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12 カルタポルトで初仕事

 エラン村の男たちがロバの引く荷馬車と共に小高い丘を越えると彼らの目の前に目的地カルタポルトの全景が見えてきた。エラン村と比べてかなり大きな港町だ。赤茶けた屋根と白い壁の建物が密集して並んでいて、その先にはキラキラと光を反射する青い海が広がっている。

 

 カルタポルトはエラン村から馬車で4日ほど北にある港町。漁業と海上交易で賑わっていて、住んでいる人の数は2万人を超えるとも言われている。


 遠くから見ると商船と漁船の係留場所が明確に分けられており、乗り降りや荷揚げの桟橋もかなり離れている。商船と漁船の違いで船着き場の雰囲気の差が目を引く。

 漁船は小さく数が多く、係留し方も無秩序さを感じさせる。


 城壁に囲まれてはいないが、町の外側に外から来た者たちが通るべき門があり、そこを通り過ぎるとこの港町はエラン村では嗅いだことがない特有な臭いで俺たちを出迎える。

 ここカルタポルトは第一印象ではとても白壁の建物が並ぶ綺麗な町だが、近づくと海の潮の臭いと、クソの臭いが混じり合った町だった。

 俺が耐えきれずに鼻を歪めると村の男たちは笑った。



 村の男たちは運んできた小麦を開けた街区にある行商人の倉庫まで慣れた手順で運び入れる。倉庫には行商人と見習い青年と他数名が待機していて、荷と村人を歓迎してくれた。

 彼らは急いで荷を確認して報酬が入った袋と羊皮紙を持ってきた。渡された袋の中身を村の男たちが確認をする。

 確認が済んだ後に行商人のオッサンがこちらの持ってきた羊皮紙にサインして、村の代表者が行商人の持ってきた羊皮紙にサインして返す。

 これで契約通りに納品と代金の支払いが完了したというわけだ。


 この村の代表者は村長のオッサンの次男。見た目30歳近い男だ。この度は彼が村に入る金、村から出て行く金の管理を任されている。村の金が勝手に使いこまれないように、町の連中に誤魔化されないように。


 荷物と金のやり取りが終わったので、村の男たちはロバを休ませるために倉庫の横の厩舎に連れて行き、その後、彼らは代表者と共に買い物をすることになっていた。


 毎年、行商人が村に運んでくる商品は宣伝も兼ねている。その際に買えなかった村人は男たちに頼んで買ってきてもらう。

 それ以外にも村で要り様になった物、例えば、鍋や包丁、金づちや釘、布や縫い針、石鹸、ハサミといった物を仕入れて村に帰ることになる。


 町で仕入れる物には特に金物が多い。エラン村には鍛冶ができる職人もいるが、何せ金属製品が村には圧倒的に少ない。そこで、鉄の釘、銅鍋、鉄の包丁などを積極的に仕入れるのだ。


 毎年、初夏の商いはこの村としては大きな金額が動く買い付けである。そのため、輸送する男たちの中に必ず一人は金勘定ができる村人が同行することになっているのだ。

 


 俺はふと思う。

 アビーとその母に教えた九九と筆算を使うラネ式計算法。この5年間にアビーたちに教えたあれは村の中には広がっていない。あれが広まれば、買い物は個別の男たちに任せても問題ないのではないだろうかと。

 有用性は認められつつも、あれから算術を村人に教えて欲しいという依頼はなかった。


 税金で義務教育が実践される社会とは違い、エラン村では算術や読み書きは身に付けるまで時間がかかり、それなりの費用が要る。だからそこまでして身に付けたいと思わない人も多々いるだろう。


 村の現状を鑑みて、村人の一部が他の大多数の代わりに数字を扱ってやっているのか、数字を扱う手段と機会を村人から遠ざけているのか、どちらの見解なのかは人それぞれだろう。

 しかしながら数字と文字の読み書きが扱える上級村民たちは、税と金を管理して権力を牛耳り、尚且つ自立して生きていく術を村人から取り上げている形を保っているようにも俺は思えてしまう。

 前世の記憶によって人類の歴史における識字率や算術の重要性を知識として齧っている俺はそう勘繰りたくもなってしまうのだ。


 まあ村を捨てて出てきた俺には今更関係ないけどね。


 そんなことを考えていたら、村長の次男と不意に目が合った。俺は批判的に考えていたこともあって反射的に目を逸らせた。

 村長の次男の方は村の金を管理する大役を一つこなしたからなのか、彼の目から緊張が幾分抜けたようにも見えた。

 その目からは、俺が考えていたような意図は察せられない。


 上級村民も他の村人もこれまでの慣習に従って生きているだけ。それが俺からすれば不公平に見える既得権や搾取構造だとしても本人たちにはその自覚がない。

 結局、他の文明の記憶を持っていることで、俺が勘繰り過ぎなんだよな。


 そう思うことにした。



 彼らは全員で買い物にいくらしいので、行商の倉庫の前で俺は村の男たちにお礼と別れを告げた。



(さて、まず町を見て回るか。野宿は厳しそうだし、真っ先に今夜の寝場所を確保しないとな。)

 そう思って倉庫を去ろうとした時、

「ラネだったかな。君、ちょっと話できるかな?」

と見習いの青年に呼び止められた。


 何事かと思えば、算術の教師の勤め先の世話をしてやってくれと母に頼まれたと言うのだ。


(母ちゃん、、、いつもあんなに怒ってばかりなのに心配してくれてたんだな。)


 少し温かい気持ちになった。

 でも、算術の教師をやりたいってのは村脱出の方便だしなぁ。ここで仕事を紹介されて縛られるのは厄介だな。

 打算的で薄情な心が感謝の念をすぐさま打ち消しにかかった。


 しかし、ここで彼の提案を拒否したら、その報告は早くて数日、遅くとも来夏にエラン村の両親に行く。

 それは下手に心配をかけるだけで非常に拙い気がする。

 だから、まず彼の提案の詳細を聞く。そこで条件闘争をするように見せて、条件が合わずに断る流れに持っていく。


 瞬時にこうやって逃げ道を確保しようと俺はストーリーを組み上げた。


 

 青年の方はそんな俺の心中を知らず、真面目な口調で紹介することに関して自分たちの懸念を伝えてきた。

 誰かに俺を紹介するにも俺が算術を本当に使えるのか、教えられるのか、わからないので確かめたいと言うのだ。


 え?スキルを受けたと偽って村長宅で試されたのと同様のイベント?


 それはちょっとした試練だった。

 二桁と二桁の掛け算を出されたのだ。

 頭の良い小学生が憶え立ての算術の応用で得意げにやるあれである。


 村を出て初めての試練が、暴漢ではなく、狼でもなく、算術だなんて。

 実力を試すというのは、スキルの自己申告が疑わしい世界故の常套手段なのだろうか。正直、俺は試されるのはあんまり好きじゃないがやるしかないだろう。


 ちょっと焦りつつも頭の中で筆算をイメージしてなんとか解いた。

 スキルの嘘がバレないように暗算の特訓したことがあって、今、それが生きてきた。

 青年は素直に驚いていた。


 嘘でも対策を準備すれば真実にすることができる。


 スキルとギフトと前世らしい記憶を得てから嘘を重ねて生きてきたが、それ故に必要以上に努力したとも言える俺。こうやって嘘を何とか真実として周囲に押し切ることができている。

 余裕が生まれ、これはきっと隠れた名言になるな。心の忘備録に残しておこうとさえ考える。

 まあ、嘘は嘘、真実にはなることはないけどね。


 青年の驚きに満ちた表情に、調子に乗った俺は誰でもこれくらいできるようになれる特別な計算方法があると匂わす。

 青年が関心を示したので、得意になって筆算の掛け算を地面に書いて見せる。筆算は単純なので、頭の良い人間なら一目見ただけで計算法そのものを理解できるのだが別にこれで食べていくつもりではないので構わないだろう。



「便利そうだね?これは誰から教わったの?」

「誰からも教わっていない。これからはオレのことはラネ先生と呼んでくれてもいい。」

 青年の様子から俺は立場が良くなったことを察知して、ここぞとばかり偉そうにしてみた。

 教わってないってのは嘘だけどね。


 しかし、発言後数秒でしまったと気付く。不用意に自分から先生を語るなど、初手では断れなくなった。

 


 そして次は行商人のオッサンの家に行くことになった。

 家は倉庫の裏側にある店舗の二階。店番の女性に挨拶をして部屋に通される。

 そこで、行商人のオッサンを交えて話は進む。


 先ほどの計算法が気に入ったのか青年が熱を込めて行商人のオッサンに先ほどのことを説明している。

 俺が横から割り算も簡単にできると補足すると筆記を使って行う計算法が関心を引いてしまい、オッサンが乗り気になってしまった。

 そうして試しに計算法を教えるのならば、身内である彼の家族にしてくれという話になった。



 行商人のオッサンの子供は女ばかり5人。男ばかり生まれた我が家とは真逆の構成だ。父が可愛い女児を欲しがって俺が生まれたように、あのオッサンは後継ぎの男児が欲しかったんだろうなぁと想像してしまう。

 計算法を教える身内というのは彼女ら娘たちと行商人と彼の弟の妻2人、それに行商人見習いの青年の弟妹の2人。ここはどうやら一族経営。

 行商班がオッサンとその甥の青年の第一グループとオッサンの弟の第二グループで町や村を回って、家族の残りは居残り班として町での仕事をしているのだそうだ。

 行商人のオッサンと見習いの青年はこれからすぐに別の町に商いに行くので、居残り班9名が俺の生徒になる。

 一度に9人全員が相手ではなく、生徒側は朝食後から正午前、正午から夕方までは二分割の三交代で教える。彼らにも毎日仕事があるのだ。

 


 行商人側から提示された待遇と報酬の条件はこうだ。

 計算法の習得に費やす期間は客室での寝泊まり食事つき、四則演算を筆算で習得した際の成功報酬は一人当たり小金貨1枚。

 ここで長期間縛られるのは望まないので、こちらから30日間と期限を切らせてもらった。

 短ければ短いほど収益率は高くなると俺は考える。もちろん、寝泊まりと食事目当てに長期居座りたい人間もいるだろうが、俺は冒険者をやってみたいのだ。


 前世の感覚であれば30日は一カ月。ここは前世の世界ほど貨幣経済が浸透していないので、小金貨9枚ともなればかなりの儲けになるはずだ。

 普段、金銭のやり取りをする生活をしていなかったため、直感的にはわからなかったので頭の中で少し整理してみる。


 貨幣には種類があり、それら貨幣価値はこうなっている。

 村で扱っていた貨幣は主に銅貨と小銀貨。銅貨は小銀貨に比べて大きい。朝食なら銅貨2枚、夕食なら銅貨3枚が村での相場。銅貨の単位はセン。

 その価値は前世の日本で言えば50円から150円くらいだろうか。エラン村では150円程度の価値で、王都のような都市なら50円程度。ここでは精々70円、80円と言ったところか。

 小銀貨1枚は、銅貨60枚に換金できる。銀貨の単位はシル。1シルは60センと等価である。

つまり前世の感覚では1シルは3000円~9000円である。


 それ以外の貨幣はこうなっている。

 銀板と呼ばれる銀の板は小銀貨5枚に換金できる。

 この銀板ってのは、別の国が使っていた四角い貨幣の名残で小銀貨5枚分の重さと価値がある。銀板に対して小銀貨は単に銀貨と呼ばれている。

 銀板は1枚で5シル。


 銀の貨幣の上に金の貨幣が存在する。小金貨と大金貨である。

 小金貨は小銀貨よりほんの少しだけ小さい金の硬貨で、大金貨は銅貨くらいの大きさで少し厚みがあり、それらの価値はこうなっている。

 

 小金貨=小銀貨10枚=銀板2枚。

 大金貨=小金貨5枚。


 金貨の単位はギル。大金貨は1枚で5ギル。

 前世の感覚では1ギルは30000円~90000円である。


 この町の職人や農夫の30日の賃金は6ギル程度で、6人家族ならそれでなんとか養って暮らしていけるという。

 少し確かめてみる。食費が村の2倍だとして一日銅貨12枚程度、それが30日で銅貨360枚なので、銀貨6枚。

 6人家族なら銀貨36枚かかるので、つまり4ギル弱。収入に対する食費の比率、つまり前世で言うところのエンゲル係数が高すぎる気もするがそういうことになる。



 つまり、成功報酬の小金貨9枚(9ギル)全て受け取れるのであれば、一人前の職人の賃金の2倍以上で、前世の感覚では月収27万円から81万円となる。


「やる!是非、やらせてちょうだい。」

 こんな美味しい仕事を打算的な俺は断るわけがなかった。


 授業は明日からという事なので、夕食時に家族に紹介してもらうことになった。

 夕方まで時間が空いたのでとりあえず町を見て回ることにした。




 村に居た時から考えていたが一先ず鏡が欲しいと思っている。

 俺は生まれてから今まできちんと自分の顔を見ていないから見てみたいし、老化が今後霊薬の素を使うと止まるかを確認していくために鏡が必要になると思っているからだ。


 しかし、手持ちの金が銅貨数枚しかない。だから、当初の予定通り金粉を換金することにする。

 誰にも見られないように建物の陰に隠れ、金粉を用意してあった布袋に指先を突っ込んで少し重みを感じるくらいまで出した。

 この金粉を砂金ということにして、両替商で貨幣に換えてもらうのだ。


 とてつもないチートなギフトである。


 通りに出て両替商の場所を人の良さそうな婦人に聞いて、そこに行ってみる。そこは見るからに人が多い商業区域で、硬貨をモチーフにした看板がある立派な建物があったのでそこに飛び込んだ。


 受付には青年がいたが、砂金を換金したいと言うと奥から出てきた小柄な中年の男が対応してくれた。


 その男は金粉を丁寧に観察してから、重さを天秤で量っていた。

 金粉は砂金にしては粒が細かすぎるしサイズが均一で不自然だが、10年がかりでかき集めた砂金だと偽って、小金貨8枚と小銀貨4枚に交換することができた。

 天秤で量ったのを目の前で見ていたが、金粉の重さは小金貨12枚以上だったのでかなり多めに手数料を引かれたかもしれない。

 

 けれど怪しまれずに換金してくれただけで良しとする。元手はタダなのだし、揉める方がややこしくなりそうだから。


 金粉の換金は出所を疑われるから何回も使える手段ではない。命を狙われるかもしれない。だから、この町での換金は最初で最後にするつもりだ。


 その両替商の男に礼を述べてから、鏡を売っている店の場所を聞いて店に行ってみることにした。



 鏡を売る店は金細工などを作る工房に隣接した宝飾店だった。宝飾店と言っても受付だけで、工房に鏡が置いてある様子。

 見るからに敷居が高く、入るのにも声をかけるにも覚悟が要る。エラン村に来た護衛の男たちが女に強請られて困ると言っていた理由がわかってきた。

 鏡はとてつもなく高級なのだろう。


 さりとて、懐は温かいし、ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかない。せめてどんな鏡があるのか、値段はいくらなのか、それだけでも聞いておこうと自身が場違いなことを自覚しながら宝飾店に入った。


 受付には誰も居なかったが、声をかけると奥から中年の女性が出てきた。

 どんな鏡があるか、値段はいくらなのかを率直に尋ねた。


 女性は俺に対して本当に客なのか訝しむ目で見てきた。

 感じ悪い女性ということではなく、俺が客層の常識から外れた身なりなのだろう。


 今日村から出てきたのだが、村に戻るときに土産にしたいと考えているので鏡がいくらか知りたいという旨を告げたら、頷いて奥に入っていった。


 すると先ほどの女性の代わりに男が奥から出てきて、手鏡のように小さい鏡を見せてくれた。

 拳大の大きさの鏡、金属を磨いたものではなくガラス鏡で縁は簡素な銅細工のものが6ギルだと言う。

 両替商で手に入れた資金の大半が吹っ飛びそうな金額を言われて血の気が引いた。想像の5倍以上高い。

 前世の記憶にある100円ショップで売ってそうな鏡の質なのに金貨6枚。

 とてもじゃないけど買えない。しかも携帯用にカバーや蓋が付いていない剥き出しの状態なので持ち歩いたら簡単に割れそうなのだ。


 予算が足りないようだと謝罪して店を出た。金が無いのに来るなよという視線を背中に感じて、工房から一目散に遠ざかることにした。



 だが、鏡を見せてもらって自分の顔が初めてわかった。

 想像していたのより悪くない。

 前世の青年の面影は一切なく鼻筋が綺麗で、ちょっと眉が濃く生意気な顔立ちをしていた。兄弟の中では長兄に一番似ているところも満足だ。

 買えなかったけど自分の顔を確かめることができたので良しとしよう。


 鏡の値段に怖くなってこの町での買い物は慎重にした方が良いと考え、古着屋を見つけて町で出歩いても違和感のない服の上下を揃えて買った後、行商人のオッサンの家に戻り彼の家族に挨拶をして夕食を共にした。




 翌日、算術の授業が始まった。

 今回の生徒たちはすでに算術を習得している者たちだ。だから、新しい俺の計算法の利便性を値踏みするために集まっている。

 品定めするような目で俺と向き合って座る商人たち、いや生徒たち。アビーたちに教えたのと違って俺はとても緊張してきた。


 俺の計算法の肝である筆算には書くものが必要なので、大きめの木の板とペンを用意してもらった。


 毎日の授業で使った木の板は用を終えると薪に変わった。村ではあり得ないくらい贅沢な木の使い方である。


 教え始めて3日もすると生徒たちとの距離感が近くなった。町の話、エラン村の話、いろいろと雑談も増えてくる。

 10日もすれば、行商人のオッサンの妻が、うちの娘のうち3人はまだ結婚してないといった話をするようになった。


 これって「うちの娘どう?」の一歩手前なのか。


 少なくともこれは俺を引き留めて仲良くすべきかどうかのちょっとした探りだと思う。探りの段階では何を知ってもお互いにダメージを負わない。


 具体的な話が進んでいるわけではないが、俺はこういう話に慣れていないから妙に意識してしまう。


(俺のハーレム街道は初めの町カルタポルトで途切れるわけにはいかない。)

などと粋がっていても、初心なのだ。


 しかし、親が俺を取り込もうとしているのではなくて、娘の誰かが俺を気に入っている可能性もあるのではないか。

 そう考えたら無下にはできない。


 それなら俺も探りを入れさせてもらう。

 

 一族で商売をやっているけど、3人の独身の娘たちはどこかに嫁ぐのか、彼女らの将来について本人たちにさり気なく質問してみた。

 彼女らは家を手伝うのだそうだ。何の迷いもなく3人ともがそう答える。

 彼女たちのスキルは知らないけど、スキルでの商売適性はこういう一家総出で仕事を守っていく家族にとってはあんまり関係ないのかもしれない。



 まだ自分の恋心さえ俺にはわからないが、自分に恋心があったとしてもこの町で定住を考えている女性は受け入れられない。

 とにかく各地を旅する予定の俺のハーレムの一員なるための適性試験、この娘たちは全員不合格だ。



 婿にしようという話が勝手に盛り上がっても困るので、俺はしばらくの間は旅に出て各地を回ってみるという話をした。予防線というやつだ。

 旅の話をした時、結婚している長女は他人事のようにニヤニヤと笑っていた。

 自意識過剰と思われたんだろう。そうさ、彼女は間違ってないと思う。女の勘は鋭い。

 

 その後、彼女たちとの距離感が遠くなった。あまりにあっさり過ぎて少し寂しい。あんなに家族に加える気満々に見えたのにいきなり他人扱いだ。

 まあ、他人なんだけど。なんだかフラれた気分がするんだよね。

 

 町の娘だから小綺麗な身なりをしているけど、笑顔はアビーの方が可愛かったし惜しいことはない。

 

 少し悔しいからそう考えることにした。


 

 行商人の一家はすでに算術を一通り終えていたので、九九の暗唱を重点的に行い、掛け算までは駆け足で終わらせ、割り算の筆算を重点的に教えることになった。

 どうも割り算はハードルが高いらしい。暗算では頭の中で掛け算を反転させるのでそこでわかりにくくなる人がいるようだが、筆算では掛け算をわざわざ反転させずに掛け算と引き算で計算ができる。

 授業が大方終わった頃には筆算の持つ計算間違いを見直せるという点に特に関心を示したようだった。

生徒として実に彼らは優秀だった。


 24日で9人にちゃんと習得させて、俺は約束通りの報酬を受け取り、無事にお役御免となった。


 これで予定の30日からすれば6日分の時間を俺は儲けた。彼らも時間を儲けた。町での初仕事としては素晴らしい結果じゃないだろうか。


 俺は長兄を探したいということを話して、算術の教師としての勤め先を紹介してもらう件は一旦棚上げしてもらった。

 算術の教師をする気はもうないけど、これで丸く収まったと信じたい。


(嘘ばっかりだな俺、自分の願望には滅茶苦茶正直なのになぁ。)


 俺は行商人と青年はまたどこかに行ってしまったから彼らに挨拶はできなかったが、家族にお世話になったお礼を言って行商人の家を後にした。


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