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【短編小説】サムライ

掲載日:2026/02/16

 隧道を出ても何がある訳じゃなかった。

 そこにあるのは隧道を出た先にある景色だ。どっちから出入りしても景色に違いが無い。

 足を引きずるようにして追っ手から逃げ延びたおれたちは、隧道の中で足を止めた。

 敵の気配は無い。

 疲労からか、誰となく腰を下ろすと皆が次々と座り込んだ。鎧や刀までもが疲れたと呻くように音を立てた。


 幾人かの兵だった男たちはみな、一様に落ち窪んだ眼窩と痩けた頬をしている。

 実際に疲れていた。

 戦に負けて、逃げ延びた仲間の数も追い討ちに合いここまで減った。

 外は音もなく雨が降っている。

 霧のような細かい雨だ。

「ここで夜を待とう」

 誰かが低い、乾いた声で言った。確かにいま動けばぬかるんだ地面に足跡がつく。

 無言の返事をもって、皆それをよしとした。


 隧道の入り口で、滴る水を数えていると、突如としてひとりの男が言った。

「風呂に、入りてぇな」

 腹も減ったが、まずは熱い風呂に入りたいと続けたその男はなるほど、全身が真っ黒になっていた。

 まるで隧道の闇に目玉だけが浮かんでいるように見える。

 果たして自分もそうなのだろう。確かに自分の手も黒くなっていた。


「これでは、またうつけ殿に叱られるな」

「洗ったところで我々は元より黒い」

「日本人の腹よりはマシだろう」

 誰かが口笛を吹いて囃し立てる。

 そうだ。おれたちこそがサムライの起源だ。奴らがその文化を奪った。殺してやるぞ、アングロサクソンども!!


 瞬間、雷が光った。

 曖昧だった稜線や木々の形がくっきりと浮かび上がる。

 おれたちは身を寄せた。

 どうにもこの雷は良く無い。それにこの国は山が多過ぎる。おれたちのように手足の長い人間には不向きな地形だ。

 サムライの文化を奪う為に、地形をこんなにしやがるとは卑怯なり、日本人。殺してやるぞ……アングロサクソンどもめ!!


 おれたちが憎しみの炎を燃やしたからか、雨足が激しくなった。

 おれたちは誰ともなく鎧を脱いで雨の中に飛び出た。久しぶりに汗を流せる喜びで小躍りしながら雨を浴びた。

 サムライたちも阿保だ。

 刀で斬り合ったりせず、ダンスとかラップで戦うべきなのだ。

「やぁやぁやぁ我こそは武蔵の住人、弥助なり!!尾張うつけ殿の命により参った!!」

「イェーイェーイェー洒落の通じねぇ主人、助けたいドンマイうるせぇと目にもの見せてくれるぜアーイ?」

 ブーイングと野次、更なるアンサーとレスポンス。そうだ、合戦はこれでいい。斬り合いなど野蛮なのだ。

 山岳地帯ではリズムが取りずらい。いずれこの国の山も均してしまおう。


 

「おい見ろ!見てくれ!!」

 雨で身体を洗っていた男が叫んだ。

 いや、正確には男だったサムライだ。

「あの噂は本当だったんだ!!サムライの半分は女だったって!!」

 そのサムライからは立派な逸物が消えて、代わりに巨大な乳房が下がっていた。


 気がつくと、おれたちの半分は女になっていた。

 そして当然ながらおれたちは勃起したので何となく繁殖して、やはりサムライは黒人起源である事を証明してやったのだった。

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