたけどな。」

「ふん、それが何だって言うのよ。私の人生なんだから好きにさせてもらうわ。」


 将来、将来かぁ。今のところ私は大魔法使いになるのが目標だけど、それも何となくって感じでパッとしないんだよな。いつかレイリンみたいに本気になれる夢ができると良いけど。

 まぁまだ私は七歳でしかないし、十二歳になってアストルに行けば何か見つかるでしょ。それまでは自由気ままに過ごすことにしようっと。結構時間あるししばらくは魔法の訓練とか好きなことをして気楽に過ごせそうだ。


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