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15 割のいい仕事には気を付けろ

 猿退治で一緒に仕事をしてから、機会がある毎に俺は3人組のパーティに参加させてもらってギルドの護衛依頼をこなしている。

 要するに人数合わせだ。

 もちろん人数が増えて取り分が減る場合は俺には声がかからない。

 それどころか護衛仕事が2人指定の時、3人のうち1人が個人で別の仕事を受けることもあるという。

 人数合わせでも村を出て初めてできた友人たち。


 護衛依頼は、土地勘がなく採集に向かない俺やあの3人にとって達成しやすい確実な仕事だ。

 ただし、魔物や野盗たちが襲ってくるような危険地域を通らないし、要人の護衛でもないから単価が安いが、指名依頼も増えてくるし、護衛任務で実績と信用を得ると貴人の護衛に引き抜かれたりするらしいから悪くも無いんだとか。

 前世の記憶に置き換えると、バイトから正社員に抜擢される感じだろうか?

 なんだかロマンがない気もするが、腕っぷしで生きていく人間には有力者の護衛や用心棒がキャリアアップなのだろう。


 その日はパーティからゴルが外れ、モーナとディルが護衛の仕事で8日間空けることになった。

 ゴルは俺と2人でできそうな仕事を探したが護衛や討伐の仕事は見つからず、個人で受ける運び屋の依頼が書かれた木札を素早く掴んで受付に持って行った。

 

(あれって、高額の報酬だったけど受けて大丈夫か?)


 危険だからやめとけと言うのも烏滸がましいし、俺よりはこの業界に慣れているだろうから何も言わなかった。

 俺の方は慎重なので、高い違約金が発生する運び屋の依頼は基本的に受けず、二件隣の仕事の斡旋所で面白い仕事を見つけた。

 

『大釜磨き 綺麗できたら20ギル』


 鉄でできた大釜は小金貨数十枚では作れない。その大釜で湯を沸かして漁師向けの洗濯をしているが、昔使っていた古い大釜の錆を落としてもう一度洗濯に使えるようにしたいのだという。

 汚れと錆を十分に落とせたら、20ギルの報酬を貰えるがいくら頑張っても汚れと錆が落ちなければ報酬無し。大釜を壊さない限り、違約金は無し。

 これじゃ受ける奴いないだろう。だが俺には前世の記憶を元にした秘策があった。


 俺は斡旋場で依頼を受け、これに挑むことになった。まず洗濯場に現在使われている大釜を見に行く。

洗濯場の責任者は大柄の女で、洗濯場は女たちが数名働いていた。

 底は深くないが幅が大きな大釜に水を入れて沸騰させて、麻で織られた布や衣類をぶち込んで棒でゆっくりかき混ぜて選択するんだとか。

 洗濯場は独特な臭いが立ち込めていて、大釜の湯は濁っていた。


 次にすぐ隣の土蔵に案内してもらって、中に置かれている大釜を見た。先程見た物より一回り小さい大釜で錆び付いているが思ったほどではなかった。


「これをさっきの大釜のように洗濯に使っても、錆が布に着かないようにまで磨けばいいんだな?」

「ああ、そうだ。ブラシはそこにある。」


「この大釜を竈まで運んで欲しいんだが、できる?」

「何のために運ぶ?」

「錆を取るためだ。」

「それならあたいとあんたの二人で運ぶよ。」

 片側を持っている俺にはかなり重かったが、この女は苦も無さそうに片側を持って洗濯場の連中が煮炊きする竈に運ぶことができた。

 

 前世の記憶によると錆には重曹、クエン酸で何とかなるはずだ。

 赤錆にはクエン酸、黒錆には重曹が効くらしい。記憶では重曹しか使った記憶が無いがまあ大丈夫だろう。


 目立つのは赤錆だから、まずはクエン酸の出番。お湯を貰って少し釜に入れて、粉末のクエン酸をサラサラっと手から投入して、釜の内部に満遍なくブラシでクエン酸溶液が錆に着くようにする。

 少し放置してからブラシで擦る。かなり取れているが錆が深くてまだまだだ。結局、一日目はある程度ピカピカした金属光沢が出てきたところで終わってしまった。

 それでも洗濯場の女たちは驚いていた。


 二日目は重曹で煮ることにした。かなり取れたがまだまだ錆は残っている。

 重曹とクエン酸を両方使ってみた。見栄えが良くなってきた。

 

 三日目は、麻布を買ってきて、大釜の縁に重曹やクエン酸に浸した布を貼り付けておくことでアプローチすることにした。縁には洗濯の際に衣類が当たるので重曹やクエン酸でそこの錆も取っておかないといけないからだ。

 大釜の中の錆もまだまだ気になるので、重曹を入れて放置しておいた。


 四日目、洗濯場にやってくると、小さい鍋が大釜に入れられていた。

 錆を取って新品みたいにしたいという意図はわかるが便乗するのはやめて欲しい。

(金取るぞ、オラぁ!)


 五日目、もうそろそろ飽きてきた。頑張ったよ俺。

 かなりピカピカしてるし、これで十分だろうと考えて、責任者の女に見てもらった。

「これでどうで・・・」

「あと少しじゃないか。」


 俺が聞き終わる前に、もっと頑張れって言いやがった。

 つまり、まだ合格じゃないらしい。

(報酬払う気ないだろ。払わないなら釜壊すぞ、オラぁ!)


「最後まで頑張っとくれよ。」


「はい・・・。」

 俺は気が小さい。所詮は小市民だ。怒りに任せて五日間頑張った分の報酬を捨てるほど剛毅な男ではなかった。


 しかし、これからどうしたものかと考える。初めは錆もどんどん落ちていったが、もう重曹もクエン酸もほとんど役に立っていない。これから先は金束子みたいなもので擦っていくしかないんじゃないか。しかし、この町に金束子なんて存在しないと思う。


(ああ、便利な錆取りの薬とかがあればいいのに。)


 そう思った瞬間、ギフトで出せると分かった。


(はぁあ?なんだよそれ。)

 初めからギフトにお伺いを立てて錆取りの粉を出せばよかった。そう思ったら、馬鹿らしくなって一気に疲れが出てきた。

 今日は気持ちが折れてしまって働くのは無理そうだ。ホットココアでも飲んで寝て、明日にギフトの錆取りの粉で頑張ろう。そういうことにして洗濯場から立ち去った。


 六日目、文句つけられない程にピッカピカにしたった。

 俺は責任者の女にピカピカの大釜を確認してもらい、報酬の20ギルを小金貨で20枚にして貰った。

 実にいい気分だ。努力、順調な経過、最後の方で挫折、そして最後の最後で大成功。

 結局、簡単に解決できたので努力と挫折がちょっとマッチポンプ臭いけど、疲労感のせいで抵抗感なく達成感が込み上げてくる。


 依頼人は新品同様の大釜で大儲け、俺はくたびれ儲けを回避して上々の報酬を勝ち取って終わらせられた。

(今日は最高だ。あの3人組に酒を一杯くらい奢ってもいいな。)


 俺はゴルが運び屋の仕事を終えて帰っていると良いなと考えて、あいつら3人が定宿にしている酒場兼宿屋を訪問してみた。



 一階の居酒屋の隅にゴルが座っていた。

「やあゴル、お帰り。」


 俺にゴルと呼ばれた男は、目だけこちらに向けてきた。

「・・・」


 いつもと違うゴルの様子で俺はすぐに気づいた。俺が懸念していたことがゴルに起きたのだと。

 ゴルの表情を見た瞬間に踊りだしそうな気分は霧散してしまったので、ゴルを慰めることに徹することにした。

 話を聞くと、依頼に失敗し高額の違約金が発生したらしい。

 荷を運ぶ道中、冒険者崩れの3人組に襲われて、荷を破壊されたと言う。反撃して撃退したが、荷は壊されてしまったから依頼は当然失敗となった。

 

 荷は大きめの壺だったと言う。


 割れやすい物、戦闘に不向きで逃げにくい重さや大きさ、都合が良く現れる妨害者。

 これ、違約金を狙った冒険者向けの詐欺じゃね?

 俺はすぐにそう思った。



 俺はゴルに今日は夕食と酒を奢るからと安心させて、詳しく全容を聞き出すことにした。


 ゴルは金が欲しかったから、割のいい仕事を探して受けたと言う。

 金が欲しかったのは結婚を申し込みたい女が居て、その女の妹が病気で金が必要だと言われたからだと。

「オレのせいでユリアの妹が死んだら、会わせる顔がねぇよ。」


「それはないから安心しろ、ゴル。」

 

「ラネ、お前は良い奴だな。でも、オレが失敗しなければ、、、。」

「うーん、、、わかりやすく説明してよ。」

 酔ったゴルから少しずつ情報を引き出しながら、ちょっと整理してみた。


 ゴルの言うユリアという女は飲み屋の女。

 ゴルはその女に会うために何度も通っていて、最近仲良くなってきた。

 相手もゴルのことを好きと言ってくれて、ゴルは将来結婚したいと考えている。


(ふむふむ。それで?)


 ユリアが飲み屋で働いているのは、病気の妹を養っていくためだと最近明かしてくれた。

 治る薬もあるらしいが高価で手に入らないと嘆いていた。

 だから、ゴルはユリアにお金を渡して大変な仕事から解放してあげたいと思っている。

 ユリアはゴルが初めて愛した女性らしい。


(ちょっとこれはダブル詐欺ブッキング中?それともユリアって女が一味の違約金詐欺?)


「それで、ユリアって女が運び屋の仕事を指定した?」

「いや、あれはオレが選んだ。報酬が2日で歩いていける距離で8ギルだったんだ。」

「じゃあ、違約金はいくら?」

「18ギル。」

「・・・」

「もっと報酬のいい仕事を探さないといけない。」

「・・・」


 ゴルは詐欺に身体ごと突っ込んでいくタイプか。詐欺内容よりゴルに問題があったような気がする。

 見えている罠を踏みに行く感じにしか思えない。

 妹が病気ってのは金をせびる女の常套手段じゃないかと思うんだ。

 それなのにゴルは愛とか語っている。女に頼られて舞い上がっちゃったのかな?


 俺はゴルとそこまで深い付き合いじゃないどう扱えばいいかよくわからない。二日後にゴルの保護者が帰ってくるから、それまで聞き手に回ってゴルを刺激しないと俺は誓った。言いたいことはたくさんあるけどね。


 その晩からゴルと同じ宿に泊まることにした。

 もっと良い報酬とか言い出していたゴル。ああいうのはギャンブルの負けをギャンブルで取り返そうとするのと同じだ。ゴルに依頼をまた受けさせたら高額な報酬の依頼で挽回しようとするはずだ。

 だから、二日間は仕事をさせない。


 翌日、俺は夕食時にまたゴルに酒を飲ませて寝かしつけた後、ゴルに聞いたユリアが働いているという店を覗いてみることにした。

 その店は女たちが多く働いていて、ちょっと高級そうな飲み屋だった。しかも宿屋付き。

 どういう店なのかわかってゲンナリする俺。

 しかし、ゴルを騙そうとした女を確認しないといけない。

 店から出てきた中年の男に小銀貨1枚を渡してユリアという女が誰か教えてもらった。

 その女は何というか、第一印象はオッパイだった。胸元が開けた服装でその圧倒的な存在感を隠さない女。それがユリアという女だった。


「兄ちゃん、あのコはやめときな。」

とその男は忠告してくれた。

「なぜ?」

 指で輪っかを作って見せる男。

 俺は金を追加で要求していると察して小銀貨をもう1枚渡してやった。

「あの女、顔は幼く見えるがあれでも30歳近い。それに10年くらい前に病気の母親が死んだ。その後は病気の父親が死んで、この前は病気の弟が死んで、病気の妹が死にかかってる。はははは。」

「お、おぅ。」


 哀れゴル、冗談話になるような幼稚な設定に引っかかってしまったらしい。

 それにしても、この店に10年以上も通っているオッサン凄いな。




 次の日にはモーナとディルの2人は帰ってきた。


 受けた護衛の仕事は何事もなく終了して報酬を貰ってきたと報告を受けたゴルは視線を泳がせながら荷運びの依頼を失敗し違約金が発生したことを2人に告げた。


「すまん。違約金を支払うのに金を貸してくれないだろうか?」

 そう言えば、俺は違約金の総額しか聞いていない。


「いくら必要なんだ?」

 モーナは少し厳しい口調でゴルに問う。


「残り15ギル。」

 どうやらゴルは3ギルしか払う余裕がないらしい。


「それで違約金はいくらだったんだ?」

「18。」

 モーナがそう聞くと、ゴルは俯いてボソっと答えた。


「だから、あの女に貢ぐのはやめろって言ったじゃないか。」

 ディルの容赦ない指摘がゴルを射抜く。どうやら金が無いのは貢いでいたせいらしい。

「だけど、オレが行かないとユリアが困る。」

「そんなわけないだろ。オレらより金持ってる女に貢いでどうすんだよ。」

(正論で射抜くディルさん怖ぇー。)

「ユリアは病気の妹が要るんだ。金が要るんだよ。」

(あんな話をオッサンから聞いちゃったから、すっげー気まずい。)

「3ギルしか持ってなかったんだろ?どう考えても今金が要るのはゴルだろ。」

「・・・」


「ディル、そこまでにしてやれ。」

(さすがモーナ。グロッキー状態のゴルを気遣った。伊達にリーダーやってないな。)

「違約金18ギルを払えば、この件は無かったことになる。この程度の金で犯罪者扱いなんてアホらしいだろ?もちろんオレたちが残りの分5ギルずつ払う。それは少しずつオレたちに返してくれればいい。でも、今後もこんなことがあると困る。だからしっかりここで約束してくれないか?ユリアって女にはもう会いに行かないと。」


(あれ~?なんで15ギルを三等分してサブメンバーでもない俺が借金の肩代わりするんだろう?算術知らないのかな?)

 

 この真剣な雰囲気。俺も払うの?と聞けるような空気じゃない。

 ゴルは女のところに行かないと約束するのを渋っている。

 

「だけど、ユリアが、、、。」

 こいつはまた会いに行く気だ。


「ちょっと待ってくれ。オレさ、昨夜ユリアって女が気になってさ、ちょっと調べてきたんだ。」

 俺はこれ以上借金を肩代わりしたくないので、昨日の晩にユリアの店に行って中年の男に聞いたことを話した。10年くらい前からあの店に居て、家族が病気でお金が必要なのっていう話を繰り返していることを。

 ゴルは驚いていた。

「30歳って?そんなはずない。18歳だって言ったから人違いだ。」

「でも、あのオッパイだろ?」

「・・・」


 ゴルは黙ってしまった。

 どうやら田舎者のゴルは都会のオッパイ(おんな)に惑わされていたようだ。


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