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04. 公爵令嬢としての役目


「なんて愛らしいんでしょう!まるで火の精霊のようだわ、イリスは赤が本当に似合うのね!」

「…」


 私は一体何をさせられているんだろうか。

 祖母の部屋に連れてこられたと思ったら少ししてデザイナーらしい中年の上品な女性と共に大量のドレスやら靴やらアクセサリーやらが運び込まれ、私はすっかり着せ替え人形と化していた。


「カミラ様、私長くこの仕事をやっておりますが、公女様ほどコーディネートしがいのある令嬢は初めてですわ!!」

「そうでしょうそうでしょう!少しも手を加えていなくてこの年でこの美貌なのよ。セザールもだけど、本当に母親に似てくれて良かったわ!」

「公女様は将来絶世の美女になるに違いありません、本当に普段機能性重視のシンプルなドレスばかりお召しになっているのが実に勿体ない!」


 黙って二人の話を聞いているとどうやらこの女性デザイナーは帝国一の女性人気を誇るブティック『ベル』のオーナーで、祖母が令嬢時代からの専属デザイナーらしいことが分かった。前々から祖母は彼女に私のコーディネートを頼みたかったのだとか。


「赤もお似合いですが、この青のドレスなんてどうでしょう?流行りの型ですし公女様の赤の瞳とのコントラストが素晴らしいかと!」

「はあ…」

「イリス、きっちり聞いておきなさい。社交界で確固たる地位を築くのに流行を知ることは欠かせないのよ。」

「別に私は社交界に興味なんてありませんし…」


 祖母…カミラ・ルーン・エイプリルは、元社交界の花として一時は社交界にて当時の皇后を差し置き、女性の頂点に君臨していた。

 キリッとした美しい容姿に加えて教養、品性、公爵夫人という地位を兼ね備えた祖母を人々は“淑女の中の淑女”と賞賛する。まさに女性の鏡のような女性だが、同時に私の対極に位置するような女性でもある。

 私は魔法以外の何物にも興味はない。家のために結婚する覚悟はあるが変愛をしようとは思わないし、社交に関してだって公爵令嬢として必要最低限のこと以外は全くするつもりはない。


「あのねイリス、女性の幸せは何だか分かる?」

「…」

「…良い結婚をして良い家庭を築くことよ。いつだって男性が求めるのは淑女として完璧な女性、そうなるために社交活動や自分磨きは欠かせないわ。貴女は私にとって大切な孫だから、しっかり幸せを手にして欲しいの。」

「女性の幸せが私の幸せとは限りません。…この際だからはっきりいいますが、私に花嫁修業を強要するのはおやめください。私は魔法使いとしての道を極めたいのです。なので訓練中に邪魔をされるのは正直とても迷惑です。」


 ここまで言えば引き下がるだろうと思ったが、意外に祖母は頑固だった。


「貴女まさか…大魔法使いになろうだなんて言うんじゃないでしょうね?」

「だったら何なのですか?お父様もお母様もお兄様も、世間だって私は大魔法使いになる天才だと言います。」

「貴女のためを思って言うわ、そんな夢を見るのは今すぐやめなさい。どうせ叶えられなくて痛い目を見るのは自分なのよ。」

「これは私の問題です。お祖母様にとやかく言われる筋合いはありません!」

「あっ待ちなさい、イリス!」


 どうしても大魔法使いになりたいと思っていた訳ではないけど、イヴァンジェリンとしての過去と今世の圧倒的な才能から私は漠然と大魔法使いになるんだと思って生きてきた。そしてそれを周りの人間は皆肯定していて。

 だから生まれて初めて否定されて悲しみと怒りが混ざったような気持ちになり、いたたまれなくなって走って部屋を飛び出した。


「寒…」


 前世よりも今世の方がのびのびと恵まれた環境で育っているからか、どうにも昔よりも良く言えば情緒が豊かで悪く言えば感情の起伏が激しい。

 感情に任せて行動したせいで肌着のまま部屋を出てきてしまったようだ。寒いしこの格好を祖母に見つかったら怒られそうだ。


「(…ていうか、最近ふらっと帰ってきた人に何でいきなり説教とかされなきゃならないの?花嫁修業だって私はしたくないのに強要してくるし、訓練の邪魔はするし、大魔法使いになれるわけないって決めつけるし。)」


 思い出したら段々腹が立ってきた。火を指先に灯して暖を取りながらどうやって祖母に見つからないように自分の部屋に戻ろうか思案していると、近くでガサガサと物音がした。


「イリス?こんな所でどうした?って、何でそんな格好を?!」


 父上が見たら卒倒しそうだな…と言いつつ現れたのは兄だった。


「お兄様…」

「またお祖母様に何か言われたのか?兄様に話してごらん。」


 兄は私に自分が着ていた上着をかけて隣に腰掛けた。兄は今年からアカデミーに入学して寮に入ってしまったので、幼い頃と比べて一緒に過ごす時間は減ってしまった。

 今日は久しぶりに兄が帰省してきた日だったし祖母に邪魔されなければずっと一緒に訓練していたのに。考えれば考えるほどムカついてきて、私は愚痴を言うような感じで兄との訓練後にあったことを話した。


「なるほど…確かにそれは嫌だったな。でも侍女たちを庇ったイリスは偉いよ。」

「ん…」


 よしよしと頭を撫でられるとつい毒気を抜かれてしまう。その勢いでつい祖母への苛立ちも収まってしまいそうだったので慌てて頭を振った。


「でもお祖母様がイリスを心配してるって言うのは本当だと思う。」

「…何でそう思うの?」

「お祖母様は令嬢時代、魔法使いたちの間で知らない者は居ないほどの実力者だったらしい。若くして仙級魔法使いにまで登り詰めたとか。」

「お、お祖母様が?」


 イヴァンジェリンだった頃からざっと百年は経過しているであろう今世では、あの頃と比べ物にならないほどこの世界は成長を遂げている。食事も生活環境も衣服も、医療だって信じられないほど発展した。私がこの世界の技術の進歩を目の当たりにした時ドギマギしたくらい。

 そしてそれは魔法の面においても同様のことが言える。魔法技術はさることながら、今は魔法や魔法使いに関することを統括する“魔法協会”なるものが設立され、それに伴い“階級”も存在する。

 “階級”は全部で実力ごとに五段階に分けられる。なりたての新入りが“下級”、大部分を占める“中級”、一部の実力者である“上級”、ひと握りの天才がなれる“仙級”、そして全てを極め真理を追求した“神級”。

 戦士、魔法使い、神官どの役職でもほとんどが中級、一生をかけてその道を極めても上級が限界だと言われている。それを祖母は令嬢時代に仙級まで登り詰めただと?


「そんな、それなら尚更分かんないよ。なんで仙級魔法使いのお祖母様が私に魔法使いとしての道を極めることを否定するのか…」

「お祖母様は、俺が四歳の時にお祖父様が亡くなってから最近まで田舎の別荘で療養していただろ?だから俺もばらく会ってなかったし、詳しくは分からないけど。」


 兄がまだ三歳の頃、お祖母様から『越えられない壁にぶつかったとしても、お前は決して私のように諦めてはいけないよ。エイプリル公爵家の跡取りであるセザールにはその権利も義務もあるのだから。』と言われたことがあるらしい。


「いつも優しいお祖母様がその時ばかりはすごく真剣な声だったから記憶に残ってるんだ。」

「お祖母様はお兄様にはいつも甘々だものね。」


 私にはいつもいつも花嫁修業だ淑女だと口煩く言ってくるというのに。


「そんなことないって。イリスに厳しく色々言うのは多分お祖母様なりにイリスのことを思いやってのことなんだと思う。お祖母様は魔法使いとしての仕事をやめた後、結婚とか社交界とかですごく苦労したらしいから。」

「嘘、だってお祖母様は以前社交界の花だったんでしょ。」

「それは結婚後公爵夫人になってからの話。その前はずっと魔法三昧だったし仙級魔法使いとして有名だったから、社交界じゃ嫁の貰い手がないだとかじゃじゃ馬だとか散々言われてたらしい。」


 そうなの…?淑女として完璧で結婚相手なんて引く手あまたでしたなんて雰囲気のお祖母様が?


「だからまぁ…俺が考えるにお祖母様はイリスに自分みたいになって欲しくないんだと思う。可愛い孫に自分と同じ苦労をかけたくないんだよ。」


 そこまで言って、兄は執事が呼びに来たので行ってしまった。アカデミーでできた友人が主催するお茶会に行く用事があるのだとか。

 私はお茶会とかパーティーとかの社交が苦手だ。別に着る物なんて何だっていいのにヒラヒラしたドレスは鬱陶しいし、やれ誰が婚約しただの好意を寄せているだの問題を起こしただのどうでもいい。そんなくだらない噂話をしているくらいなら一人で魔法の訓練をしていた方が何倍も良い。前世でバリバリの平民でそんなこととは無縁だったからかもしれない。

 …けれど今世は貴族で、しかも公爵家の令嬢。私の一挙手一投足は全て“エイプリル公爵家”の世間での評価に繋がることだ。社交活動は避けて通れない道であり、今の私が蔑ろにしていいものではないのだ。


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