表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

09. アカデミー入学


 そうして月日は流れ、ついに私は十二歳になった。


「アカデミーでもしっかりやるんだぞ!セザール、妹の面倒をしっかり見るように!」

「気をつけて行ってくるのよ〜!たまにはこっちに帰ってきなさいね!」

「イリス、教えた通り淑女らしく振る舞うのよ!立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花のようにね!」


 父、母、祖母、それから公爵邸の使用人たちに見送られ迎えに来てくれた兄と一緒に馬車に乗り込んだ。

 今世でたっぷりの愛を受けた思い出深い公爵邸をいざ離れることになると、何だか鼻の奥がツンとする。前世旅に出るために一人で暮らしていた家を出た時とは大違いだ。


「制服似合ってるな、イリス。」

「ありがとう、お兄様。お兄様も相変わらず格好いいわ。」


 兄は今年で十七歳。身内の贔屓目なんかじゃなく、美少年だった少年時代を経て今はとんでもないイケメンに成長している。

 金の刺繍が施された黒を基調としたブレザーにスラックス、それから青のネクタイ。制服もそつなく着こなす我が兄は完璧だ。

 ちなみに私の制服は兄と同じようなデザインのブレザーにスカート、赤いリボン。私も今世の容姿は母のお陰で兄とそっくりなため自信を持てるので感謝しかない。


「緊張してるか?」

「いいえ、全く。」

「さすがは俺の妹だ。」


 入寮は入学前に済ませていたし、今日は入学式だけ。特に何事もなく終わるだろう。早く終わらせてベットでゴロゴロしたいな…と思っていたが、そんな平和ボケした私の考えはすぐに頭から消え失せることになる。

 公爵邸のものよりも大きく聳え立つアステルの校門をくぐり、整備されたレンガ造りの道を歩いて美しく吹き上がる噴水の横を通った時、その前にある銅像を見て目を疑った。


「…は…?」


 アストルは最高峰の教育機関として、敷地内に魔王を打ち倒した勇者パーティーの銅像を立てていると耳にしていたので、私はそれを見るのを楽しみにしていた。

 幼い頃私が勇者に関する絵本を読んで泣き喚いたことがきっかけで、私の家族は私が魔王に底知れぬ恐怖を抱いていると勘違いをし徹底的にそれを彷彿とさせる場所に私を近づけさせなかった。勇者と魔王に関する文献や絵本はもちろん、首都の広場にある勇者の銅像だって見たことがない。

 だから知らなかった。魔王を打ち倒した勇者が、アレクシスのことじゃないだなんて。

 私の目の前にある銅像は全く見覚えのない顔だ。アレクシスでもディーンでもユリエルでもない。


「?どうした、イリス。」

「お兄様…この銅像は」

「銅像?…あぁ、イリスは勇者一行のお姿を見るのは初めてだもんな。勇者ライオネル、女戦士レベッカ、魔法使いマクシミリアン、僧侶エイブラハム。彼らが魔王を打ち倒した栄えある勇者パーティーだ。」


 ガツン、と頭を鈍器で殴られたような気分だった。



「…であるからして、まさに君たちは金の卵そのものだ。君たちの入学を心より歓迎しよう。」

「アーチボルド学校長、ありがとうございました。では次に大魔法使いマクシミリアン様、お願い致します。」


 入学式が始まり、学校長の挨拶まではほとんど耳に入っていなかった。しかし大魔法使いマクシミリアンと聞こえ、ようやく私は現実に意識を取り戻すことができた。

 長い黄金色の髪にエメラルドの瞳、エルフ特有の長い耳。そして何より彼から感じられる膨大な魔力。一目見て分かる圧倒的存在感、今壇上に上がっている彼こそが大魔法使いマクシミリアンだろう。


「まず、入学おめでとう。君たちのような前途有望な若者たちと会えて嬉しく思うよ。」


 今思い返してみれば、アレクシスが勇者で間違いないと確信するには可笑しい点がいくつかあった。イヴァンジェリンが勇者パーティーの魔法使いと言われておらず、逆にマクシミリアンが勇者パーティーの魔法使いだと言われていたことは特に決定的だった。私はきっと家族が心配して勇者と魔王について隠していたことを言い訳に、見ない振りをしていたのだ。いくら隠したところで町に出れば勇者の逸話の数々で溢れ返っているし、昔遠目にだが銅像の後ろ姿も見たことだってあった。


「知っての通り、私は初代大魔法使いイヴァンジェリン様に続く二代目大魔法使いであり、勇者パーティーの一員として魔王を倒した。それでも増加した魔物たちが急に全て姿を消す訳ではない。」


 私たちは魔王を仕留め損なったのだろうか。いや有り得ない、あの時確かにアレクシスが魔王の心臓に剣を突き立て、魔王は塵となって消えた。

 じゃあどうして魔王を倒した勇者パーティーが差し代わっている?


「君たちには上級魔物、そして特に才能ある者には仙級、神級魔物を討伐できるようになることを目標として欲しい。魔王がいなくなったとは言え、人々を危険に晒し得る魔物たちがいなくなったわけではない。そのことを念頭に置いてこのアストルで己を磨きなさい。」


 私たちに恨みを持つ誰かが意図的にしたことなのか?だとしたらそんなことは可能なの?というかアレクシスにもディーンにもユリエルにも誰かから恨みを持たれるようなことがあるなんて思えない。私だってそんなことをした覚えはない。

 …いや、そもそも“差し代わって”なんていないのかもしれない。

 私たちが魔王を倒したことも事実で、またその後現れた新たな魔王を勇者ライオネルたちが倒したのだとしたら?…けど、それだってまだ私が死んでから百年程度しか経っていないのにそんな短期間で次の魔王が現れるなんて可笑しいし、二つの勇者パーティーの扱いが大きく違うのも気になる。まだ私が見つけられていないだけかもしれないがアレクシスたちには銅像の一つもないのに、ライオネルたちの銅像は少なくともアストルにも首都の広場にもあるし、ライオネルに至っては帝国の首都名にだってなっている。


『べ、別にお前のためじゃないし。俺勇者になって魔王を倒したら勇者一行で王都凱旋するのが夢なんだよ。なんかかっこよくね?それに銅像とかも憧れるし!』


『こうなったら絶対打倒魔王だ!勇者アレクシスの名前を歴史に刻んでやる!稽古だ稽古!!』


 昔アレクシスが言っていた言葉が頭を過ぎる。

 知りたい。どうして勇者アレクシスのパーティーの逸話が伝わっていないのか。他の3人の伝説は全く残っていないのに、パーティーの中でどうして私だけ“大魔法使いイヴァンジェリン”なんて大層な扱いをされているのか。


「とはいえ、魔物から人々を守ることを目標にできない者もいるだろう。強くなりたい者、真理を得たい者、何か知りたいことがある者…私の経験上天才たちは基本的に自己中心的だ。自己中で構わない、そんな天才たちに朗報だ。アストルで己を磨いた先で、必ず君たちが求めるものは必ず手に入ると私が保証しよう。」


 以上、と言ってマクシミリアンの式辞は締められた。

 アストルで己を磨けば求めるものは必ず手に入る…か、彼からすれば大した考えもなく耳障りの良い言葉を言っただけかもしれないが、その言葉は私がこれからすべきことを指し示しているような気がして、妙にすとんと私の胸に収まっのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ