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10. 魔力測定


「では続いて、新入生代表として名前を呼ばれた学生は壇上へ上がってください。まずは推薦入学者、ロチェスター帝国皇太子フェリックス・ナサニエル・ロチェスター殿下、シメリアン公爵家令息ルーク・アヴリル・シメリアン公子、エイプリル公爵家令嬢イリス・ルーン・エイプリル公女。」


 燃えるような赤髪をした男子学生とルークに続いて私も壇上に上がる。

 この推薦入学枠はアストルの所在地であるロチェスター帝国の皇族や高位貴族の中からのみ抜擢されるため、枠は少ないものの一般入学よりも大分競争率が低い。血筋と家柄に頼った入学方法なので少し気は引けたが、せっかくなので使えるものは全て利用させてもらうことにした。家柄も実力のうちだ。


「次に次席入学者、サイフォス王国平民シエラ。」


 彼女が壇上へ上がると少し周りがザワザワした。無理もない、アステルには実力さえあれば平民でも入ることができると言われてはいるが、実際は貴族が大半を占めていて平民の割合は本当にごく一部だから。

  貴族は幼い頃から一流の講師に指導をつけてもらうのに対して平民は指導を受ける暇もお金もない。魔力にしろ神聖力にしろ剣術の才にしろ、いくら優れていたとしてもそれを開花させる時期を失えばそれは何の才もないのと同義だ。つまり平民は貴族に比べてその才能を開花させる機会が圧倒的に少ないわけで、そういう境遇にありながらも次席入学を果たしたこのシエラという少女は相当な実力者なんだろう。

 

「そして首席入学者、イースタニア帝国大公令息リーヴァイ・ノア・グレイシャー公子。以上、五名。」


 おぉ、この面子で並ぶと何か雰囲気あるな。

 他の四人とも小説のメインキャラかってくらい髪色も目の色も独特で派手だし、私も今世の銀髪赤眼じゃなくてイヴァンジェリンだった頃みたいな黒髪黒目だったら完全に埋もれてた、危ない危ない。


「君たち新入生代表には、これからそれぞれの学科への任命後宣誓を行ってもらう。ではまず首席のグレイシャー公子、此方へ。」


 彼が壇上の中央へ行くと、白髭を伸ばした老人が前に立つ。いかにも魔法使いといった見た目だ。


「私、魔法学科長ロドルフォはリーヴァイ・ノア・グレイシャーを魔法学科の学生として認める。」

「アストルにおいて自己研磨に励み魔法使いとしての実力を身につけることを誓います。」


 アストルには魔法学科、剣術科、神学科の三つの学科が存在し、魔法学科は赤、剣術科は青、神学科は黄のブローチが与えられる。

 リーヴァイを初めとしてルーク、私が魔法学科、皇太子フェリックスが剣術科、シエラが神学科だった。

 私がブローチを受け取って宣誓をした時、ふと壇上の手前を見るとシエラとばっちり視線がかち合う。それはすぐに彼女の方からそらされたが、私は妙に見覚えのある桃色の瞳から目を離すことができなかった。


「(ユリエル…)」


 かつての友人の顔が頭に浮かんだ。瞳と同じ桃色の髪も整った顔立ちも見れば見るほどユリエルに似ていて、他人の空似にしては無理がある。


 その日は色々なことが起こりすぎて、寮に着いてからも全く心は休まらなかった。魔王を倒した勇者パーティーが予想に反した事実も、ユリエル似の少女の存在も、様々なことが頭を駆け巡る。私は結局一睡もできずに次の日を迎えた。


「うわ、クマやばいぞお前。」

「ほっといて、訳あって眠れなかったのよ。」


 目の下に立派なクマをこしらえて登校するとルークがそう声をかけてきた。

 社交活動も最低限は頑張ろうと決心した私は、あれからたまに同年代の令嬢や令息のいるお茶会やパーティーに何度か参加して交友関係をある程度まで広げたが、今のところ一番よく話したりするのはルークだ。

 手合せの末友達になってから、ルークはよくエイプリル公爵邸を訪れるようになったし、他の令嬢や令息は私を前にすると恐縮してまるで私の子分か取り巻きかのように振る舞うので、家族以外で気楽に話せるのは今のところルークとレイリン、後かろうじてユーインくらいなものだ。


「そんなの魔法で無理やり眠れば良かっただろ。」

「そうだけど考え事してたらいつの間にか…。」

「はぁ、お前って奴は…。そんな調子で良いのかよ、今日は“魔力測定”の日なんだぞ?」

「?魔力測定…?」


 頭に?を浮かべると、ルークはぎょっとした顔をした。


「そうだよ。アカデミーなら入学して学科によらずすぐやる、あの“魔力測定水晶”使ってやるあれだよ。今日朝一番にやるって昨日学校長が言ってたじゃないか。…聞いてなかったなんて言わないよな?」

「そんなこと言ってたんだ…、マクシミリアン様の話しか聞いてなかった。」

「は?!まさか剣聖アデライン・ベイリーと教皇セオドリック・オルコットの話も聞いてなかったのか?!そりゃマクシミリアン様は勇者パーティーの一員だし特に偉大な方だけど、アデライン様もセオドリック様も下位貴族なら一生見ることなんてないようなお方なんだぞ?!」

「私達は一応公爵家の人間じゃない。これから先にだって会って話すくらいの機会はあるでしょ。ていうかそんなことより、今私達がまた講堂に集められてるのは此処でその魔力測定が行われるからなの?」


「ああ、その通りだ。エイプリルの天才魔法使い。」

「?!」


 ルークが答える前に背後から急に声をかけられた。驚いて振り返ると筋骨隆々のいかつい風貌をした男が立っている。

 父と引けを取らない筋肉、これはすごい。あと全く気配を感じなかった…声をかけられるまで私が気づかないなんて、相当な手練だろう。


「ゴホン、さて此処にいる前途多難な若者たちよ、聞こえるか?俺の名はドウェイン・ベッカム。魔法実践学の教授をしている上級魔法使いだ。魔法実践学は魔法学科と剣術学科の生徒は必修科目だから、これからよく関わることになるだろうな。」


 声の拡張魔法で彼の声が講堂中に響き渡る。ドウェイン教授の名前を聞いた途端周りの人間が「ドウェイン教授ってまさかあの…?」「よりによって俺らの魔力測定担当かよ…」とザワザワし出した。

 ドウェイン・ベッカム教授、私でも知っている“アストルの鬼教授”だ。名門アストルの教授は皆社交界じゃそこそこ有名だし、兄も魔法実践学でドウェイン教授に指導を受けて見た目通りのその厳しさに愚痴を零していていたような記憶もある。


「例年通りこれからお前たちの魔力測定を行う。知っての通り、アストルには三つ学科が存在し、また更にそれぞれの学科で“クラス分け”がされる。上位二十名が“Aクラス”、二十一位から四十位が“Bクラス”、それ以下が“Cクラス”だ。」


 ふわふわと目の前に魔法で雲のようなものが現れ、それぞれA、B、Cを形作る。


「今回やる魔力測定と抜き打ちの“実践テスト”、“基礎知識テスト”の結果を総合してクラス分けをする。いくら属性持ちで魔力量が多くてもAクラス確定という訳ではないってことさ。ちなみに言っておくがクラス分けには家柄も血筋も一切問わない。全ては完全にお前らの実力次第だ。」


 え、それはつまり、今から魔力測定と実践テストと基礎知識テストをやるってこと?

 一瞬講堂は水を打ったように静まり返り、やがてブーイングの嵐が起こった。


「まっ、待ってください!そんな話聞いてません、せめて実践テストと基礎知識テストは明日…!」

「そうです、抜き打ちなんてあんまりです!」

「今日は魔力測定しかしないって告知だったから本当に何も準備してないのに!」

「俺だって入試以来全く訓練も勉強もしてねぇよ!」

「私の姉はアステルの中等部三年ですけど、こんな話は聞いたことがありません!クラス分けなんて重要なこと、きちんと例年通り進めてください!」


「なるほど…お前たちの言い分は分かった。」


 生徒たちの言うことを一通り聞いた後ドウェイン教授すぅと息を吸い、そしてとんでもなく大きな声で一喝した。


「甘ったれてんじゃねぇ!!!お前たちはそうやって一生『聞いてねぇ』『知らなかった』って言い訳して甘やかされて生きていくのか?!『明日にしてください』だぁ?!お前たちが将来相対する魔物に「待ってください」「今はやめてください」が通用すると思ってんのか?!」


 当然声の拡張魔法はかかったままなので、あまりの音量に耳がキーンとする。耳を塞ぎたかったが気づかれたら余計怒られそうなので我慢だ。

 それに彼の言ってることは的を射ている。魔物は本能に従って人間を襲う、個体ごとの醜い見た目も相まって恐ろしい存在だ。温室育ちの甘ったれた性根のままなら、どうせいざ魔物を前にした時逃げ出すに決まってる。前世でもそういう冒険者たちは散々見てきた。


「今年俺は魔力測定を…というよりクラス分けそのものを一任されているんだ。お前たちの先輩方がこれまでどんな風にクラス分けをされてきたかは知ったこっちゃねぇ。俺は俺のやり方で進めさせてもらう。まだ異論がある奴はいるか?」


 異論があろうものなら拳で黙らせると言わんばかりに指をボキボキ鳴らしながら言うので、当然異議を唱える者は誰もいなかった。

 あぁ…入学初日から早速波乱の予感だ。ちゃんと乗り越えられるといいけど。


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