06. 三大公爵家会合
ということで、私が祖母の剣幕に逆らえるわけもなくその日はやってきた。
「ごきげんよう、エイプリル公爵家のセザール公子様、イリス公女様。」
「いやはやセザール公子はまた背が伸びて凛々しさに磨きがかかりましたな。アストルでも大変成績優秀だと噂は耳にしております。」
「イリス公女様も更にお美しくなられて!魔法の訓練は今も続けておられるのかしら?」
“三大公爵家会合”は、年に一度必ず催される会合のことだ。帝国に三つしかない公爵家が集まり、大人たちは会議を、子供たちは適当に遊んで親睦を深める。私の苦手な社交の場というわけだ。
三歳頃からこの会合に参加しているが、その度に私は気立てがよく礼儀正しい兄の後ろに隠れてやりすごしていた。しかしやっぱり祖母とのこともあったしいつまでも嫌なことから逃げてばかりじゃいけない。挨拶してきた大人たちに笑顔を作り、習った通りの言葉を言うと大層驚かれた。
え、確かにこれまで社会不適合者みたいな態度取ってた自覚はあるけどそんな驚く?
「それじゃ私たちは会議を始めるから貴方達は庭園で遊んでいらっしゃい。」
「この面子で未来の帝国を背負うことになるのだから、しっかり親交を深めるように。」
こうして毎度の如く庭園に放たれた。今この場にいるのは私と兄を合わせて五人。もう参加し始めて五回目になる会合なので、この後どうなるか成り行きは大体分かる。
多分そろそろ彼が騒ぎ出す頃…。
「おうおうセザール!久しいなぁ、相変わらず女みたいな顔してやがる!」
「ユーイン」
兄を目の敵にして毎回毎回懲りずに突っかかってくるユーイン・ジェフ・ラファーガ。“風属性”を持つラファーガ公爵家の嫡子で兄と同い年の十二歳。
にしても毎度毎度よく飽きないな。兄と同じアカデミーに通っているらしいしそんなに久しぶりでもないだろうに。
「教授たちにも魔法戦士だなんて言われていい気になってるだろうが調子に乗んなよ!」
「別に乗ってないけど。」
「はっよく言うぜ、女からチヤホヤされて鼻の下伸ばしてる癖に!見たぜ、お前神官科のクラーラから告られてただろ!どうせ付き合ったんだろ、ケッ、お前みたいないけ好かない奴は女とイチャコラしてんのがお似合いだぜ」
「いや普通に断った。」
「ほらみろ…って、はぁ?!おま、クラーラだぞ?!神官科で一番の器量良しだろうが、何で断ったんだよ!」
「何でって今はそういうの興味ないから…」
それに俺の妹の方が可愛いだろ?と言って後ろに隠れていた私を引っ張りユーインの前にずいと押し出す。ユーインはいくら嫌いな奴の妹が相手とはいえ、さすがに女の子には強く出られないらしく一瞬怯んだ。
「いくら将来有望だからってまだガキじゃねぇか!こんなちんちくり」
「こらユーイン!!さっきから黙って聞いてたら失礼なことばっかり!さっさと謝りなさい!」
「痛ぇっ!あ、姉上!」
「ごめんなさいねセザール公子。このバカ…失礼、弟は少しばかり嫉妬深くてね。本当は公子と仲良くしたいのよ。」
「レイリン公女、僕は大丈夫ですからお気になさらず。」
ユーインの三つ上のラファーガ公爵家の公女、レイリン・ジェフ・ラファーガは強力な“風属性”の魔力を持つことで有名だ。気も強く、ユーインが兄に突っかかった時は大体こうして彼女が解決してくれるので助かる。
「イリス公女もごめんなさい。この子ったら声が大きいし騒がしいからびっくりしたでしょう。」
「いえ別に…。」
いつものように適当に返答してそのまま再び兄の後ろに隠れようとしたが、危ない危ない、これからは最低限の社交活動は大切にすると決めたばかりじゃないか。気を取り直してレイリンに向き合った。
「そ、その…あの…。」
「ん?何かしら?」
「…私と友達になってくれませんか?」
私がそう言った途端、その場の時が止まった。兄もユーインもレイリンも、ぽかんとした顔をして私を見ている。
レイリンはアカデミーの実力者でラファーガ公爵家の令嬢。友達になっておいて損は無いし仲良くしておきたい相手だと思ってそう言ったのだが…、ちょっと早すぎたか?私は前世からコミュ障っぽい所があるし人との距離感がイマイチ掴めない。
断られたらどうしよう、まぁその時はその時かなんて考えていると、じきにレイリンは数回瞬きをしてそこから大きな声で笑いだした。
「ふふ、アハハハ!なんて可愛いのかしら、お友達と言うより妹ができた気分だわ。にしてもこの私を友達に選ぶなんて見る目があるわね!」
「お、お前…姉上と友達なんて、悪いことは言わねぇからやめとけ!」
「あらそれどういう意味?」
「ヒッ!」
ユーインがレイリンにボコされているのを横目に兄が「いきなり友達なんてどうしたんだ?まさかお祖母様とのことで?」とヒソヒソ話しかけてきた。
「うん、私にはまず友達が必要だと思ったの。」
「それは良いけど、そうだな…イリスの友達の第一号がレイリン公女か…ちょっとハードルが高いんじゃないか?」
「私は構わないわよ?…あ、そうねぇ、でも確かに同い年の友達がいた方がいいわね。じゃあ私となる前にルーク公子とお友達になったらどうかしら?」
レイリンが近くの木陰に視線をやった。此方の様子を少しも気に止めず黙々と魔導書を読んでいる黒髪の少年が木に背を預けて腰掛けている。瞳はアメジストのような紫色だ。
彼とは初対面の時に挨拶を交わした程度の関係で、会合の時も毎回一人で魔導書を読んでいるような人なのでほとんど話したこともないが、レイリンと友達になるのに必要なことなら仕方あるまい。
兄が心配そうに私を見たが、私はずんずん彼の方に足を進め、前に立った。私の存在に気づいているだろうに一向に顔を上げる気配はない。
「ルーク公子」
「…」
「…ルーク・アヴリル・シメリアン公子」
「………」
「ちょっと聞いてんの?人をガン無視なんていい度胸じゃない」
「………はぁ、うるさいな。何だよ。」
「単刀直入に言うわ。私と友達になって。」
「嫌だ。」
「…」
な、なんと。この誘いを断られるとは…前世合わせても初めての経験だ、レイリン入れてまだ二回目だけど。
「何で?いいじゃない、別に減るものじゃないんだから。」
「…お前今日はやけに面倒臭いな。今までは兄の後ろに隠れてコソコソしてただけなのに。」
「心境の変化があったの。社交活動もある程度はちゃんとしようと思ってね。貴方も必要最低限のことくらいはした方がいいわよ。」
「余計なお世話だ。俺は誰とも馴れ合うつもりはない。分かったらとっとと失せろ。」
ん?何だか聞き覚えのある台詞だな。
『あたしは誰とも馴れ合うつもりはないわ。分かったらとっとと失せなさいよ。』
…あ、思い出した。黒髪に紫色の瞳…何か見た目にも既視感があると思ったらルークは旅の途中に出会った少女に似ているんだ。




