00. 前世での死
私には幼なじみがいる。
「イヴ!剣の稽古しようぜ!」
「だから私そういうの苦手だってば…」
光に透ける淡い金の髪の毛に蜂蜜色の瞳をした幼なじみの彼…アレクシスは、家に引きこもりがちな私をよく外に連れ出した。
村一番の美男子な上そんな風に明るい性格をしているので村の女の子たちは常にアレクシスを見ては頬を染めて騒ぎ立てていたが、彼はそんな女の子たちには目もくれずに大して可愛くもなく無愛想な私を日々構い倒していた。
今思い返しても全く意味が分からない、ただ幼なじみと言うだけでそんなに私に良くできるのだから、アレクシスはやはり相当なお人好しに違いない。
「なぁ、いつものやつやってくれよ!いいだろ?」
「はいはい、分かったから。」
魔法でその場に雪を降らせてやると、アレクシスはまるで幼い子供のように顔を綻ばせて喜んだ。こんなお粗末な魔法でどうしてこんなに喜ぶのか、これも意味が分からなかった。
「やっぱりイヴは魔法の天才だ。俺が勇者になった時には絶対俺のパーティーに入ってくれよ!」
「こんなの誰でもできるって…」
「そりゃ簡単な魔法かもしれないけど、イヴは生まれた時から魔法が使えたんだろ?そんなの普通有り得ないから!」
私が生まれた時、私の周りにだけ雪が降ったらしい。そしてそれは赤ん坊であった私が無意識に使った魔法によるものだったみたいで、私の両親を知る人は皆私を天才だという。
「けどそれだってもう本当かどうか分かんないよ。両親が嘘をついてたかもしれない。」
その場に居合わせたのは父と母、そして産婆のみ。私の父と母は既に他界しているし、産婆とはそれっきり関わりを持っていない。
「そんな人達じゃないってイヴだって分かってるだろ?…おじさんもおばさんも、あんなことがなければ今も此処にいてお前を一人になんてしなかったのに。」
「アレク、何度も言うようだけど私の父さんと母さんの敵討ちのために勇者になんてならなくていいんだからね。危ないし。」
「べ、別にお前のためじゃないし。俺勇者になって魔王を倒したら勇者一行で王都凱旋するのが夢なんだよ。なんかかっこよくね?それに銅像とかも憧れるし!」
「死んだら凱旋もクソもないと思うんだけど。」
「だから死なねーって!こうなったら絶対打倒魔王だ!勇者アレクシスの名前を歴史に刻んでやる!稽古だ稽古!!」
晴れの日も雨の日も、吹雪の日だってアレクシスは剣を振り続けた。
凱旋とか銅像とかって本人は言っているけど、私は本当はアレクシスが私の為に魔王を倒そうとしていることを知っている。それなのに私だけがこの小さな村でのうのうと生きて静かに暮らしている訳にはいかない。せめてアレクシスが死なないように、私が魔法使いとしてサポートするんだ。
アレクシスと私が十六になった年、遂にアレクシスを勇者としてパーティーを結成し魔王討伐の旅に出た。途中で戦士ディーンと聖女ユリエルを仲間に加え、アレクシスの勇者パーティーは完成した。
ディーンは実力は確かで何だかんだいいながらも戦士としての役割はしっかり果たすけど、どうしようもなく臆病で泣き言ばかり言うし、ユリエルは聖女と言いつつ男好きで旅の途中に色仕掛けをし始める始末だったけど、それでもとても楽しい旅だった。いつまでもこの旅が続けばいいのにと、そんなことを願ってしまうほどに。
「ガハハハハ!!ようやく現れたな、我が供物よ!!」
魔王は姿を晦ます眩惑の魔法の扱いに長けていて、数多く結成されていた勇者パーティーでも辿り着けたものは片手で数える程だ。それもどのパーティーも十何年という月日をかけて。
だが私たちはそんな魔王に僅か二年で辿り着いた。確かに私たちのパーティーは当時とても勢いがあり、最も魔王に近いと世間で評判だった。けれどあまりに早すぎる。
私たちの実力外の問題ならば、それは何なのか?答えは単純かつ明瞭だった。“私”を…、正確には私の魔力を、魔王が求めていたからだ。
「お前の魔力を手に入れれば、私は更に強くなり永遠の存在となる!!」
「っ何だそれ…!どういうことだ!」
「ハハッ、そうだな、私は今気分が良いから教えてやろう!その女の首にあるアザを見たことはないか?それは“印”だ!この私の供物となり得る魔力を持ったたった一人の者に現れる“印”…!あぁ、私がどれだけ待ちわびたことか!!」
確かに生まれつき私の首には三日月のような形をした小さなアザがある。私が人一倍魔力量に恵まれ、生まれながらにして魔法を扱えたのは“魔王の供物”だったからなのだと言う。
私たちは懸命に戦った。私もディーンもユリエルもアレクシスも、持てる力の全てを使って魔王に立ち向かった。その甲斐あって私たちは遂に魔王を討ち取った。
「はぁ、はぁ、はぁっ…やった、やったぞ…!魔王は死んだ!アレクシス!ユリエル!イヴァンジェリン!僕たち、遂に…!」
「っ待ってディーン、イヴァンジェリンがっ!」
「何…?!」
しかし魔王から執拗に狙われ続けた私は致命傷を負っていた。視界が霞み、私は自分の死期を悟る。
「あぁ、イヴ…ダメだ、いくな、いかないでくれ…!ユリエルッ、早くイヴの治療を!!」
「もうやってるわよ!!でもダメ、損傷が激しすぎて今の私の神聖力じゃ治りきらない…!」
「クソ、力を消耗しすぎてるんだ!街まで戻れば他の神官達がいる、移動スクロースは体に負荷がかかるから僕が担いで…!」
「ディーン、貴方だって重体なんだからそんなことしたらダメよ…。ユリエルももうやめて、私は大丈夫だから。」
もう体のどこも痛くない。さっきまではなんだか寒かったが、今はもう何も感じない。穏やかな気分だ。私を覗き込む大切な三人の仲間たちの顔をもう一度見て満足して、それでもやっぱり何か見足りない気がしてあぁそうだと思いたった。
「アレ、ク…」
「っイヴ、もう喋るな…!きっとすぐ助けが来るから、それまでどうか持ちこたえてくれ…!」
「もっとこっちへ来て、アレク…目が霞んで顔がよく見えないの。」
すぐに血に濡れたアレクシスの顔が近づいてきた。涙に潤んだ蜂蜜色の瞳は今も変わらず何よりも美しい。
「あぁ…最後にこれが見たかった。この世で一番、綺麗なもの…」
こうして私、イヴァンジェリンは最愛の仲間たちの手の中で静かに息を引き取ったのだった。




